神様自学

天ノ谷 霙

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月明かりの下

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月明かりの下。狼が一匹、歩いていました。月を見上げ、そっと呟きます。
「明日は満月。満月の下ならば、我らも人間の姿になれる。あぁ、楽しみだわ。あと数時間が、待ち遠しい…っ!」
狼はそのまま、森の奥の家に隠れるように戻りました。そこはまるで、人間の家のような可愛らしいお家でした。そこに敷かれた布団にくるまり、先に眠っていた親の隣ですやすやと寝息を立て始めました。
翌日。狼が起きました。いえ、狼ではないのかもしれません。そこにいたのは、15、6歳の人間の女の子でした。ここに住む狼は、満月の日だけ、人間に化けられるのです。
女の子はさっそく人間の街へ出かけました。

人間の街は先月来た時よりも騒がしく、人が溢れていました。知り合いに話を聞くと、
「ああ、今日は満月なのね。今日はこの国の王子様が来るのよ。一目見たいっていう人で広場は大賑わいよ」
そう答えました。
「…王子、様?」
「この国を治める一番偉い人の子供よ。将来はこの国を治める一番偉い人になるの」
「王子…ありがとう!」
女の子はお礼を言って、走って広場の方に向かいました。人混みをかけわけて、前の方へ。少しずつ、王様と王妃様、そして王子様の姿が見えました。まだその顔に幼さを残しながらも、凛々しく、王族らしくその場に座っていました。女の子はしばし、王子様に見惚れていました。あんなに格好いい男の子を、見たことがありませんでしたから。
その時、ふと王子様の視線が動きました。王子様はたくさんの人を眺め、そして、一瞬、女の子を見て視線を止めました。本当は女の子を見ていなかったのかもしれませんが、女の子は目が合ったと思い、びっくりしてその場から立ち去ってしまいました。

少し歩いて、森の手前の木陰で休むことにしました。びっくりしたからか、慌てて走ったからか、胸がドキドキしています。どうにか落ち着けよう、と女の子は昔から好きだった歌を歌いました。とても綺麗な声で、歌詞は歌わずに。
「あ、あの…?」
声をかけられて顔を上げると、そこには先程遠くから眺めた王子様がいました。歌に集中していて、人が来るのに気付きませんでした。人の姿になれたからと浮かれていると、敵対種族から殺されてしまうのに。女の子はそう思い、慌てて立ち上がりました。何を言われるのだろう、と体を強張らせていると、王子様は目をキラキラと輝かせながら言いました。
「今の歌、凄い綺麗だった!何という歌なんだ?」
予想外の反応に、女の子は戸惑いながらも答えます。
「…あ、えと…っありがとう。でも、題名はないの…」
「そうなんだ。僕はシュレン。ねぇ、君の名前は?」
「セレネ、です」
「セレネか。良い名前だね。…ねぇ、もう一度歌ってくれないか?なんだか、とても落ち着くんだ」
「…うん」
女の子は嬉しそうに微笑み、そして歌を紡ぎ始めました。今度は、歌詞まで。

月よ  我らの一族に  其方は何を想う
満月の時しか生きれぬ  我らのことを
其方に問う  一族の行く末を  
星よ  我らの見つめる其方らは  獣と化した 
我を見て  其方はきっと  想うだろう
我らを哀れみ  泣くだろう
しかし  忘れないで欲しい  我らは
その時だけで  幸せを手にしたことを

シュレンは穏やかな表情で歌を聴いていました。そして夕暮れ時が近付いて、帰って行きました。送るよ、と女の子に言いましたが、女の子はそれだけは拒否しました。狼であることを知られたくなかったからです。
「もう少し一緒にいたかったな」
「ごめんね。私はしばらくここから離れるの。でも満月の日には戻って来るわ。ここの満月は、とても綺麗だから」
「わかった。来月も再来月も、必ず来るよ」
「うん、待ってるわ」
そんな別れの挨拶を交わし、2人はその場を後にしました。
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