225 / 812
月明かりの下
しおりを挟む
月明かりの下。狼が一匹、歩いていました。月を見上げ、そっと呟きます。
「明日は満月。満月の下ならば、我らも人間の姿になれる。あぁ、楽しみだわ。あと数時間が、待ち遠しい…っ!」
狼はそのまま、森の奥の家に隠れるように戻りました。そこはまるで、人間の家のような可愛らしいお家でした。そこに敷かれた布団にくるまり、先に眠っていた親の隣ですやすやと寝息を立て始めました。
翌日。狼が起きました。いえ、狼ではないのかもしれません。そこにいたのは、15、6歳の人間の女の子でした。ここに住む狼は、満月の日だけ、人間に化けられるのです。
女の子はさっそく人間の街へ出かけました。
人間の街は先月来た時よりも騒がしく、人が溢れていました。知り合いに話を聞くと、
「ああ、今日は満月なのね。今日はこの国の王子様が来るのよ。一目見たいっていう人で広場は大賑わいよ」
そう答えました。
「…王子、様?」
「この国を治める一番偉い人の子供よ。将来はこの国を治める一番偉い人になるの」
「王子…ありがとう!」
女の子はお礼を言って、走って広場の方に向かいました。人混みをかけわけて、前の方へ。少しずつ、王様と王妃様、そして王子様の姿が見えました。まだその顔に幼さを残しながらも、凛々しく、王族らしくその場に座っていました。女の子はしばし、王子様に見惚れていました。あんなに格好いい男の子を、見たことがありませんでしたから。
その時、ふと王子様の視線が動きました。王子様はたくさんの人を眺め、そして、一瞬、女の子を見て視線を止めました。本当は女の子を見ていなかったのかもしれませんが、女の子は目が合ったと思い、びっくりしてその場から立ち去ってしまいました。
少し歩いて、森の手前の木陰で休むことにしました。びっくりしたからか、慌てて走ったからか、胸がドキドキしています。どうにか落ち着けよう、と女の子は昔から好きだった歌を歌いました。とても綺麗な声で、歌詞は歌わずに。
「あ、あの…?」
声をかけられて顔を上げると、そこには先程遠くから眺めた王子様がいました。歌に集中していて、人が来るのに気付きませんでした。人の姿になれたからと浮かれていると、敵対種族から殺されてしまうのに。女の子はそう思い、慌てて立ち上がりました。何を言われるのだろう、と体を強張らせていると、王子様は目をキラキラと輝かせながら言いました。
「今の歌、凄い綺麗だった!何という歌なんだ?」
予想外の反応に、女の子は戸惑いながらも答えます。
「…あ、えと…っありがとう。でも、題名はないの…」
「そうなんだ。僕はシュレン。ねぇ、君の名前は?」
「セレネ、です」
「セレネか。良い名前だね。…ねぇ、もう一度歌ってくれないか?なんだか、とても落ち着くんだ」
「…うん」
女の子は嬉しそうに微笑み、そして歌を紡ぎ始めました。今度は、歌詞まで。
月よ 我らの一族に 其方は何を想う
満月の時しか生きれぬ 我らのことを
其方に問う 一族の行く末を
星よ 我らの見つめる其方らは 獣と化した
我を見て 其方はきっと 想うだろう
我らを哀れみ 泣くだろう
しかし 忘れないで欲しい 我らは
その時だけで 幸せを手にしたことを
シュレンは穏やかな表情で歌を聴いていました。そして夕暮れ時が近付いて、帰って行きました。送るよ、と女の子に言いましたが、女の子はそれだけは拒否しました。狼であることを知られたくなかったからです。
「もう少し一緒にいたかったな」
「ごめんね。私はしばらくここから離れるの。でも満月の日には戻って来るわ。ここの満月は、とても綺麗だから」
「わかった。来月も再来月も、必ず来るよ」
「うん、待ってるわ」
そんな別れの挨拶を交わし、2人はその場を後にしました。
「明日は満月。満月の下ならば、我らも人間の姿になれる。あぁ、楽しみだわ。あと数時間が、待ち遠しい…っ!」
狼はそのまま、森の奥の家に隠れるように戻りました。そこはまるで、人間の家のような可愛らしいお家でした。そこに敷かれた布団にくるまり、先に眠っていた親の隣ですやすやと寝息を立て始めました。
翌日。狼が起きました。いえ、狼ではないのかもしれません。そこにいたのは、15、6歳の人間の女の子でした。ここに住む狼は、満月の日だけ、人間に化けられるのです。
女の子はさっそく人間の街へ出かけました。
人間の街は先月来た時よりも騒がしく、人が溢れていました。知り合いに話を聞くと、
「ああ、今日は満月なのね。今日はこの国の王子様が来るのよ。一目見たいっていう人で広場は大賑わいよ」
そう答えました。
「…王子、様?」
「この国を治める一番偉い人の子供よ。将来はこの国を治める一番偉い人になるの」
「王子…ありがとう!」
女の子はお礼を言って、走って広場の方に向かいました。人混みをかけわけて、前の方へ。少しずつ、王様と王妃様、そして王子様の姿が見えました。まだその顔に幼さを残しながらも、凛々しく、王族らしくその場に座っていました。女の子はしばし、王子様に見惚れていました。あんなに格好いい男の子を、見たことがありませんでしたから。
その時、ふと王子様の視線が動きました。王子様はたくさんの人を眺め、そして、一瞬、女の子を見て視線を止めました。本当は女の子を見ていなかったのかもしれませんが、女の子は目が合ったと思い、びっくりしてその場から立ち去ってしまいました。
少し歩いて、森の手前の木陰で休むことにしました。びっくりしたからか、慌てて走ったからか、胸がドキドキしています。どうにか落ち着けよう、と女の子は昔から好きだった歌を歌いました。とても綺麗な声で、歌詞は歌わずに。
「あ、あの…?」
声をかけられて顔を上げると、そこには先程遠くから眺めた王子様がいました。歌に集中していて、人が来るのに気付きませんでした。人の姿になれたからと浮かれていると、敵対種族から殺されてしまうのに。女の子はそう思い、慌てて立ち上がりました。何を言われるのだろう、と体を強張らせていると、王子様は目をキラキラと輝かせながら言いました。
「今の歌、凄い綺麗だった!何という歌なんだ?」
予想外の反応に、女の子は戸惑いながらも答えます。
「…あ、えと…っありがとう。でも、題名はないの…」
「そうなんだ。僕はシュレン。ねぇ、君の名前は?」
「セレネ、です」
「セレネか。良い名前だね。…ねぇ、もう一度歌ってくれないか?なんだか、とても落ち着くんだ」
「…うん」
女の子は嬉しそうに微笑み、そして歌を紡ぎ始めました。今度は、歌詞まで。
月よ 我らの一族に 其方は何を想う
満月の時しか生きれぬ 我らのことを
其方に問う 一族の行く末を
星よ 我らの見つめる其方らは 獣と化した
我を見て 其方はきっと 想うだろう
我らを哀れみ 泣くだろう
しかし 忘れないで欲しい 我らは
その時だけで 幸せを手にしたことを
シュレンは穏やかな表情で歌を聴いていました。そして夕暮れ時が近付いて、帰って行きました。送るよ、と女の子に言いましたが、女の子はそれだけは拒否しました。狼であることを知られたくなかったからです。
「もう少し一緒にいたかったな」
「ごめんね。私はしばらくここから離れるの。でも満月の日には戻って来るわ。ここの満月は、とても綺麗だから」
「わかった。来月も再来月も、必ず来るよ」
「うん、待ってるわ」
そんな別れの挨拶を交わし、2人はその場を後にしました。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』
本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」
かつて、私は信じていた。
優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な──
そんな普通のお兄ちゃんを。
でも──
中学卒業の春、
帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、
私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった!
家では「戦利品だー!」と絶叫し、
年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、
さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!?
……ちがう。
こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない!
たとえ、世界中がオタクを称えたって、
私は、絶対に──
お兄ちゃんを“元に戻して”みせる!
これは、
ブラコン妹と
中二病オタク姫が、
一人の「兄」をめぐって
全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──!
そしていつしか、
誰も予想できなかった
本当の「大好き」のカタチを探す、
壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる