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花束のお届けものです 利羽
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私は花束を持った男の子に近付いた。そして勇気を出して話しかけた。
「ねぇ、こんにちは」
男の子はびっくりしたらしく、目を大きく開いた。やがて、小さな声で
「…こんにちは」
と返してくれた。私はその会話を大人以外と、しかも自分からするのが初めてだったので嬉しくなって会話を続けた。
「私、蝶野 利羽って言うの。貴方の名前は?」
「…し、知らない人に名乗るなって言われてて…」
「私、今名前言ったわよ?私の名前知ったのだから、知らない人じゃないわよ」
にこにこと笑って男の子の返事を待つ。すると、男の子は顔を花束で隠してこう言った。
「僕、林蒼。」
「あおくん?宜しくね」
私は手を差し出した。しかし男の子は花束を抱えているから無理だ、と首を横に振った。
「じゃあまた今度しましょう。誰か入院しているの?」
「うん、おかあさんが…」
「そっか。大変ね」
私は他人事のようにそう呟いた。
「りうちゃんも、入院してるでしょ?」
青っぽい入院服に、暗いベージュ色のカーディガンを羽織った私を見て、あおくんはそう言った。
「まぁ、そう、かな。でも私のお母さんは、私のこと重荷にしか思ってないから」
「おも、に?」
「嫌みたい。私が弱くて、病気ばっかりなの」
「そう、なの?でも」
あおくんはそっと呟いた。
「子供がやな思いしてるの、おかあさんもやなんじゃないかな」
私は、首を横に振った。お母さんはそうじゃないの、とでも言うように。それ以上、その話は続けなかった。
「ねぇ、あおくんのお母さんのところ、私もお見舞い行って大丈夫かしら」
「え。でも…」
「利羽ちゃーんっ」
遠くで、私の名前を女医さんが呼んでいるのが聞こえた。
「ちょっと、待ってて!」
私は急いで女医さんの元へ向かった。
「あの、はやし…さん?のお見舞いって私が行っても良いですか…?」
「林さん?なんで?」
「さっき、はやしさんの子供とともだちになって…それで」
「そうなの?良いわよ。私も行くわ」
「本当?ありがとうっ」
私はあおくんのところに戻って、お見舞いに同行することにした。女医さんは少し離れて後ろをついてきてくれる。病院内ですれ違う人は、微笑ましそうに私達を見ていた。
「なんだか、変な感じがするわね」
「そ、そう…だねっ」
「お母さんの病室はどこ?」
「えっ…えっと…ここ?」
ドアを開けると、左奥のベッドで体を起こして空を見上げている女性がいた。なんとなく雰囲気があおくんに似ている。
「おかあさん」
「蒼?どうした…わぁっ」
照れながら、それでも嬉しそうにお母さんに花束を手渡す。振り向いたあおくんのお母さんは驚いて涙ぐんでいる。
「ありがとう…っそっちの女の子は?」
「えっと、さっき知り合って…」
「蝶野 利羽と申します。入り口であおくんと会って、仲良くなったので…一緒に、来ました」
「そうなの?あまり動けないけど、歓迎するわ」
あおくんのお母さんは嬉しそうに笑った。私はそれを見て嬉しくなった反面、同時に悲しみに襲われた。
私の、お母さんとは…全然違う…。
親の心なんて分からないけれど、お母さんは私を嫌がっている。病気のせいにしても仕方ないのは、もう何年も前から気付いている。
「ありがとうございます…っ」
消え入りそうな声で、そう答えた。
「どうしたの…?」
「大丈夫??」
あおくんと、あおくんのお母さんが私を心配してくれる。心配もされたことなくて、私の心は震えた。
「初めて…で。良いなぁ…って…」
断片的な言葉しか出せない。ぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。それに対して私は拭うこともせずにただ立っていた。
ぎゅうっと、あおくんのお母さんに抱きしめられた。それは、お母さんとしたのも遠い昔の、懐かしい抱擁だった。
「あ、りがとう…ござい、ます…っ」
私はその温もりに身を任せ、優しさの中に包まれた。そしてそっと、目を閉じた。
「ねぇ、こんにちは」
男の子はびっくりしたらしく、目を大きく開いた。やがて、小さな声で
「…こんにちは」
と返してくれた。私はその会話を大人以外と、しかも自分からするのが初めてだったので嬉しくなって会話を続けた。
「私、蝶野 利羽って言うの。貴方の名前は?」
「…し、知らない人に名乗るなって言われてて…」
「私、今名前言ったわよ?私の名前知ったのだから、知らない人じゃないわよ」
にこにこと笑って男の子の返事を待つ。すると、男の子は顔を花束で隠してこう言った。
「僕、林蒼。」
「あおくん?宜しくね」
私は手を差し出した。しかし男の子は花束を抱えているから無理だ、と首を横に振った。
「じゃあまた今度しましょう。誰か入院しているの?」
「うん、おかあさんが…」
「そっか。大変ね」
私は他人事のようにそう呟いた。
「りうちゃんも、入院してるでしょ?」
青っぽい入院服に、暗いベージュ色のカーディガンを羽織った私を見て、あおくんはそう言った。
「まぁ、そう、かな。でも私のお母さんは、私のこと重荷にしか思ってないから」
「おも、に?」
「嫌みたい。私が弱くて、病気ばっかりなの」
「そう、なの?でも」
あおくんはそっと呟いた。
「子供がやな思いしてるの、おかあさんもやなんじゃないかな」
私は、首を横に振った。お母さんはそうじゃないの、とでも言うように。それ以上、その話は続けなかった。
「ねぇ、あおくんのお母さんのところ、私もお見舞い行って大丈夫かしら」
「え。でも…」
「利羽ちゃーんっ」
遠くで、私の名前を女医さんが呼んでいるのが聞こえた。
「ちょっと、待ってて!」
私は急いで女医さんの元へ向かった。
「あの、はやし…さん?のお見舞いって私が行っても良いですか…?」
「林さん?なんで?」
「さっき、はやしさんの子供とともだちになって…それで」
「そうなの?良いわよ。私も行くわ」
「本当?ありがとうっ」
私はあおくんのところに戻って、お見舞いに同行することにした。女医さんは少し離れて後ろをついてきてくれる。病院内ですれ違う人は、微笑ましそうに私達を見ていた。
「なんだか、変な感じがするわね」
「そ、そう…だねっ」
「お母さんの病室はどこ?」
「えっ…えっと…ここ?」
ドアを開けると、左奥のベッドで体を起こして空を見上げている女性がいた。なんとなく雰囲気があおくんに似ている。
「おかあさん」
「蒼?どうした…わぁっ」
照れながら、それでも嬉しそうにお母さんに花束を手渡す。振り向いたあおくんのお母さんは驚いて涙ぐんでいる。
「ありがとう…っそっちの女の子は?」
「えっと、さっき知り合って…」
「蝶野 利羽と申します。入り口であおくんと会って、仲良くなったので…一緒に、来ました」
「そうなの?あまり動けないけど、歓迎するわ」
あおくんのお母さんは嬉しそうに笑った。私はそれを見て嬉しくなった反面、同時に悲しみに襲われた。
私の、お母さんとは…全然違う…。
親の心なんて分からないけれど、お母さんは私を嫌がっている。病気のせいにしても仕方ないのは、もう何年も前から気付いている。
「ありがとうございます…っ」
消え入りそうな声で、そう答えた。
「どうしたの…?」
「大丈夫??」
あおくんと、あおくんのお母さんが私を心配してくれる。心配もされたことなくて、私の心は震えた。
「初めて…で。良いなぁ…って…」
断片的な言葉しか出せない。ぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。それに対して私は拭うこともせずにただ立っていた。
ぎゅうっと、あおくんのお母さんに抱きしめられた。それは、お母さんとしたのも遠い昔の、懐かしい抱擁だった。
「あ、りがとう…ござい、ます…っ」
私はその温もりに身を任せ、優しさの中に包まれた。そしてそっと、目を閉じた。
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