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記憶hospital 蒼
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確か12年前の話。俺の一人称が、人前以外も「僕」だった時の話。
母が入院した。病名は難しくて覚えられなかった。小さいからか、母がそうなるのが初めてで心配だったからか、毎日お見舞いに行った。たまに花束を父から受け取って届けに行った。
ある日。ある初夏の日だった。抜けるような青空。メインディッシュに添えるように小さく端の方に現れた雲。草木の香りが夏を伝えに来ているようだった。
そんな中、お父さんから預かった色とりどりの花束を抱え、病院に向かって歩く。朝、お父さんは「大丈夫か~っ?」と心配していたが「大丈夫っ!」と僕は笑ってお父さんを見送った。
午後2時。家に鍵をかけて出発する。徒歩15分。子供の僕には2、30分にも感じられる長い時間を歩いて病院へ向かった。病院の前には芝生が広がっていて、入院している子供も遊べるようになっている。
僕は花束を抱えていたからか、あまりそっちを見ることは出来なかった。しかし奥から水色の入院服にベージュなのかグレーなのかよくわからない不思議なカーディガンを羽織った少女がやって来た。
「ねぇ、こんにちは」
いきなり話しかけられたことにびっくりして、少しの間固まってしまった。やがて状況を整理して挨拶する。
「…こんにちは」
女の子は挨拶を返したことに嬉しそうにして会話を続けた。
「私、××××って言うの。貴方の名前は?」
女の子の名前はあまり覚えてない。でも自己紹介されたのは覚えている。
「…し、知らない人に名乗るなって言われてて…」
「私、今名前言ったわよ?私の名前知ったのだから、知らない人じゃないわよ」
「僕、林蒼。」
「あおくん?宜しくね」
手を差し出されたが、花束を持っているので無理だ、と首を横に振った。すると女の子は、特に落胆した様子もなく。
「じゃあまた今度しましょう。誰か入院しているの?」
「うん、おかあさんが…」
「そっか。大変ね」
なんて話をしていた。そして、そろそろ向かおうと思った頃。
「ねぇ、あおくんのお母さんのところ、私もお見舞い行って大丈夫かしら」
そんなことを言い出した。僕は驚いた。そして不安になった。別の病気を貰って、どちらかが苦しむ姿は見たくなかったからだ。遠くから女の子の名前を呼ぶ声が聞こえたかと思うと、
「ちょっと、待ってて!」
と言って何処かへ行ってしまった。
戻ってきた女の子は、女医さんを連れてきた。大丈夫そうで、嬉しそうに歩く。僕も隣を必死について行った。
「なんだか、変な感じがするわね」
「そ、そう…だねっ」
「お母さんの病室はどこ?」
「えっ…えっと…ここ?……おかあさんっ」
「蒼?どうした…わぁっ」
ドアを開けてお母さんを呼ぶ。振り向いたお母さんは、僕が抱えた花束を見て感嘆の声を上げた。受け取ると幸せそうに笑った。
「ありがとう…っそっちの女の子は?」
「えっと、さっき知り合って…」
「××××と申します。入り口であおくんと会って、仲良くなったので…一緒に、来ました」
「そうなの?あまり動けないけど、歓迎するわ」
お母さんと僕と女の子で話していると、この雰囲気が初めてだという女の子は泣き始めてしまった。その様子が印象的で、その姿はよく覚えている。ぎゅうっと抱きしめられた女の子が、幸せそうに涙を流しながら笑うのを見て、僕も幸せな気分になった。その場面だけは、今も鮮やかに胸に刻まれている。
青空と女の子を抱きしめる母親の姿。病室の真っ白な背景。近くにあった植物の緑色。その全てが織り成すコントラスト。
それが、僕の一番古い記憶だった。
母が入院した。病名は難しくて覚えられなかった。小さいからか、母がそうなるのが初めてで心配だったからか、毎日お見舞いに行った。たまに花束を父から受け取って届けに行った。
ある日。ある初夏の日だった。抜けるような青空。メインディッシュに添えるように小さく端の方に現れた雲。草木の香りが夏を伝えに来ているようだった。
そんな中、お父さんから預かった色とりどりの花束を抱え、病院に向かって歩く。朝、お父さんは「大丈夫か~っ?」と心配していたが「大丈夫っ!」と僕は笑ってお父さんを見送った。
午後2時。家に鍵をかけて出発する。徒歩15分。子供の僕には2、30分にも感じられる長い時間を歩いて病院へ向かった。病院の前には芝生が広がっていて、入院している子供も遊べるようになっている。
僕は花束を抱えていたからか、あまりそっちを見ることは出来なかった。しかし奥から水色の入院服にベージュなのかグレーなのかよくわからない不思議なカーディガンを羽織った少女がやって来た。
「ねぇ、こんにちは」
いきなり話しかけられたことにびっくりして、少しの間固まってしまった。やがて状況を整理して挨拶する。
「…こんにちは」
女の子は挨拶を返したことに嬉しそうにして会話を続けた。
「私、××××って言うの。貴方の名前は?」
女の子の名前はあまり覚えてない。でも自己紹介されたのは覚えている。
「…し、知らない人に名乗るなって言われてて…」
「私、今名前言ったわよ?私の名前知ったのだから、知らない人じゃないわよ」
「僕、林蒼。」
「あおくん?宜しくね」
手を差し出されたが、花束を持っているので無理だ、と首を横に振った。すると女の子は、特に落胆した様子もなく。
「じゃあまた今度しましょう。誰か入院しているの?」
「うん、おかあさんが…」
「そっか。大変ね」
なんて話をしていた。そして、そろそろ向かおうと思った頃。
「ねぇ、あおくんのお母さんのところ、私もお見舞い行って大丈夫かしら」
そんなことを言い出した。僕は驚いた。そして不安になった。別の病気を貰って、どちらかが苦しむ姿は見たくなかったからだ。遠くから女の子の名前を呼ぶ声が聞こえたかと思うと、
「ちょっと、待ってて!」
と言って何処かへ行ってしまった。
戻ってきた女の子は、女医さんを連れてきた。大丈夫そうで、嬉しそうに歩く。僕も隣を必死について行った。
「なんだか、変な感じがするわね」
「そ、そう…だねっ」
「お母さんの病室はどこ?」
「えっ…えっと…ここ?……おかあさんっ」
「蒼?どうした…わぁっ」
ドアを開けてお母さんを呼ぶ。振り向いたお母さんは、僕が抱えた花束を見て感嘆の声を上げた。受け取ると幸せそうに笑った。
「ありがとう…っそっちの女の子は?」
「えっと、さっき知り合って…」
「××××と申します。入り口であおくんと会って、仲良くなったので…一緒に、来ました」
「そうなの?あまり動けないけど、歓迎するわ」
お母さんと僕と女の子で話していると、この雰囲気が初めてだという女の子は泣き始めてしまった。その様子が印象的で、その姿はよく覚えている。ぎゅうっと抱きしめられた女の子が、幸せそうに涙を流しながら笑うのを見て、僕も幸せな気分になった。その場面だけは、今も鮮やかに胸に刻まれている。
青空と女の子を抱きしめる母親の姿。病室の真っ白な背景。近くにあった植物の緑色。その全てが織り成すコントラスト。
それが、僕の一番古い記憶だった。
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