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私は、ずっとここにいた。主人の言葉に傷付いて、逃げて、気付いたらここにいた。それから生命の波長を感じて、衰弱しきっていた私はそこに逃げ込んだ。主人に教えられたニンゲン、という生物の赤子は、隠れるのにちょうど良かった。私は不思議とその体躯に馴染み、その赤子は私を心の中に取り入れた。ヒトなんて、大切なものを奪っていくいらないもので、無くなってしまえばいいって、ずっと思っていた。けれどその赤子の瞳から見た世界は何故だかキラキラと輝いて、主人様達が与え給うた世界は彩られて見えた。
私は大嫌いだったヒトという生き物が、少しだけ愛おしく感じた。私達にしては瞬きよりも短い間に、そのニンゲンは成長した。主人様に似た薄い薄い稲穂色の髪、朱色の瞳を持ったそのニンゲンは、幼い頃から私の力の影響を受けて育っていた。私もそのニンゲンを通して力を取り戻していたが、どうやら周りのヒトにはそれが奇異に見えるらしい。自重することを覚えたのは、そのニンゲンが8つになる頃だった。そのニンゲンは、ある特定の者を見ると脈拍が早くなり、頬が赤く染まっていた。私は最初病かと慌てた。ニンゲンは弱く脆い、そして儚い生き物だと主人様から教わっていた。そして、だからこそ美しい物語を紡ぐのだ、とも。私は脆弱なヒトが美しいことに甚だ疑問を抱いていたが、あれだけ瞳に美しきを映すニンゲンが紡ぐ物語だ。美しくない方がおかしいというもの。そんな風に考え始めていた。そのくらい考えが変わったのは、私が逃げ込んだニンゲンが感受性豊かで、さまざまな心を私に見せてくれたからだろう。そんなニンゲンを失うのは惜しいと思っていた。だからその特定の人物から離れるように促し、避けるような態度を取らせた。けれどそのニンゲンはそれを悔やみ、更に苦しんでしまった。私は理解が出来なかった。病の元凶から離れたというのに、どうしてそんなに悲しむのか。溢れるくらい涙を流すのか。声を殺して泣くのか。どうして、"また会いたい"、"謝りたい"だなんて思うのか。
私はふと、主人様の言葉を思い出した。
ニンゲンに存在するという"恋心"を知りたい。
他の者を見て、何を感じてそう思うのかを知りたい。
そんな主人様の命を、私は拒絶して逃げ出した。怖かったんだ。まだ私が上手く力を使いこなせなかった頃「化け狐」と呼んで猟銃で撃たれたことが忘れられず、主人様が「姉」と呼んで慕う方がニンゲンに失望して引きこもってしまった頃だったから。怖かった。怖かったよ。だって、主人様も同じようなことになるんじゃないかって。私を置いて、ニンゲンを優先して、いなくなるんじゃないかって。
でも、私も知りたくなってしまった。
私が逃げ込んだ"器"、"稲森 夕音"の恋心が、どう動くのかを、知りたくなってしまった。
私は大嫌いだったヒトという生き物が、少しだけ愛おしく感じた。私達にしては瞬きよりも短い間に、そのニンゲンは成長した。主人様に似た薄い薄い稲穂色の髪、朱色の瞳を持ったそのニンゲンは、幼い頃から私の力の影響を受けて育っていた。私もそのニンゲンを通して力を取り戻していたが、どうやら周りのヒトにはそれが奇異に見えるらしい。自重することを覚えたのは、そのニンゲンが8つになる頃だった。そのニンゲンは、ある特定の者を見ると脈拍が早くなり、頬が赤く染まっていた。私は最初病かと慌てた。ニンゲンは弱く脆い、そして儚い生き物だと主人様から教わっていた。そして、だからこそ美しい物語を紡ぐのだ、とも。私は脆弱なヒトが美しいことに甚だ疑問を抱いていたが、あれだけ瞳に美しきを映すニンゲンが紡ぐ物語だ。美しくない方がおかしいというもの。そんな風に考え始めていた。そのくらい考えが変わったのは、私が逃げ込んだニンゲンが感受性豊かで、さまざまな心を私に見せてくれたからだろう。そんなニンゲンを失うのは惜しいと思っていた。だからその特定の人物から離れるように促し、避けるような態度を取らせた。けれどそのニンゲンはそれを悔やみ、更に苦しんでしまった。私は理解が出来なかった。病の元凶から離れたというのに、どうしてそんなに悲しむのか。溢れるくらい涙を流すのか。声を殺して泣くのか。どうして、"また会いたい"、"謝りたい"だなんて思うのか。
私はふと、主人様の言葉を思い出した。
ニンゲンに存在するという"恋心"を知りたい。
他の者を見て、何を感じてそう思うのかを知りたい。
そんな主人様の命を、私は拒絶して逃げ出した。怖かったんだ。まだ私が上手く力を使いこなせなかった頃「化け狐」と呼んで猟銃で撃たれたことが忘れられず、主人様が「姉」と呼んで慕う方がニンゲンに失望して引きこもってしまった頃だったから。怖かった。怖かったよ。だって、主人様も同じようなことになるんじゃないかって。私を置いて、ニンゲンを優先して、いなくなるんじゃないかって。
でも、私も知りたくなってしまった。
私が逃げ込んだ"器"、"稲森 夕音"の恋心が、どう動くのかを、知りたくなってしまった。
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