神様自学

天ノ谷 霙

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竜胆

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「あ…ぅ…」
目の前の映像が消え、曇り空のような灰色の空間に私と虹だけが立っていた。隣にいる虹は唇を噛み、赤いその瞳から大粒の涙を流すだけ流していた。やがて膝からくずおれたので、私は側にしゃがんで支えた。虹は声を押し殺すようにして、思い出した過去を悔やむ。
「…あの後、噂で聞いたの…」
血の滲む唇を開き、空を見つめながら話しだした。それは恋使わたしを襲った理由であった。
「恋使の能力ちからがあれば、ヒトと私達のような種族違いの恋も報われる、と。そして、恋使の血肉を自らの肉体に取り入れることが出来れば人間になれる、と」
それは、恋使の能力を変に拡大解釈したものだった。曲がり過ぎていると感じるくらい、事実からかけ離れている。けれど噂を聞く者はそれが嘘だと知ることは出来ない。この世界に存在している恋使は2人のみ。そのうち1人は、遠い昔に失踪したというのだから。そして長らくいなかった筈のその役職に、新たな人物が就任した。それが人間であるならば、後者の噂が出るのも仕方がないのかもしれない。
「それは、真実では、ありません」
「…分かってるわ。けれど、私には嘘か本当かの判断が出来ないくらい盲目になっていたの。自分の犯した罪に目を背けたい、その一心で」
虹は涙を拭って立ち上がった。もう涙をこぼさないように上を見ながら、唇を一文字いちもんじに強く結ぶ。
「出来ることならもう1度、清治郎せいじろうに会いたい。約束が守れなかったことを謝って、許されるなら、許されたなら、ずっと愛していると伝えたい」
悲しそうに微笑みこちらを見る虹に、心が共鳴する。私も伝えたい。ずっと好きだと、側に居たいと、羅樹に言いたい。
1人と1柱の想いが灰色の空間に溢れ出し、やがてそれは花の種となる。淡い桃がかった金の光が弾け、灰の空間を色鮮やかな景色へと変えていく。アジアンタム、ベゴニア・センパフローレンス、待宵草まつよいぐさ、スターチス、アネモネ、デイジー、菖蒲、リナリア、メランポジウム、レモン、エーデルワイス。そして竜胆りんどう
恋使わたしが恋に関わる度、その人に合った花が咲いていた。恋に合わせて現れたその花々が咲いていく。竜胆の花だけは、まだ花言葉を伝えていないけど。
「虹様」
白い竜胆の花を摘み、虹に渡す。勝手に動く唇が、背中を押す言葉を紡ぐ。
「竜胆の花言葉は、貴方の悲しみに寄り添う。純血を捧ぐ白の花弁は、貴方に何か悲しいことが起こることに気付いていたのかもしれませんね」
虹は震える手で花を受け取り、ぎゅっと胸元に抱き締めた。耐えきれず、一雫の涙が頬を伝って竜胆に露を落とした。
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