神様自学

天ノ谷 霙

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花は私を呼ぶ導

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"愛している"

その言葉は深く、深く響いて来た。水底に沈むように、奥深くまで沈んでいた私の意識を呼び起こす程に。
嗚呼、何て高尚で清らかな叫び声。
戻らなきゃ、届けなきゃ。それが私の役目だから。あぁ、でもどうして?体が凄く重たいな。恋の心を聞き届けなきゃ。稲荷様に、知らせなきゃ。ヒトは、人は、こんなに強い想いを持てるんです、って。
その時、私の手を引っ張り上げる何かを感じた。温もりは定かではなかったけど、意志の強さを感じた。解けぬようにしっかりと私の手を掴んだそれは、何よりも早く私を上に引き上げていく。流れ込んでくる心も願いも言葉も、全部私を引っ張っていく。
帰らなきゃ。花が呼んでる。こん様の想いに反応して咲いた花が、花言葉が私を誘う。
夕音これに手を出すとは、主らも偉くなったものだ』
突風の中に紛れる、聞き覚えのある声。視界の端で黄金の糸が揺れる。抱き締めるように首元に回された腕。それに指先で触れると、忘れていた音が聞こえ始めた。これは4月に聞いた音。首だけを動かして上を見ると、やはり私と同じ、私よりも濃い赤の瞳が嬉しそうに細められた。
『夕音』
「はい、稲荷様。ただいま戻りました」
つられて緩んだ頬に、やっと地に足が付いた気がする。何かが振り払われて、私が"私"として帰ってきたような気分だ。そして、帰って来たからにはきちんと役目を全うせねばならない。稲荷様から視線を外して、真っ直ぐに目の前を見る。私に怯えながらも想い人を守ろうと手を広げている紺様。
ごめんなさい。私を嗜めてくれたのに、私の我儘を聞いてせん様の元まで連れて来てくれたのに、その私が敵になるなんて。
私は手を前に伸ばして、私の中に沈んでいた花を具現化していく。いつもは勝手に現れる花を自ら呼び出すのは、何だか不思議な気分だ。私の中心にある大事なものを取り出すような、かといって喪失感に苛まれるわけでもなく、温かい気分になる。
きっとこれは、"晴れ"の気配。
「赤い菊の花言葉は、あなたを愛しています。気高き心を持つ貴方の想い、想い人に届きますように」
偶然か、必然か。私が言い終えると共に扇様が目を覚ました。紺様の心底ホッとしたような表情と心の声が、優しく響いてくる。
良かった、と涙を流す紺様の瞳を指先で拭って、扇様は穏やかに笑った。
「貴方の声、聞こえたわ。だから、返事を」
少しだけ体を起こして、額を合わせる2人。
「私も愛しているわ、紺様」
その凛とした声に重なるように、私の手元で赤い花弁が美しく咲き誇った。
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