神様自学

天ノ谷 霙

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友人と呼ぶ声がする

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"晴れ"て結ばれた2人を祝福する声が上がる。その騒がしさに起こされたのか、せん様のお父様も使用人達も、私に吹き飛ばされた彼らが皆意識を取り戻した。そして私を見るなり、ヒッと小さく悲鳴を上げて怯えた顔を浮かべる。
「ば、化け物!」
「魔物!」
「誰がこんなものをここに連れて来た!」
「今すぐ払え!」
口々に向けられる罵詈雑言を、ただ耳に通すことしか出来なかった。紡がれた言葉は取り消せない。私の意識は奥底に沈み、別の何者かの声だったとしても、だ。桜色に発光する髪の先も元に戻り、光の花弁を揺らす国花が無くなったとしても、私が放った言葉を消すことは出来ない。取り返しのつかない過ちをしたのだと気付いていても、ただ呆然とするしかなかった。
鈴の音のような凛とした声が、石庭に響くまでは。
「待ちなさい、その者はわたくしの友人です。無礼を働く事は許しませんよ」
体を起こした扇様が、厳しい瞳で獲物をこちらに向ける使用人達を嗜めた。近くにいたこん様が目を見開いて肩を掴む。
「扇!」
その悲痛な声が、扇様を想ってのことだとは扇様もよく理解していた。だからこそ扇様は微笑んで、掴まれた手を離し、優しく握り返した。
「私、眠ってはいたのだけど声は聞こえていたの。私じゃない目線で、一連の出来事は全て見ていたの」
それはきっと、扇様に宿る奥方様の目。数百年前に生を終えた筈の彼女は、子孫のためにと記録を手伝ってくれたのだ。私が見せることの出来ない記録を、記憶として。
「お父様は、私の体を心配して夕音を問い詰めました」
「…そ、そうだ!私は父としてお前が目覚めなかったらどうしようかと…っ」
「それは、貴方の娘である私ですか。それともですか」
射抜くようなその瞳に、彼はびくりと体を震わせる。
「形だけで何の意味もない儀式を繰り返すことを優先した貴方より、血を流すことを心配し解決策を出してくれた友人の方が信用出来ます。必ず目覚めると断言してくれた彼女に掴みかかり、責任を取れと喚いたのは貴方です。意趣返しに備えず、いざ返されれば無様に転げ回り、目を覚ませば怯み、娘の友人に雑言を浴びせるその体たらく。一国家の当主が聞いて呆れます!」
「…っヒ、あ、せ、扇…?」
「思い上がりも甚だしい!そうやって形にばかり囚われるから苦しみ続けた者の気持ちも汲めずに怒りを買うのです!」
あまりの剣幕に、私も一瞬怯んでしまった。それに気付いたのか扇様は私の方を向いて、小さく微笑む。
「儀式をしたからかしら。その桜に宿る声が聞こえるような気がするの」
「声…?」
「『夕音は私達の声が聞こえるから、寄り添ってくれるから、だから向けられる敵意に対抗しなければと思った。でも一度に皆で宿るにはあまりに力が強すぎたみたいね。ごめんなさい、やり過ぎたわ』って」
「…あっ」
扇様が滑るように立ち上がり、私の元に近付く。手が握られて、私はその温かさに体を震わせた。
「誰よりも私のことを想って尽力してくれた貴方を、私はこれからも友人と呼びたいわ」
「あっ…あぁ…っ」
わかって、くれる人がいる。
目の奥が酷く熱を帯び、声にならない声で私は咽び泣いた。
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