神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
513 / 812

1月27日 幻の代償

しおりを挟む
帰路を歩む中、話の糸口を探していた私に羅樹が先に口を開いた。
「今日はずっと下ろしてたの?」
「へ?」
その視線が髪に注がれていることに気付き、私は小さく頷いた。問い掛けてきた割にはその後の相槌も何となく素っ気ないもので、会話は弾まない。
「あ、朝も言ったけど急いでたし。結ぼうにもしっかりした櫛がないと、私の長さじゃちゃんと結べないから」
「うん」
流石に大きくてしっかりした櫛を持ってる人は友人達の中にいなかった。演劇部や手芸部なら持っているだろうという話は出たが、わざわざ取りに行ってもらうのは忍びなかったので遠慮したのだ。
言い訳のようになってしまった説明に冷や汗をかきながら、羅樹の機嫌を伺う。何だかいつもと違って、少し険しい顔をしている気がする。長い付き合いだからこそわかる程度のような、いつもと変わらないような、その程度だ。
「ら、羅樹?」
「また疲れが出てるのかもね。帰ったらゆっくり休んだ方が良いよ。あ、熱も測った方が良いかも。危なそうだったら明日も休んで…」
「羅樹!」
私が名前を叫ぶと、羅樹は目をぱちくりとして私の方を向いた。やっぱり変だ。私は眉を寄せて首を傾げた。
「何を怒ってるの?私が何かしたなら謝るから、ちゃんと説明して」
「…え?」
私の言葉に、羅樹は何度かその大きな水色の瞳を瞬く。「おこ、る」と壊れた機械のように呟くと、顔を赤く染めてそっぽを向いてしまった。羅樹の行動が理解出来なくて、今度は私が不機嫌になる。
「何?」
「ごめん、違う…怒ってない、よ」
「嘘。ならさっきの不機嫌そうな態度は何?」
「…そ、れは…」
さっきの饒舌は何処へやら。歯切れ悪く口の中でモゴモゴと呟く羅樹に、鋭い目を向ける。羅樹は何かに納得しているが、私は何が何やらわかっていないのだ。羅樹は罰が悪そうな顔をすると、きょろきょろと辺りを見回した後で私を真っ直ぐ見つめた。
「夕音って、髪を下ろしてると凄く雰囲気が変わるよね」
「うん?」
「皆が見てた。3組の人も他のクラスの人も、皆夕音に注目してたよ。それがちょっと嫌だったみたい。当たってごめんね」
「…んん?」
羅樹の言葉の意味が分からなくて、理解するのに10秒くらい要した。そんなの、まるで。
「ヤキモチ妬いたってこと?」
半信半疑どころか9割疑った状態で問い掛けると、羅樹は一瞬硬直して、恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべた。その笑顔にサクッと心臓を貫かれた後、その表情の意味を飲み込む。
「そんな恋人みたいな…」
「恋人でしょ?」
私がいまいち飲み込めていない現実を、羅樹は当然のように突きつけてくる。恥ずかしさで倒れてしまいそうになりながら、良い振りが来たと口を必死に動かす。
「なら、恋人なら、今週末とか、出掛けない?」
しどろもどろになりながら言葉を紡ぐ。チラッと羅樹の顔を見上げると、きょとんとしていた顔がみるみる明るくなって、嬉しそうに微笑んだ。その笑顔にも胸の奥が熱くなる。
「いいよ!何処行こうか?」
「えぇっと…」
後の帰路は、デートの計画立案に使われた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

讃美歌 ② 葛藤の章               「崩れゆく楼閣」~「膨れ上がる恐怖」

エフ=宝泉薫
青春
少女と少女、心と体、美と病。 通い合う想いと届かない祈りが織りなす終わりの見えない物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...