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Valentine’s day2 桜
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「わっ!?」
引っ張る力が割と強くて、よろけながら振り返る。ばっと視界いっぱいに飛び込んで来たのは、濃い黒にも見える赤みがかった茶色の瞳。澄んだ2つの双眸は真っ直ぐこちらを見つめている。
「桜」
俺の名前を呼ぶ声は、その姿は、明のもので。驚いた俺は思わず硬直してしまった。それに不思議そうに首を傾げた明は、他の人が来る気配を感じたのか俺の腕を引いて、先程来たのとは反対方向の出口へと向かった。
学校の最寄りと言えど、学校側ではない方向にはほとんど来ないため見覚えのない街並みに繰り出すことになる。明は経験があるのか、迷った様子を見せずただ俺の腕を引いてずんずんと先に進んでいく。先へ先へと進む明の横顔が何だか必死に見えて、可愛いという感想しか浮かんでこなかった。思わず零れ落ちそうになった言葉を飲み込み、明に連れ出されるまま進む。
到着したのは、人気のない川辺であった。遠くから子供の声が聞こえてくるのに、この辺りには誰もいない。川のせせらぎだけが辺りに染み入る、そんな空間だった。
「桜、あの、これ」
要件を聞く前におずおずと差し出されたのは、先程明が大切そうに持っていた紙袋だった。
そんなことをされたら、期待してしまう。
急に熱を持った体と、うるさくなる心臓の鼓動に震えながら、渇いていく喉を無理やり動かして「ありがとう」と返す。俺は今、笑えているだろうか。こちらを見つめる澄んだ目を、俺は真っ正面から見つめながら固まる。
「あ、かり?」
俺が呼び掛けると、明は小さく深呼吸をした。微かに手が震えているように見えるのは、気のせいだろうか。
「あの、あのね。私、"好き"って気持ちが、わからないの」
唐突に始まった話に、面食らう。しかし明が何かを伝えたがっている気配を察して、いつも通り頷きながら耳を傾けた。
「私、今まであんまり男の人に良い思い出がなかったから、怖くて。付き合うとか、恋とか、全然わからなくて」
明の言葉に浮かぶのは、最近あった噂とその顛末である。悔しさに思わず爪を食い込ませる程手に力が入ってしまったが、慌てて緩めた。その気持ちの理由は、もうわかっている。
「でも、ね。桜は、他の人と違うの」
「え?」
「桜はね、私の話を最後まで聞いてくれるし、変なこと言わないし、しない。側にいてくれて、凄く安心出来る」
それは、この関係を失いたくないからだ。
明を傷付けるのが嫌で、失うのが嫌で、ただそれだけの理由なのだ。それなのに、どうして明はそんなに嬉しそうにするのだろう。
「そんなこと、ないっすよ。俺だって明の近くにいたら変なこと言いそうになるし、短気っす」
明が傷付けられた時、明が倒れているのを見た時、どうしようもない仄暗い感情が渦巻くのを感じた。おかしくなりそうな程に強い怒り。抑えきれなくて、霙や浅野を傷付けた。2人とも何でもない顔をしていたけど、何度か暴れたせいで痕が出来ていた。謝ったけれど、抑えてくれてありがとうと感謝もしたけれど、もしそれがなかったらどうなっていたか。
血の気が引く俺の頬に、するりと冷たい感触が降って来た。
「そういうところが、信用出来るんだよ」
明の優しい声に、酷く泣きそうになった。
引っ張る力が割と強くて、よろけながら振り返る。ばっと視界いっぱいに飛び込んで来たのは、濃い黒にも見える赤みがかった茶色の瞳。澄んだ2つの双眸は真っ直ぐこちらを見つめている。
「桜」
俺の名前を呼ぶ声は、その姿は、明のもので。驚いた俺は思わず硬直してしまった。それに不思議そうに首を傾げた明は、他の人が来る気配を感じたのか俺の腕を引いて、先程来たのとは反対方向の出口へと向かった。
学校の最寄りと言えど、学校側ではない方向にはほとんど来ないため見覚えのない街並みに繰り出すことになる。明は経験があるのか、迷った様子を見せずただ俺の腕を引いてずんずんと先に進んでいく。先へ先へと進む明の横顔が何だか必死に見えて、可愛いという感想しか浮かんでこなかった。思わず零れ落ちそうになった言葉を飲み込み、明に連れ出されるまま進む。
到着したのは、人気のない川辺であった。遠くから子供の声が聞こえてくるのに、この辺りには誰もいない。川のせせらぎだけが辺りに染み入る、そんな空間だった。
「桜、あの、これ」
要件を聞く前におずおずと差し出されたのは、先程明が大切そうに持っていた紙袋だった。
そんなことをされたら、期待してしまう。
急に熱を持った体と、うるさくなる心臓の鼓動に震えながら、渇いていく喉を無理やり動かして「ありがとう」と返す。俺は今、笑えているだろうか。こちらを見つめる澄んだ目を、俺は真っ正面から見つめながら固まる。
「あ、かり?」
俺が呼び掛けると、明は小さく深呼吸をした。微かに手が震えているように見えるのは、気のせいだろうか。
「あの、あのね。私、"好き"って気持ちが、わからないの」
唐突に始まった話に、面食らう。しかし明が何かを伝えたがっている気配を察して、いつも通り頷きながら耳を傾けた。
「私、今まであんまり男の人に良い思い出がなかったから、怖くて。付き合うとか、恋とか、全然わからなくて」
明の言葉に浮かぶのは、最近あった噂とその顛末である。悔しさに思わず爪を食い込ませる程手に力が入ってしまったが、慌てて緩めた。その気持ちの理由は、もうわかっている。
「でも、ね。桜は、他の人と違うの」
「え?」
「桜はね、私の話を最後まで聞いてくれるし、変なこと言わないし、しない。側にいてくれて、凄く安心出来る」
それは、この関係を失いたくないからだ。
明を傷付けるのが嫌で、失うのが嫌で、ただそれだけの理由なのだ。それなのに、どうして明はそんなに嬉しそうにするのだろう。
「そんなこと、ないっすよ。俺だって明の近くにいたら変なこと言いそうになるし、短気っす」
明が傷付けられた時、明が倒れているのを見た時、どうしようもない仄暗い感情が渦巻くのを感じた。おかしくなりそうな程に強い怒り。抑えきれなくて、霙や浅野を傷付けた。2人とも何でもない顔をしていたけど、何度か暴れたせいで痕が出来ていた。謝ったけれど、抑えてくれてありがとうと感謝もしたけれど、もしそれがなかったらどうなっていたか。
血の気が引く俺の頬に、するりと冷たい感触が降って来た。
「そういうところが、信用出来るんだよ」
明の優しい声に、酷く泣きそうになった。
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