神様自学

天ノ谷 霙

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3月7日 桜並木の堤防の下で

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日曜日。テスト返却も終わってやることもなくなった私は、暇つぶしに適当な場所へと繰り出していた。もう少ししたら桜が綺麗に咲く、川沿いの堤防へと散歩コースを変更する。川のせせらぎが聞こえて来る涼やかな道は、葉桜に囲まれた静かな空間。遠くに響く子供の声や、飛び立つ鳥の囀りが聞こえて来る。
桜、か。
桜と聞いて思い出すのは、年始に関わった澪愛みおう家での出来事だ。国の頂点に君臨する最も貴き血の持ち主を、悪戯に苦しめるような伝統行事。それに楯突いて色々と危うい橋を渡り掛けたのは、さほど遠い記憶ではない。国家の象徴とされる花に、歴代の澪愛の娘の記録が残っていた。私の意識を蝕み、体を乗っ取る程に膨大な年月の印。
目の前にある桜はそんな不思議な力を持ったものではないと理解しているのに、私はどうしても連想してしまう。
指先に触れたら光と散る花びらを、どうしても思い出してしまう。
首を振って考えを散らすと、堤防からもっと川に近い場所に座り込む人影を見つけた。斜面に足を取られないよう慎重に降りていくと、やはり見覚えのある姿が目に入る。
「北原、くん…?」
声を掛けると本人だったようで、くるりと首がこちらを向いた。私の姿を見て一瞬息を止めると、すぐにふぅと吐き出して微笑んだ。眉尻を下げた、少し苦い笑顔だった。
「こんなところで会うなんて、偶然だな」
「うん。部活帰り?」
「いや、忘れ物を取りに行っただけ。一昨日水泳部に顔出した時に落としたみたいで」
男テニと水泳部を兼部している北原くんは、今日は少ない荷物でジャージを着ている。だから私はすぐに同じ学校の生徒だと気付けたし、それが見知った顔であることもすぐに理解出来たのだ。
「潮賀くんから、何か聞いた?」
返事をしてからしばらく沈黙になってしまったのを気にして、適当に話を振る。気になっていたことではあるが、踏み込み過ぎただろうかと声に出してから気付く。北原くんはこれまた苦い顔をして、小さく息を吐いた。
「聞いた。稲森と榊原に相談したんだってな。『何か話したいことがあればいつでも聞きます。話したくなければそれで構いません。僕はいつでも北原くんの側に居ます』って、真っ直ぐ見つめて来たよ」
北原くんは遠くを眺めながら、一字一句違わず教えてくれた。
「眩しいな。俺は来の恋を最初から応援していた訳じゃなかったのに」
北原くんは太陽から隠すように、震える手で自分の目を覆った。
私は北原くんが潮賀くんを応援している姿しか知らない。そもそも亜美を好きだと知ったのは、潮賀くんと亜美が結ばれた夏休みの旅行先でのことだ。告白現場を偶然見てしまって、それを慰める形になったのが知ったきっかけだった。
北原くんは独り言のように、潮賀くんへの思いをポツポツと語り始めた。
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