708 / 812
3月16日 店内へ
しおりを挟む
由芽の母だと名乗ったその女性は、あまりにも若々しい容姿をしていて私達は混乱した。20代と言われても納得してしまう年齢不詳の美人が、高校生の子供を持つ人妻だと誰が思うだろうか。少なくとも私と、私と同じような反応をしている紗奈と眞里阿は思わなかった。確かによく見ると顔立ちや色みがそっくりである。どちらかというと男勝りな面の目立つ由芽と結び付かなかったのは、雰囲気やその身に纏っている可愛らしいエプロンドレスのせいだろうか。
「とりあえず、中に入らない?ここで話してるのもアレだし…」
制服姿の4人組と、由芽の母親である店員さんの容姿はかなり目立つ。人通りが少ないとはいえ0ではないので視線が集まっているのが分かるし、その中でも由芽は私の切なくもに隠れてしがみついているのだからかなり目立つ。甘い香りに当てられてお腹も空いて来たし、何でもいいから席に着いてしまいたかった。
「ここ、入る気…?」
「当たり前でしょ!ここまで来たんだから堪能しないわけにはいかない!」
「私のおすすめ、由芽ちゃんにも食べて欲しいです…」
「…っぐ、ぅ……」
紗奈のテンションの高さと眞里阿の切実なお願いに、由芽も折れたらしい。私の背に隠れたままだが、少しだけ頷くのが見えた。
「あら、じゃあ4名様ご案内、ね」
鼻歌でも歌い出しそうなご機嫌な雰囲気のまま、店員さんこと由芽のお母さんは私達を店内に案内してくれる。中に入ると、大きなショーケースの中にキラキラしたたくさんのケーキが並び、壁際に置かれた焼き菓子やホットスイーツからは甘い香りが漂って来ている。小さな店ではあるがイートインも完備されているようで、ドアから向かって左手側には、いくつかのテーブルと椅子が用意されていた。その全てに繊細な木彫り細工が施され、御伽噺の世界に迷い込んでしまったような気分になる。私と由芽は先に席に着き、ホッと一息ついた。
「私は眞里阿のおすすめが食べたいな。後で払うから選んで来てくれる?」
「勿論です!どれがいいかなぁ…っ!」
「由芽は?自分で選ぶ?それとも私たちが選んでいい?」
「…桃…」
「え?」
「あ、いや。選んで来てくれると助かる」
「わかった!とびっきりの選んでくるねー!」
おおはしゃぎの2人を見送って、私は由芽と待つことにした。視界から逃れるように窓際かつ隣が壁の席をゲットした由芽に引っ張られ、私は肉壁となって由芽を隠している。きっと2人は何の疑問も持たずに向かいに座るだろうが、それを待っている間隣同士というのは何となく気まずいような、気恥ずかしいような気分がした。
「由芽、ここ来るの久しぶりなの?」
「え?あ、うん。そうだけど…」
「お母さんと会うのも?」
「いやそれは全然。今朝も会ったし。ここはお店専用で、家から通ってるから」
「なるほど」
暇潰しついでに気になっていたことを聞こうと、適当に話を振る。結構攻めたことを聞いてみたが特に気にする様子はないので、この辺りに地雷はないらしい。良かったと安心するべきか、尚更最初の態度に疑問を抱くべきか。
まぁどちらでもいいか。
鼻腔をくすぐる芳しい甘い焼き菓子の香りに、私の思考はすっかり奪われてしまっていた。
「とりあえず、中に入らない?ここで話してるのもアレだし…」
制服姿の4人組と、由芽の母親である店員さんの容姿はかなり目立つ。人通りが少ないとはいえ0ではないので視線が集まっているのが分かるし、その中でも由芽は私の切なくもに隠れてしがみついているのだからかなり目立つ。甘い香りに当てられてお腹も空いて来たし、何でもいいから席に着いてしまいたかった。
「ここ、入る気…?」
「当たり前でしょ!ここまで来たんだから堪能しないわけにはいかない!」
「私のおすすめ、由芽ちゃんにも食べて欲しいです…」
「…っぐ、ぅ……」
紗奈のテンションの高さと眞里阿の切実なお願いに、由芽も折れたらしい。私の背に隠れたままだが、少しだけ頷くのが見えた。
「あら、じゃあ4名様ご案内、ね」
鼻歌でも歌い出しそうなご機嫌な雰囲気のまま、店員さんこと由芽のお母さんは私達を店内に案内してくれる。中に入ると、大きなショーケースの中にキラキラしたたくさんのケーキが並び、壁際に置かれた焼き菓子やホットスイーツからは甘い香りが漂って来ている。小さな店ではあるがイートインも完備されているようで、ドアから向かって左手側には、いくつかのテーブルと椅子が用意されていた。その全てに繊細な木彫り細工が施され、御伽噺の世界に迷い込んでしまったような気分になる。私と由芽は先に席に着き、ホッと一息ついた。
「私は眞里阿のおすすめが食べたいな。後で払うから選んで来てくれる?」
「勿論です!どれがいいかなぁ…っ!」
「由芽は?自分で選ぶ?それとも私たちが選んでいい?」
「…桃…」
「え?」
「あ、いや。選んで来てくれると助かる」
「わかった!とびっきりの選んでくるねー!」
おおはしゃぎの2人を見送って、私は由芽と待つことにした。視界から逃れるように窓際かつ隣が壁の席をゲットした由芽に引っ張られ、私は肉壁となって由芽を隠している。きっと2人は何の疑問も持たずに向かいに座るだろうが、それを待っている間隣同士というのは何となく気まずいような、気恥ずかしいような気分がした。
「由芽、ここ来るの久しぶりなの?」
「え?あ、うん。そうだけど…」
「お母さんと会うのも?」
「いやそれは全然。今朝も会ったし。ここはお店専用で、家から通ってるから」
「なるほど」
暇潰しついでに気になっていたことを聞こうと、適当に話を振る。結構攻めたことを聞いてみたが特に気にする様子はないので、この辺りに地雷はないらしい。良かったと安心するべきか、尚更最初の態度に疑問を抱くべきか。
まぁどちらでもいいか。
鼻腔をくすぐる芳しい甘い焼き菓子の香りに、私の思考はすっかり奪われてしまっていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる