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龍の夢
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ザザ、ザザ、と音がする。顔を上げると、目の前には一面の青が広がっていた。
「…海?」
見渡す限り果てしない海。足元に視線を移せば、キラキラと光る白い砂浜。貝殻も落ちているようで、そこかしこに色が埋まっているのが見えた。
「…裸足?」
思わず自分の姿を確認するが、服は着ていた。白いブラウスに水色のガウチョパンツ。見覚えのあるそれは、私の私服と同じものだった。頬を撫でる髪はいつも通り右下で結いていて、滑らかに風に靡く。
びゅお、と強い風が吹いて反射的に顔を覆う。ゆっくりと目を開けると、目の前には巨大な何かの顔。
「うわぁ!?」
後退ろうと足を動かせば、砂浜に足を取られる。それと同時に目の前の顔はゆっくりと天を向いて、先程と同じように風を切って空へ上がっていく。長い長い体躯。揺れる髭、陽光に煌めく鱗。その姿はまるで、龍のようだった。
いや、恐らく龍なのだろう。
伝説の生き物としてよく取り上げられるそれは、イラストやゲームのそれよりも荘厳で美しい容姿を持ち、そして何よりも威厳があった。巨大な体躯を物ともせず動かす筋力、全てを噛み砕きそうな牙、空を駆ける尾、その全てが見る者を魅了する美しさを誇っていた。赤い瞳に黄から緑へのグラデーションを描く体。凛々しい角。
その龍は海の上に佇むと、クイっと顎を動かして見せる。まるで「来い」と言わんばかりの態度だ。私はその仕草に魅せられるように、よろけながらも立ち上がり足を踏み出す。足の裏に砂のまとわりつくような感覚。しかしそんなものどうでもいいとでもいうかのようにはやる感情が、前で踏み出すことを後押しした。いつの間にか足は水を蹴り、本来であれば足が付かないはずの場所でも変わることなく歩み続けた。龍の目の前まで進んでいく。そんな私を見て龍は笑い、今度は顎で別の場所を指し示した。振り向くと、山の上に立つ祠。その少し先には大きな赤い鳥居が見える。なんだか見覚えのある景色に辺りを見回すと、砂浜には海の家やここまで降りて来るための道が見え始め、私の視界が開けて来る。
「ここ、夏に旅行で来た…」
ハッとして神社の方をもう1度見ると、あの時出会った神様の姿が見えた。
確か、"姫巫女"様。
恋使と名乗った私を2代目と称し、少し悲しげに「妾も、稲荷も、まだお前のことを忘れておらぬ」と告げた神様。
今更ながら、"お前"が恋音さんのことを指していたのだと気付く。ならばその前に体育祭で出会った、悪知恵の神である"徒"様は。
そういえばあの時、口が勝手に動いた。「気付かないで」と、知らないうちに言葉が出ていた。あれももしかして、恋音さんの仕業だったのか。
私と重なりすぎて見えなかった、恋音さんのことが見えていたのか。
どうして、最も恋音さんを大切に想っていたのは、稲荷様の筈なのに。
『近ければ近いほど、見えないこともあるのよ』
顔を上げると赤、青、黄、緑、白の龍。
何故だか私を、呼んでいるような気がした。
「…海?」
見渡す限り果てしない海。足元に視線を移せば、キラキラと光る白い砂浜。貝殻も落ちているようで、そこかしこに色が埋まっているのが見えた。
「…裸足?」
思わず自分の姿を確認するが、服は着ていた。白いブラウスに水色のガウチョパンツ。見覚えのあるそれは、私の私服と同じものだった。頬を撫でる髪はいつも通り右下で結いていて、滑らかに風に靡く。
びゅお、と強い風が吹いて反射的に顔を覆う。ゆっくりと目を開けると、目の前には巨大な何かの顔。
「うわぁ!?」
後退ろうと足を動かせば、砂浜に足を取られる。それと同時に目の前の顔はゆっくりと天を向いて、先程と同じように風を切って空へ上がっていく。長い長い体躯。揺れる髭、陽光に煌めく鱗。その姿はまるで、龍のようだった。
いや、恐らく龍なのだろう。
伝説の生き物としてよく取り上げられるそれは、イラストやゲームのそれよりも荘厳で美しい容姿を持ち、そして何よりも威厳があった。巨大な体躯を物ともせず動かす筋力、全てを噛み砕きそうな牙、空を駆ける尾、その全てが見る者を魅了する美しさを誇っていた。赤い瞳に黄から緑へのグラデーションを描く体。凛々しい角。
その龍は海の上に佇むと、クイっと顎を動かして見せる。まるで「来い」と言わんばかりの態度だ。私はその仕草に魅せられるように、よろけながらも立ち上がり足を踏み出す。足の裏に砂のまとわりつくような感覚。しかしそんなものどうでもいいとでもいうかのようにはやる感情が、前で踏み出すことを後押しした。いつの間にか足は水を蹴り、本来であれば足が付かないはずの場所でも変わることなく歩み続けた。龍の目の前まで進んでいく。そんな私を見て龍は笑い、今度は顎で別の場所を指し示した。振り向くと、山の上に立つ祠。その少し先には大きな赤い鳥居が見える。なんだか見覚えのある景色に辺りを見回すと、砂浜には海の家やここまで降りて来るための道が見え始め、私の視界が開けて来る。
「ここ、夏に旅行で来た…」
ハッとして神社の方をもう1度見ると、あの時出会った神様の姿が見えた。
確か、"姫巫女"様。
恋使と名乗った私を2代目と称し、少し悲しげに「妾も、稲荷も、まだお前のことを忘れておらぬ」と告げた神様。
今更ながら、"お前"が恋音さんのことを指していたのだと気付く。ならばその前に体育祭で出会った、悪知恵の神である"徒"様は。
そういえばあの時、口が勝手に動いた。「気付かないで」と、知らないうちに言葉が出ていた。あれももしかして、恋音さんの仕業だったのか。
私と重なりすぎて見えなかった、恋音さんのことが見えていたのか。
どうして、最も恋音さんを大切に想っていたのは、稲荷様の筈なのに。
『近ければ近いほど、見えないこともあるのよ』
顔を上げると赤、青、黄、緑、白の龍。
何故だか私を、呼んでいるような気がした。
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