神様自学

天ノ谷 霙

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3月20日 海

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ざざ、と波の音がする。まだ水辺は肌寒いこの季節に、私は海にやって来た。
「夕音、風邪引くよ」
「…うん」
羅樹と、一緒に。

一昨日、私は羅樹に夢のことを話した。確信はないけれど呼ばれているような気がすると告げ、行きたいと話した。今私の中に力がないことも、それを取り戻したいことも話した。驚いていた羅樹だが、その目は更に丸く見開かれることになる。
「だけど私は、羅樹より稲荷様を優先したい訳じゃない。皆大切なんだ。皆大切だから、失うのが怖いんだ。きっと稲荷様と一緒にいる時に羅樹がピンチだって言われたら、羅樹ともう2度と会えなくなるかもしれないって知ったなら、私は稲荷様のもとを飛び出すと思う。羅樹も稲荷様も、皆大事だから」
だから、とそこで一旦言葉を切る。真っ直ぐに羅樹を見つけて、願いを口にする。
「羅樹も一緒に、来てほしい」
その時の羅樹はぽかんと口を開けていて、数秒した後で吹き出した。声を上げて笑う羅樹を、私は首を傾げて見ていた。
「ごめんごめん、いやぁ、やっぱり夕音は夕音だなぁ…」
「どういうこと?」
「ううん。ただ、かっこいいなって思っただけだよ」
「…そ、そう?」
体よく誤魔化された気もしたが、穏やかに微笑む瞳に嘘はなかったから、私もそれ以上は聞かなかった。
それから翌日には学校へ行き、利羽に夏休みに行った神社と海の場所について聞きに行った。地名を教えてもらい、マップアプリに記録する。
そしてようやく、今日がやって来た。羅樹と共に朝早くから出発して、昼前に海辺へ訪れた。人気のない春の海。あの夢と同じ白のブラウスに水色のガウチョパンツを身に纏った私は、羅樹に掛けられた上着を掴みながらそっと空を見上げた。
白が舞う。
驚いて瞬きをすれば、一瞬でその姿は消えた。ハッとして振り返る。遠くに見える山中の鳥居。その赤は蜃気楼のように揺れ、ひらりと舞い上がる布が見えた。天女の衣のように、淡く光を反射する。
「見え、る?」
いや、違う。そうではない。見えているけれど、それは夢と重なっているからだ。そうでなければこの近くにはもっとたくさんのヒトならざるモノがいる筈であるし、海の中なんて数えきれないほどにその存在が蠢いているだろう。それが視界に映らないということは、見えているのではなく、見せられているのだ。
「…っなに、あれ…!」
羅樹の声に振り向くと、5つの龍が天から降りて来た。それに遅れて、びゅおっと強い風が吹く。
あの夢と同じ、黄から緑へのグラデーションを描く、一際大きな龍だ。
『お久しぶりです、夕音様』
聞き覚えのある声が、凛と耳を貫いた。
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