神様自学

天ノ谷 霙

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最後の覚悟

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いよいよ、稲荷様の元へ向かう時が来た。先程すり抜けた大きな邸を目の前に見据えて、私は生唾を飲み込む。緊張で震える。ここまで来ておいて、と理性が鼻で笑うが、私が怖いのは拒絶されることだ。伝える間もなく追い出されたら、話をすることすら拒否されたら。そうなった時、私にはどうすることも出来ない。だからここまでバレないようにやって来たのだけど、ここから先は稲荷様の本拠地だ。何があってもおかしくない。稲荷様の使つかいである狐の目がいくつあるのか分からないから、いつ見つかってもおかしくない。もしそうなって、逃げられたら。追い出されたら。何度も挑戦することすら許されなかったら。
所詮人と神だ。矮小な人間である私がどれ程抵抗しても、神の言一つでどうとでもなってしまう。稲荷様は優しいから命を奪うまではしないだろうけど、優しいから私と会ってくれない可能性はある。絶対に私の話を聞いてくれると信じるには、何の相談もなく力を奪われ縁を切られたあの日から、信用は無くなってしまった。
だから、怖い。
それでも、稲荷様ならきっと分かってくれると信じてしまう自分の心が、切り裂かれるのが怖くて堪らない。
震える私の手が、不意に熱を持って浮き上がる。
驚いてそちらの方を見れば、羅樹がふわりと微笑んでいた。
「あのね、夕音。僕は夕音と稲荷様の間に何があったか、その時夕音が何を思ったかは聞いたこと以外知らない。でも、夕音のことは誰よりも知ってる自信があるから」
羅樹が私と指を絡め、真っ直ぐ私を見つめる。空色の中に浮かぶ赤色が、夕焼け色に混ざり合った。
「…1人じゃないよ、夕音」
こつんと額が合わせる。羅樹の言葉に、ふっと心が軽くなる。
私はあの日、稲荷様が私から全ての力を抜いた時のことを思い出していた。あの時、私が私であるためのいろいろなことが、全部抜けていくような気がした。生まれた時からずっと側に居た恋音こいねさんも居なくなって、私の力も無くなって、初めてこの世界に1人で放り出されたような気がした。けれどその瞬間もお母さんが側に居て、羅樹は私のことを想っていてくれて、ずっとずっと本当の1人にはならなかった。
「だから夕音は、心のままに動いて良いんだよ」
「そうですよ。いざとなれば私が稲荷を縛り付けて夕音様の目の前に引き摺り出しますから」
反対の手を虹様に握られて、その手が震えていないことに気付いた。
大丈夫。もう怖くない。
私は繋いだ手の温もりを確かめながら、真っ直ぐに稲荷様の居るであろう場所を見据えた。
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