神様自学

天ノ谷 霙

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9月7日 花壇の前で

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私の方を見上げる蒼くんの顔に、夕暮れの光が差し込む。はっきり見えたその顔に、私は怒りがこみ上げてきた。
「…蒼くんはさ、自覚ないの?」
切り出し方がわからなくなって、つい変な言い方をしてしまった。言葉を発してから気付いたが、もう遅い。
「…え?何の?」
そんな素っ頓狂な声をあげる蒼くんに、私の表情が歪んだのがわかる。
「…女の子の、君への気持ち」
私は、オブラートに包んで言いたかった。けれど出来なかった。私の元々の語彙力の無さと、若干の頭痛、怒りによって、脳が正常な判断をすることを許さなかった。
「…え……っ」
蒼くんの瞳が、心が、僅かに揺れるのがわかった。その揺れが私の脳を刺激して、揺さぶって、痛みを増して、襲ってくる。
でも私は、そんな事どうでもいい。今はただ、目の前にいる蒼くんに、人間に可哀想と思われる花ではなく、虫を、可憐かれんな蝶を受け入れるのかどうか聞かなくてはならない。
「…女の子…の、気持ち…?」
「君はいろんな人から好かれてる。だから、君のそばにいる人間をよく思わない人もいる」
私の周りにオレンジ色の光が舞う。目の前の蒼くんの気持ちを写す花は、現れない。
「…そんな子たちにとって、君のそばにいて邪魔だと思われる対象は誰?」
蒼くんの瞳が、一瞬だけ上下左右に揺れ動く。自覚しているのか、いないのか、よくわからないけれど。
「…俺のそばにいる、女の子…?」
どうやら本当に分からないらしい。気付かないで、ずっと無意識に、あの子を苦しめていたらしい。
私は"恋使"。恋心を神様に伝える役目を持つ者。一向に伝わってこない目の前の男子の心を、考えてあげられる余裕なんてない。
その時吹いた強い風が、少しだけ花壇の花を散らしていった。その風に乗って、赤と白の花がふわふわと舞う。私を中心に、くるくると回りながら。
「デイジーの花言葉は、平和や希望。白は無邪気、赤は無意識」
私の口から、脳裏に浮かんだ言葉がそのまま出てくる。その時、蒼くんの心が少しだけ伝わってきた。

(気付きたくない)

(気付いたら、気付いてしまったら)

(きっと君を困らせてしまうから)

「無意識に平和を願った君だから。自分への視線や心に気付かないふりをして、そうして周りとの関係を守ってきたんでしょう。でも、君が変わらない関係を願っても、周りは勝手に変わっていくのよ」
私の頭痛は、いつの間にか無くなっていた。
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