199 / 812
9月13日 記憶
しおりを挟む
扇様と深沙ちゃんが目を覚ましたのは、あれから30分後だった。花火は冷静に対応していたけれど、らしくないミスがちらほらと見えたので、動揺はしていたようだ。
「…ん」
「お嬢様!」
怠そうに体を起こす扇様に、駆け寄る花火。扇様は花火から水を受け取り、口に含む。とろんとした目で、ぼーっと遠くを眺めていた。近くのソファに寝ていた深沙ちゃんも、ゆっくりと体を起こす。私が深沙ちゃんの側に行き、水を飲ませる。
「…ありがとう」
深沙ちゃんも扇様も怠そうだった。何があったのか私と花火には分からない。私には重なって見えた女性の姿が、花火や深沙ちゃん、扇様に見えていたのかすらも分からない。
その時、唐突に深沙ちゃんが涙をこぼした。私は慌てて、どうしたの、と問うが、本人もよく分からないというように首を横に振った。
「…夢、で見たの。炎に包まれた女性に、手を伸ばしてもあと少し届かない。喋ってないのに、深沙の喉から出ているような悲痛な叫び声。後ろから足音と一緒に聞こえてくる男性の声」
「…私は足元が火に覆われていて、遠くで叫ぶ女が見えた。どこか聞き覚えのある声だったわ。私は何故か苦しくなくて、むしろ…これで終われるんだっていう安心感があったわ」
深沙ちゃんと扇様の話が、場面場面を切り取ったものらしくて理解するのに時間がかかった。まとめると、火事で亡くなった女性と、その従者の話のようだ。
「私は暑いのが苦手なのだけど、原因はこの夢かしら」
「…と、申しますと?」
「はっきりとは分からないけど、前世の記憶とかじゃない?熱に包まれた最期だったから、熱に対して過剰に反応する、とか」
「そう、かも。深沙も、いつ見たか分からない記憶だし。映画だって言われたら何も言い返せないけど、でも絶対に自分と重なっている人は見れないの。扇様と人物が対になっているのなら、昔観た映画だっていう線は薄いと思うの」
「そう、ね」
確かに、と思う。映画で誰か1人の目線になって映像を撮るということはあるだろうが、他の人物からの目線や、火事のシーン以外も覚えているはずだろう。覚えてないということは、つまりは映画で観たものじゃない。だとすれば、記憶の線が濃厚だ。
「っということは、お嬢様と深沙ちゃんは前世か何かで深い関わりがあったってこと?」
「うん、多分。前に夢で見たときも、扇様を見て直感的にこの人だ、って思ったの」
「記憶、ね」
じゃあ私に重なって見えた女性2人が、この2人の前世ということなのだろうか。神の力を借りても、そんなことは分からない。もどかしさと、不思議な感覚を胸の内にしまい込んで、その話を切った。
「…ん」
「お嬢様!」
怠そうに体を起こす扇様に、駆け寄る花火。扇様は花火から水を受け取り、口に含む。とろんとした目で、ぼーっと遠くを眺めていた。近くのソファに寝ていた深沙ちゃんも、ゆっくりと体を起こす。私が深沙ちゃんの側に行き、水を飲ませる。
「…ありがとう」
深沙ちゃんも扇様も怠そうだった。何があったのか私と花火には分からない。私には重なって見えた女性の姿が、花火や深沙ちゃん、扇様に見えていたのかすらも分からない。
その時、唐突に深沙ちゃんが涙をこぼした。私は慌てて、どうしたの、と問うが、本人もよく分からないというように首を横に振った。
「…夢、で見たの。炎に包まれた女性に、手を伸ばしてもあと少し届かない。喋ってないのに、深沙の喉から出ているような悲痛な叫び声。後ろから足音と一緒に聞こえてくる男性の声」
「…私は足元が火に覆われていて、遠くで叫ぶ女が見えた。どこか聞き覚えのある声だったわ。私は何故か苦しくなくて、むしろ…これで終われるんだっていう安心感があったわ」
深沙ちゃんと扇様の話が、場面場面を切り取ったものらしくて理解するのに時間がかかった。まとめると、火事で亡くなった女性と、その従者の話のようだ。
「私は暑いのが苦手なのだけど、原因はこの夢かしら」
「…と、申しますと?」
「はっきりとは分からないけど、前世の記憶とかじゃない?熱に包まれた最期だったから、熱に対して過剰に反応する、とか」
「そう、かも。深沙も、いつ見たか分からない記憶だし。映画だって言われたら何も言い返せないけど、でも絶対に自分と重なっている人は見れないの。扇様と人物が対になっているのなら、昔観た映画だっていう線は薄いと思うの」
「そう、ね」
確かに、と思う。映画で誰か1人の目線になって映像を撮るということはあるだろうが、他の人物からの目線や、火事のシーン以外も覚えているはずだろう。覚えてないということは、つまりは映画で観たものじゃない。だとすれば、記憶の線が濃厚だ。
「っということは、お嬢様と深沙ちゃんは前世か何かで深い関わりがあったってこと?」
「うん、多分。前に夢で見たときも、扇様を見て直感的にこの人だ、って思ったの」
「記憶、ね」
じゃあ私に重なって見えた女性2人が、この2人の前世ということなのだろうか。神の力を借りても、そんなことは分からない。もどかしさと、不思議な感覚を胸の内にしまい込んで、その話を切った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる