逆説の本能寺『変は信長の自作自演であった』魔王信長と救世主イエス、その運命の類似と戦国乱世終結の謎

枢木卿弼

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第七章『愛宕百韻』と光秀謀反の句の謎

10 『秀吉VS. 紹巴――連歌「解釈」対決!』(小説版)

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「紹巴よ、儂がお主を呼び出したのは、愛宕神社での件じゃ」

羽柴秀吉は、誰が見ても憤怒な表情で里村紹巴を睨み付けた。

『山崎の戦い』で光秀を破ったあと、紹巴を呼び出したのだ。


「は……はい、羽柴様」

紹巴は、すでに秀吉が何に怒っているか見当がついているので、体を震わせながら答えた。


そう、当代随一の連歌師里村紹巴は、この『愛宕百韻』に参加したことで後に生命の危機に陥ったのであった。


何故なら、紹巴が明智光秀の謀反を暗に賛成しようと、逆に暗に反対しようと――

――問題はそこではないからだ。


光秀自身に謀反の意図があると思われる、光秀の発句を聴いて、知ってしまった事自体が問題であったからである。


つまり、紹巴は光秀の謀反を知っていた、光秀が謀反を決意したと思われる句を詠んだのに、誰にも報告しなかった。

――このことが、問題と成ったのである。


もちろん、謀反に賛成していたなら、誰にも報告しないであろう。

しかし当然謀反に反対なら、信長側に報告しているであろう。

というのが、《本能寺の変》前の紹巴の立ち位置である。


『山崎の戦い』で光秀を討ち果たした羽柴秀吉は、光秀が本能寺の変の直前に愛宕神社での連歌会で――

光秀が『謀反の句』を詠んだという話を聞きつけ、紹巴を呼び出し尋問したのであった。(『常山記談』)


当然、羽柴秀吉の主君は織田信長であるから――

紹巴が、光秀の謀反の意志を知っていたのに信長側に報告しなかったのであれば、この場合……死罪は免れない。


「ときは今 あめが下しる 五月かな

……と、あの光秀めが愛宕で詠んだようじゃが」

「はい、左様でございます」

「これは、光秀めが、我が主君である信長様に謀反を決意したものだと言う者がおるのでじゃが?」

「なんと、そんなことは……初耳です」

光秀が破れ去った今、もし紹巴が、謀反を賛成していたとしても、今認めるのは命を捨てる事なので、とぼけた?


「なに!、お主は当代随一の連歌師じゃ、

光秀めの発句の真意が解らぬはずがないじゃろうて。

この儂ですら、この発句は光秀めの謀反の決意表明としか思えないのじゃが。

……違うとでも申すのか?」

紹巴が、違うと言わなければもう切って捨てようかという秀吉。


「――違います」

「ほう、違うと申すか」

「はい」と言って、紹巴はおもむろに持参した書物を袋から出した。

「これは、愛宕での連歌会の時の事を記した日記でございますが、羽柴様、ここをお読みください」

紹巴が書物を開いて差す場所を、読み上げる秀吉――

「……なに、なに、

ときは今 あめが下なる 五月かな

そうじゃろ、やはりこの発句は謀反の句じゃ。

紹巴、観念したということじゃな」

秀吉、すくっと立ち上がって紹巴を切ろうとする流れ。


「お、お待ちください羽柴様!

この部分を見てください」

といって、日記の『あめが下なる』を慌てて指差す紹巴。

「この発句は、“下なる”と、記されております」

「はぁ?」当代随一の連歌師のいうことなので、何かあるのか?

「確かに羽柴様が指摘された発句が――

ときは今 あめが下しる 五月かな

であれば、憎き光秀めが謀反を決意したものとも取れます。


しかし……


ときは今 あめが下なる 五月かな


は、この五月の雨の情景……

つまりこの句は、『五月雨さみだれ』の情景を詠んだものなのです」

と、持ってきた懐紙に句を書き出す紹巴。

そこには――


時は今 雨が下なる 五月かな


と書かれてある。

「なに、雨がしもなる。とな」

「はい、光秀の発句が謀反の決意表明ととれるのは、

……私が思うに、下しるの“しる”が、統治するの“治”とかけているからでしょう。


しかし、私の日記には――


“下なる”と記されておりますゆえ、

この句は、私が解釈するには『五月雨の句』で間違いありません!」

そう言うと、紹巴は感極まったように突然ボロボロと、涙を流しながら……

「……信長様、信長様のことは、上洛戦成功の時より、

この日本を救う英雄とすら思っておりました。

その尊敬する信長様を貶めるような事を、この紹巴が、

そう信長様とも親しく歌を読みあったこの紹巴がするはずがございません」

そう言うなり、ガバッと地面に伏して頭を着けながら、わ~んと号泣する紹巴。


「……」

当代随一の連歌師が、五月雨の句だと言い切り、しかも当代随一の連歌師が恥も外聞もなく泣き叫ぶのを見て――

この件を不問にした秀吉であった。


しかし、実はこの話には裏がありまして……

なんと、秀吉に呼び出され紹巴の持参した日記、実は改竄かいざんされていたのです。

そうつまり、もともと「あめが下しる」と書かれた部分を、「あめが下なる」と紹巴自らが書き直した日記を秀吉に見せたという話が、『常山記談』にあるのです。


……しかしこの話が本当なら、重大なことが解る!


もし本当に『五月雨の句』を光秀か詠んだのであるなら、何もわざわざ改竄などせずとも、

そうつまり“あめが下しる”のままでも、「天が下治る」なんて解釈はあまりに強引過ぎるとか、当代随一の連歌師が言い張ればよいだけの話ではないか?


それをわざわざ改竄したとあれば、やはり里村紹巴は光秀の謀反の意志を知っていたと考えられるのである。

そして、つまりはこの話の流れから推察すると――

光秀の発句は、結局、謀反の決意表明であったと言えることになるのである。



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