もう1人の、王子と呼ばれる人が気になって話しかけただけだった

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6.自覚

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 僕の名前は小山弥生。この高校では、不本意だけど、通称•月王子。僕は自分から人に話しかけるのは苦手な方だ。

 そのきっかけは、たぶんこれ。中学生の時、仲の良い女子がいて、よく話していた。僕は良い友人だと思っていた。でも、相手は僕のことを恋愛的な意味で好きだった。告白された時、驚いた。告白を断った時に言われた。

『好きじゃないなら、なんでたくさん話しかけてきたの?』

 この言葉に、僕は囚われている。僕は、友人だから話しかけていた。でも、誤解された。それがショックだった。それから僕は、誤解されるのが嫌で、あまり自分から人に話しかけなくなった。

 でも、自分から話しかけないおかげか、この学校では、静かな人、月王子として見られはするが、変な人は近づいてこなかった。たまに話したことのない女子に告白はされるけど、あれは僕のことが好きなんじゃなくて、月王子と呼ばれる人物と付き合いたいだけだろう。

 『太陽王子かっこいい!』なんて会話を聞いたことがある。僕の他にも王子と呼ばれる人物がいるんだな、くらいにしか思っていなかったし、遠目で見たことはあっても、関わる機会なんてない。

 だから、あの日まで、その太陽王子が話しかけてくるなんて思いもしなかった。

 さすが王子と呼ばれるほどの顔面だと思った。健康的な小麦色の肌、綺麗な二重でアーモンド型の目、高めの鼻筋、笑っていなくても口角が上がっている唇。僕は幸の薄い顔で、彼は派手な顔立ち。タイプは違うが、彼の方がかっこいいと思う。自分の顔を見慣れているから、あまり見ない顔をそう思うのかもしれないけど。

 初めて話した日から、毎日晴人は図書室に来ていた。図書室に来ているのに、本を触らずに、迷わず僕の隣に座って話しかけてくる。僕に聞こえるくらいの小さな声で。聞いているラジオの話、家族の話、王子エピソードなど。話を聞くのは楽しかった。でも、気がついた。ふと目線を周りに向けた時、明らかに僕たちの関わり合いを見に来ている人たちがいることに。これじゃあ、図書室を本来の目的で利用する人のせっかくの静かな空間を邪魔していると思った。

 晴人にああ言った時、少し後悔した。もっと良い言い方があった。あれじゃあ、僕が彼を疎ましく思っているみたいじゃないか。人との関わりを避けていた結果がこれだ。それから、晴人は本を読み始め、僕に話しかけることはなくなった。隣にも座らない。まあ、僕たち目当ての人たちを、図書室から遠ざけるには、そうした方が良いのだろう。でも、なんだか寂しかった。寂しいという自分の感情に気がついてしまった。前の日常に戻っただけのことなのに。そこで僕は、自分の気持ちにも気がついた。

 ああ、僕は晴人のことが好きなのか……と。

 だから、同じ図書委員会だと知った時、嬉しかった。

______

 告白されたであろう晴人が、図書室に帰って来た。

「ただいま~」
「おかえり」

 晴人は、椅子に座り、カウンターに頬杖をつく。

「……好きって、なんなんだろうな」
「え?」
「好きって言われることは、この顔だから多いけどさ。言われるのが多いだけで、好きって分かんないなって思った。好きじゃなくても、とりあえず付き合うとか言う人もいるけどさ、不誠実だよな」

 晴人の口振りからして、やはり告白されたのだろう。そして、断った。晴人に気が付かれないように、ホッと小さく息をつく。

「好き、ねぇ……」

 なんて答えるのが正解だろうか。この質問に答えたら、僕の気持ちに気が付かれてしまう気がして、なかなか言葉が出てこない。

「この芸人が好きとか、そういう好きは分かるんだよ。でも、恋愛的な好きが分からない」
「その顔なのに?」

 僕は晴人の顔を指差した。すると、晴人も自分の顔を指差す。

「この顔なのに」
「フッ……」
「ハハハ」

 2人で笑い合った。晴人と話すのは楽しい。

「弥生くんは分かんの? 恋愛的な好き」
「うーん……恋人的なことをしたいと思ったら、じゃないかな? 手を繋ぐとか、キスとか」

 たぶんこれは一般論。僕の気持ちに気が付かれることはないだろう。

「あー……なるほどね」

 晴人は、なるほどと言いつつ、ピンときていないような顔だった。
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