【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との

文字の大きさ
19 / 126

19.チェンバー先生の餌付け完了?

しおりを挟む
「27って⋯⋯老け顔にしても⋯⋯猫背とモジャモジャの髪のせい? その、汚ったない白衣のせい?」

「昔からおっさんくさいって⋯⋯ボリボリ⋯⋯よく言われるんだよね。だから口調とかもそれに合わせてて⋯⋯ムシャムシャ⋯⋯あ、敬語とかいらないから」

「先生、お昼食べてないでしょ」

「あ、うん。生徒がうじゃうじゃだから、買いに行くの面倒でさ」

【ここにも人嫌いがいた~!】

 仕方なく買ってきたばかりの料理をテーブルに並べると、部屋の中にニンニクや焼けた肉のいい匂いが充満していった。

「うわ! すっごいいい匂い。しかも熱々。これ何?」

「他国の料理でパエリアとトルティージャです。有料ですからね、ちゃんと払って下さい」

「もちろん払うよ。お金は結構余ってるんだ。学園の教師って高級取りなんだ、実家の援助もあるしね」



 見事な食べっぷりで完食したチェンバーが、お腹をさすって幸せそうな顔になった。

「はぁ、幸せ~。僕は今、異空間を経由した料理を⋯⋯異空間に感謝⋯⋯」

【料理に感謝しようね】



 その後、ようやくポーション作りについての話になり、チェンバーの目がキラキラと輝く。

「水と土かぁ、やっぱりな」

「ギリギリ中級ポーションまでなら、定期的に魔物の森の土を冒険者に運んでもらって畑の土と入れ替えれば問題ないかも。それか、森の落ち葉で肥料を作って土に混ぜるか」

「土は難しいけど、落ち葉ならいけるな」

「だから、魔物の森の中で栽培するのはやめた方がいい」

 ポケットから出したノートに『中級か』と言いながら書き込んでいたチェンバーがピタッと動きを止めた。

「⋯⋯み、見たの?」

「昨日試験で使った薬草は高品質で、この国の土では絶対に作れない。あの痩せた土でも野菜とか果物ならなんとかなるけど、薬草は肥料を工夫しても絶対に育たないって知ってるだけ。
店で買ったならもっと萎びてるし、あんなに品質が揃ってないしね」

 店で売られている薬草は冒険者や子供が採取してくる。採取してから店に並ぶまでの時間で劣化するのはもちろんだが、素人の目では品質まではわからない。

「鑑定を使える人なら少しはマシだけど、魔導具頼りで仕分けした薬草って大雑把にしか分けられてないから」

「やっぱり鑑定魔法と魔導具だと違うんだ」

「鑑定魔法もレベルで大きく変わってくるけど、低ランクの魔法の劣化版が魔導具って感じかな」

「そんなに⋯⋯」

 チェンバーがガックリと肩を落とした。

「魔法⋯⋯羨ましすぎ」



「ところで、聖女様って何ができるの?」

「へ?」

 突然の質問にロクサーナが首を傾げた。

「昨日、試験が終わった後で、生徒たちが話してたんだ。アーノルド王子と仲のいい留学生は聖女様だって」

「ああ、自己紹介で言ってたやつね」

 錬金術の試験にはAクラスの生徒は少なかったはずだが、既に話が広まってるらしい。

(それだけ、聖女って存在が珍しいって事かな)

「でさ、アーノルド王子と聖女様が結婚するんじゃないかって言ってた。だから、この国に聖女様が来たら何が変わるのか知りたいなぁって」

「えーっと、聖王国では聖女って職種の一つなんだよね。結構細かくランク分けされてて、それに合格して『聖女』になって、その後も何段階ものランクがあるの。だから一概に『聖女とはこれだ』ってのは言えないかな。
まあ、治癒魔法が使えるのは間違いないけど」

「そうか、なら聖女様がこの国に来られたらポーションは不要になるかも⋯⋯なら、別の薬とかの開発に転換して⋯⋯いや、でも⋯⋯」

「レベッカは聖女じゃない」

「へ?」

 今後の研究方針を考えていたチェンバーが間抜けな顔で首を傾げた。

「レベッカは自己紹介で『私は聖女だ』って言ってたし、アーノルド王子と仲が良いのも本当。
でも、レベッカは聖女じゃないし、将来的にも聖女になれる可能性はない。彼女は今『魔法士見習い』で、おそらく永遠に『魔法士見習い』だと思う」

「なら、なんでそんな嘘を」

「さあ、それは本人に聞かないと分かんない。騙せると思ったのか、いつか聖女になれると勘違いしてるのか」

「⋯⋯じゃあ、ポーション開発はこのまま続行だな」

【ここまでポーションにしか興味ないなんて、清々しいね~】

 チェンバーの夢は初級でも良いので、国中にポーションを行き渡らせる事。安定した品質で常に在庫がある状態が理想だと言う。

「ひとりでは難しいかな。この国の土の問題もだし、魔力に対する知識もないし。
この国に来る途中で見ただけだから、違うかもだけど⋯⋯小麦が育たないなら芋を植えればいいで、終わってる気がする。その考えは間違ってないけど、並行して小麦が育たない理由を考えてるかどうか」

「考えてないと思う」

「土壌改良は農家だけじゃなくて、国や領主が取り組まなきゃダメなんだよね」

 土壌改良には資金も人手もかかる。長期的な計画を立てて、民衆の理解を得て漸く実行に移せる。

「この国の腐った王族や貴族じゃ話になんないよな」



 考え込んでしまったチェンバーを残して寮に戻ったロクサーナは、勢いよくベッドに飛び込んだ。

(真面目な人もいるにはいるんだよね)

 そのまま眠りについたロクサーナが次に気がついた時は真夜中で、夕食を誘いにサブリナやセシルが来たかどうかは分からなかった。

(お腹もあんまり空いてないし、夜の散歩でもしてこようかな)

 昼に比べると夜に徘徊する魔物は大型化凶暴化する。先日、昼間なのにトロールとミノタウロスが出ていた事からすると、もっと凶悪な魔物がいるかも。

(めっちゃ楽しそう。早速行ってみよう!)



 シャツとトラウザーズに着替えて丈夫な皮の靴を履き、防具は胸当てだけで腰に剣を下げた。

 森の入り口まで転移して浮遊魔法で空から森の奥深くへ行くと⋯⋯。

(あ、コカトリス発見!)

 鶏と蛇が混ざったような姿のコカトリスは、雄鶏の産んだ卵をヒキガエルが温めて生まれると言われている。
 コカトリスが水を飲んだだけでその水場を長期間にわたって毒で汚染する。目が合うだけで相手を石化し、飛んでいる鳥を視線で焼いて落下させる。

(石化が面倒だよね。やっぱり凍らせちゃうしかないか)

 隠蔽をかけたまま背後から近付き、凍らせた後に剣で首を刎ねた。血抜きした後異空間に入れて辺りを索敵したが、小型の蛇や魔狼しかいない。

(あいつらは群れで襲ってくるから面倒なんだよね。あ、グラップラーベア発見! あいつはいただきだね)

 グラップラーベアは体長約5メートル。硬い毛並みに守られパワーとスピードを兼ね備えている。

(攻撃力凄いけど冬眠前じゃないから、それほど凶暴じゃないかも。あの毛皮に付与が有効かを試してみようかな)

 グラップラーベアの風下に立ち剣に炎を纏わせた。身体強化して走り出したロクサーナは、グラップラーベアの膝関節を狙って切りつけた。

「ガウオォォォ!」

「やっぱり硬い、一回じゃ無理か!」

 瞬間移動しながら間合いをとるロクサーナの横で、風切音を響かせながら長い鉤爪が通り過ぎた。

「あっぶな~! すっごいパワーじゃん。超楽し~い」

 仕切り直したロクサーナが気合を入れ、グラップラーベアの振り上げた左手を切り落とした。

「ウガァァァ」

(っしゃ! 一個め~)

 グラップラーベアの背後を狙い続け、一本剣を無駄にしたが、振り抜いた剣が右足を切り落とすと、バランスを崩したグラップラーベアが周辺の木々を巻き込んで倒れた。

 ロクサーナの気配に右手を振り回すグラップラーベアとの勝負はもう、ついたようなもの。立ち上がることもできず雄叫びを上げるグラップラーベアの首を切り落とした。

「はぁはぁはぁ、やっぱ縛りありの戦いはキッツイわ。剣が1本折れたし。先にドワーフ狙おうかなぁ」

 息が整うのを待って血抜きの済んだグラップラーベアを収納。血だらけになった全身にクリーンをかけて寮に戻った。

しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 ◇レジーナブックスより書籍発売中です! 本当にありがとうございます!

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~

キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。 パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。 最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。 さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。 その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。 王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。 こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。 ※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。 ※カクヨムにも掲載中です。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)
恋愛
エレナは一度死に戻り、二度目の人生を生きることになった。 一度目は親友のマリアンヌにあらゆるものを奪われ、はめられた人生。 今回は関わらずにいこうと、マリアンヌとの初めての顔合わせで倒れたのを機に病弱と偽り王都から身を遠ざけることにする。 人生二度目だから自身が快適に過ごすために、マリアンヌと距離を取りながらあちこちに顔を出していたら、なぜかマリアンヌの取り巻き男性、死に戻り前は髪色で呼んでいた五人、特に黒いのがしつこっ、……男たちが懐いてきて。 一度目の人生は何が起っていたのか。 今度こそ平穏にいきたいエレナだがいつの間にか渦中に巻き込まれ――。

婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの

鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」 そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。 ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。 誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。 周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」 ――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。 そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、 家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。 だが、彼女の予言は本物だった―― 数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。 国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、 あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。 「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」 皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、 滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。 信じてもらえなかった過去。 それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。 そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。 ――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

処理中です...