【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との

文字の大きさ
38 / 126

36.ロクサーナの狙いとドワーフの願い

しおりを挟む
「邪魔⋯⋯王国は3方向が魔獣の森に囲まれとるけん、あんまり欲しがる奴はおりゃせんで」

「そうでもないと思いますよ~。だってほら、ここに伝説のドワーフさん達がいますからね。魔法士は世界中で減り続けていますから、ドワーフから手に入れられる武器や防具はどんどん希少価値が上がってます」

「わしらは⋯⋯」

「可能性のひとつです。魔力持ちや魔法士が減りはじめて長いですし、原因も突き止められないままです。軍隊を強くする為にはより強固な防具とか、より強力な武器を欲しがるのが普通じゃないですか。
例えば⋯⋯この森と領土が近い帝国」

「⋯⋯」

「いつ頃からかなぁ、帝国が領土を広げる時、東方向の国を重点的に攻めてる気がするんです。鉱山があるとか、交易が便利になるとかって理由があるわけでもない。手に入れてもメリットの少なそうな国の方が多いのに、やたらと東を目指してる。何を防衛したいのか分からないですけど、おかしなとこに砦を建設してますし」

「わしらは他の国の情報には興味がないけん⋯⋯」

「帝国が最強だって言われてる理由のひとつに防具武器があって⋯⋯ほら、これとか」

 ロクサーナが異空間収納から取り出した剣はツヴァイハンダー、ダガー、スモールソード、マスケット銃。

「どれも仕事の依頼で出かけた時にゲットしたんですけど、すごい技術ですよね」

 ツヴァイハンダーは剣身のガードに近い部分に、敵の剣をはね返すための突起が取り付けられ、戦闘特化型のダガーは攻撃力のある厚い両刃。

 レイピアを細く小さくしたスモールソードは、見事な金メッキ装飾や透かし彫りを施した豪華なものなので儀礼用の可能性もあるが、軽量で刺突の攻撃力は高い。

 マスケット銃は先込め式の滑腔式歩兵銃で散弾も発射可能なもの。

「使われている素材もですが、これほどの剣を作れる鍛治師もほとんどいないはず。なのに、帝国ではかなりの数が揃ってるんですよね。マスケット銃はまだほとんど出回ってないフリントロック式ですから優秀な鍛治師の数はかなり必要のはずなんです」

「⋯⋯ほうじゃ。あんたの言う通り、これらはドワーフが作ったもんばかりじゃ。帝国にこれを売ったんは間違いないが、あんたらにとやかく言われる筋合いはないけんの! わしらにはわしらの事情があるんじゃけ」

「帝国の地下で働いてる⋯⋯捕まってるドワーフの為ですか?」

 ドワーフ達が動きを止め、ロクサーナを凝視した。



「なんで知っと⋯⋯ほうか、知っとったんか。奴らは元気にしとったかの?」

「元気⋯⋯う~ん、怪我はしてなかったけど、元気とは程遠かったかなぁ。地下で黙々と武器を作らされてるから、目が死んでるって感じでしたね」

「見たんならなんで、なんで助けんかったんじゃ!? あんたらなら簡単に助けられたじゃろうがぁ」

 酒甕の横で立ち上がって叫んだのは、一番初めに顔を出したドワーフで、名前はドルフ。

「逆なら助けますか? 危険な場所に潜入している時、牢に人間が監禁されていた。ドワーフは『なんて可哀想なんだ!』って助けるんですか?
値切るとか盗むとか騙すとかが大嫌いなんですけど、おんなじくらいタダ働きも大嫌いなんです。2度と搾取される側には回らないって決めてます」

 帝国の王城の地下にある巨大な作業場には幾つもの炉が設置され、6人のドワーフが働かされていた。壁際には鉱石や皮などが種類毎に整理して置かれ、その横には汚れた毛布が丸めて置かれている。

 間が1メートル以上開いた二重の鉄格子、監視する複数の帝国兵はマスケット銃を肩から下げていた。

 自分達の作った武器で監視される理不尽さを毎日目にしながら、働かされるのはどれほどの苦痛か⋯⋯。

「生活の全てがそこで完結してる感じでした」


「お金を払ったら、助けてくれるんじゃろ? 村長、払ってあげて! お願いじゃけん」

「金でも武器でも欲しいもんを言うてくれ。んで、あいつらを助けてくれや!」

「⋯⋯いや、それはやめた方がええ。失敗した時のことを考えてみい。ここにおるドワーフがどうなるか⋯⋯村長として、わしはこの村の者を守らにゃ」

「くそぉ! 帝国の奴らなんか⋯⋯」

「ねぇ、なんとかなんならんの? 仲間がそんとなとこで働かされとるなんて、我慢できんのよ」

「相手は帝国じゃけん、どうにもならん! ほんじゃけ、わしらは黙って武器を作ってきたんじゃろうが!! 助けれるもんなら、とうに助けとるわ」

「ほんなら、一体いつまで我慢させりゃあ、ええんね!? 死ぬまで我慢させるんね!?」

「なあ、こんだけよおけ沢山の精霊を従えとるんじゃけ、帝国からドワーフを助け出すくらいできるじゃろ?」

 そうだそうだとドワーフ達が騒ぎはじめた。

 ドワーフの平均寿命は300年と言われ、長い生を地下牢で過ごさせるのは辛すぎる。

「助けられる可能性はあります。でも、失敗する可能性がないわけじゃない」

 王城には結界の魔導具が何重にも仕掛けられていた。中心に鉄骨を入れた強固な壁、帝国兵が守る幾つものドアを通り抜けないと辿り着けない地下牢。最後には二重の鉄格子。

 結界が壊されてから結界を張り直すまでに、どのくらいの余裕があるのかもわかっていない。

「ほんでも、前に忍び込んだんじゃろ? なら、なんとかなるんじゃないんね」

(長年捕まっていたら、頑固なドワーフは疑心暗鬼になってるはず⋯⋯信用されないとも限らないよね)

「一番の問題は結界で⋯⋯解除した後、どのくらいの猶予があるのか分かれば⋯⋯。それに、転移する前には隷属の首輪を外す必要があるし、帝国兵に紛れて忍び込んだ前回とは条件が違うんです」

「失敗したらどうなるん?」

 救出に一番積極的なこの人はカジャおばさんで、親戚が捕まっているそう。

「地下牢へ逆戻りになったら今より働かされるし、この村へもなんらかの要求がくるはず」

「運が悪ければこの村のもんも、帝国行きじゃろうのう」

 村長のブランドンが髭を触りながら呟いた。帝国のドワーフは助けたいが、村には多くのドワーフがいて、彼らの生命と生活も守らなければならない。

「その可能性は高いですね。それでもやってみたいなら仕事を受けます」




「⋯⋯あんたらの用事はなんね? くそ寒い中をわざわざここまで来たんじゃけ用事があるんじゃろ?」

「武器を作って欲しくてきたんです。大型の魔物と戦ってるとすぐ折れちゃうんで」

「⋯⋯今晩は泊まっていきんさい。雪も吹雪いてきとるし、ちいと考えさせてもらうけんね」



 村長の家の奥まった部屋に案内されたロクサーナ達は、食事と風呂を済ませて赤々と薪の燃える暖炉の前に座った。

【ドワーフ達、やるかな】

「やると思うよ。人間と違ってドワーフって仲間意識が高そうだもん」

【ピッピ、先に行って調べてくる?】

「計画がある程度固まったら頼もうかな。帝国は底がしれないからね、精霊を探知できてもおかしくないかもだし」

 情報は欲しいが、そのせいでピッピが危険になっては本末転倒になる。

(結界の魔導具がどのくらいの強度で、どのくらいの数が設置されているのか。それを調べてからじゃないと、何も決められないなあ)

【ロクサーナはやるつもりだったんだろ?】

「半々かなあ」

 雪解けまでに1ヶ月くらいか。その間にドワーフを助け出し、帝国に一泡吹かせたい気持ちは大きい。


(魔導具士を炙り出せるかもだしね)

しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 ◇レジーナブックスより書籍発売中です! 本当にありがとうございます!

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~

キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。 パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。 最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。 さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。 その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。 王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。 こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。 ※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。 ※カクヨムにも掲載中です。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)
恋愛
エレナは一度死に戻り、二度目の人生を生きることになった。 一度目は親友のマリアンヌにあらゆるものを奪われ、はめられた人生。 今回は関わらずにいこうと、マリアンヌとの初めての顔合わせで倒れたのを機に病弱と偽り王都から身を遠ざけることにする。 人生二度目だから自身が快適に過ごすために、マリアンヌと距離を取りながらあちこちに顔を出していたら、なぜかマリアンヌの取り巻き男性、死に戻り前は髪色で呼んでいた五人、特に黒いのがしつこっ、……男たちが懐いてきて。 一度目の人生は何が起っていたのか。 今度こそ平穏にいきたいエレナだがいつの間にか渦中に巻き込まれ――。

婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの

鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」 そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。 ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。 誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。 周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」 ――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。 そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、 家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。 だが、彼女の予言は本物だった―― 数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。 国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、 あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。 「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」 皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、 滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。 信じてもらえなかった過去。 それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。 そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。 ――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

処理中です...