【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

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38.しつこく粘り続けるレオンの過去

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 翌朝、朝食の後ロクサーナが宿を出ると、レオンが向いの店の壁に寄りかかって眠っていた。

(あれってやっぱり?)

【だね、レオンってしつこいから】

【ジルベルトみたいだね~】

 出発時間は知らせていなかったから、ロクサーナが出発するまで待ち続けるつもりだったのだろう。

 地面に腰を下ろしたレオンが、立てた膝の間に荷物と剣を抱え込んでぐっすりと眠っている。

(よく無事だったねえ)

【荷物もなくなってないし、この町って治安良かったっけ】

(いや、ならず者とか結構いるよ?)

 レオンの前にしゃがみ込んだロクサーナがレオンの顔を覗き込んで、ミュウ達と念話していたが、一向に起きる気配がない。

(ある意味、大物?)

【運のいい間抜けだね】

 放っておくか声をかけるかで悩んだが、結局声をかけることにした。レオンの耳元に口を寄せて大きく息を吸い込んで⋯⋯。

「かぁじだあぁぁ!」

「ひっ! ど、どこどこ!?」

 いつでも剣を抜けるように左手で持ったのはまあ及第点か。寝ぼけた目を必死に開けて、キョロキョロと辺りを見回す間抜けなレオン。

「おはよ~」

「ジ、ジル⋯⋯今、火事って⋯⋯火事は?」

「なんのことかなぁ、ここで何してるのって聞いた方がいいのかなぁ」

 目を眇めて顎を突き出したロクサーナが、レオンの荷物を足でつついた。

「なんで~ここに~荷物が~あるのかな~⋯⋯あ、レオンも出かけるの? 僕も出かけるんだけど、レオンはどっちに行くの?」

「えーっと、あの⋯⋯俺も連⋯⋯」

「じゃあ、気をつけて。またいつか会えるかもだから、その時は気が向いたら声かけて」

「ジ~ル~、俺も~! お願い、俺も一緒に連れてってってぇ。お願いします、絶対の絶対、足手纏いにはならないって約束するからさ」

 男のくせにパチンと手を合わせて『ねっ!』と言いながら首を傾げた仕草が妙に似合っているレオンは、受付嬢と食堂と酒場のお姉さん達から狙われている。

 おいしい依頼をこっそり教えてくれたり、オマケの料理が届いたり、何故か席をキープしてあったりするのはレオン⋯⋯質問すると無視されたり、料理がほんのちょっぴりに減量されていたり、空いてても『満席で~す』と言われるのがロクサーナ。

 レオンと一緒に討伐に行くようになるまではなかった、理不尽な現象が増え続けている。

「そう言うのは⋯⋯発情期のきてる受付嬢とか、万年つがいを探してる食堂のお姉さんとか、うっかりお酒を飲ませて既成事実を作ろうとする酒場のお姉さんの前でやってあげれば? 僕は興味ないから」

 心の中で『イケメン爆ぜろ』と念じながら睨みつけたが、レオンには全く効果がなく、俺には二心も邪心もありませんから⋯⋯みたいな笑顔でジルを見つめ返すレオン。

「えーっと、出発しないの?」

「着いてくる気満々の奴がいるからね~、面倒くさくて動けないんだよね」

 ロクサーナはこれから南の森で魔導具を回収し、帝国に向けて出発する予定でいた。ひとりなら1時間もかからず帝都にいて宿に入っているはずだが、レオンが一緒だと数日かかる。

(時間がもったいなさすぎる)

「昨日は諦めようと思ったんだけど⋯⋯そんなに時間は取らせないから、どこかで説明させてくれないかな」

 今まで見た事がないほど自信のない顔でレオンが顔を覗き込んだ。落ち込んでいるように見えるのに、どこか必死な様子のレオンが溜息をついた。

「馬鹿げた話だって思われるかも⋯⋯今まで家族にしか話した事ないんだけど、聞いて欲しい」

「⋯⋯話だけなら」


 
 ロクサーナとレオンは森の入り口近くで、乾いた倒木を見つけて腰を下ろした。朝の弱い日差しが、黒っぽく汚れた雪を溶かそうと頑張っている。

 人前なのでアラクネのローブを着ていないロクサーナは、寒さで身を縮こまらせた。

「俺、時々夢を見るんだ。いい夢は少なくてさ、大切な物をなくすとか怪我をするとか⋯⋯一番酷いのは11年前、親戚のうちに泊まりに行ってた時で、馬車の事故で死ぬ夢を見た。起きた時大泣きして両親に話したらしいんだけど、出かけるのが嬉しくてすっかり忘れて⋯⋯。
そうしたら、馬が暴れて馬車が横転して夢が本当になりかけた。たまたま聖女様が近くにいたらしくてさ、助かったのは奇跡だって大騒ぎになったんだ。
それ以来、家族も俺も夢だからって馬鹿にしないって決めたんだ。それからも時々見るんだ。結構リアルだから、子供の頃はよく泣いてた」

 見たものがそのまま即現実になる『正夢』は、具体的で現実的な未来のビジョンであることがほとんど。朝方に見る事が多く、夢の細部まで覚えている事が多いという。

 イメージやメッセージを伝えてくる『予知夢』は現実になるまでに数か月~数十年かかることもあり、鮮やかな色彩を伴っていることが多いという。

「でも、いい夢もいくつかあってジルに会えたのも、そのひとつなんだ。この町に来たのはペットを連れた紫の目の女の子に会いに行く夢を見たからで、髪の色は違うけど顔は間違いなくジルだった。だから、必死で声をかけたんだ。
で、今朝また夢を見てさ。ジルと一緒に灰色の石造りの家が並ぶ街にいて、軍人っぽい人が大剣を腰に差してた⋯⋯その次は暗い廊下を歩いてた。コツコツ音がしてたから石造りの廊下だと思う。で、地下牢みたいなとこが見えた後ガシャンって大きな音がして、ジルの名前を叫んだ時、目が覚めた」

「⋯⋯ペット」

「ジルの髪は銀に近いシルバーブロンドだったけど、ストレートのサラサラで絹糸みたいに光ってた。で、それとお揃いの銀色の子猫⋯⋯耳がピンって立ってて、ノルウェージャンフォレストキャットみたいな感じの子に、すっごい威嚇されて。子猫なのに鼻に皺寄せてさ、シャーって」

【子猫じゃなーい】

【でも、お耳ピ~ンはあってるねえ】

(夢は本当かも)

 ジルとして活動する時は茶髪に変えているが、ロクサーナの髪の色は銀に近いシルバーブロンド。ミュウも銀色で毛足は長い。

「⋯⋯分かった。最後の音は罠にかかった音かもしれないから、しっかり注意して行くよ」

「一緒に連れてってくれないか? ダメなら俺ひとりでも行くつもりだけど、できれば一緒に行きたいんだ。多分、いや、間違いなく本当になるから」

 レオンは恐らくどこかの国の高位貴族の令息のはず。

 シャツとトラウザーズで地面に座り込んでいてもどこか貴族らしさが抜けず、食事のマナーや無意識にエスコートしようと手が出るところも、厳しく躾けられた貴族の子の所作に違いない。

「レオンがどこの国の人か知らないけど、今回はマジで無理。時間が足りないし、危険すぎる」

 帝国には転移で入るつもりだし、レオンを付き合わせて犯罪者にするわけにはいかない。

 立ちあがりかけたジルの腕を掴んだレオンが、しつこく頼み込んでくる。

「何度言われても無理なものは無理! マジでしつこい」

 格闘する事1時間⋯⋯。

「凄え、ジルと喧嘩してるぜ⋯⋯」

「やっぱ、レオンって真面じゃねえよな」

「ジルに喧嘩売るよりゃ、ドラゴンと戦う方がましだぜ」

 ドラゴンなら見逃してくれそうだと言いながら、冒険者が逃げて行く。近くを通り過ぎる農夫は『お兄ちゃんと仲良くね~』と言って手を振っていった。

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