【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

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39.初めての転移は必ず◯◯を吐く

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 今までの経験から『必ず起きる』未来で、ジルが危機に陥ると知っていて知らん顔はできないと言い募るレオン。

 他人の事は放っといてくれと言い続け、ひとりの方が安全だと言い張るロクサーナ。



 軍配はレオンに上がり⋯⋯。

【押しに弱いよね~】

(うるさいなぁ、もう)

 かなりやけっぱちになっているロクサーナと、後方支援のみと言う約束を取り付けたご機嫌なレオンは、南の森の奥へ向けて歩いていた。

「この辺りまで入ると、この時間でも結構冷えるよね~」

「⋯⋯レオン、魔法契約をするならいいけど、しないならここで解散する」

「いいよ、魔法契約しよう」

 内容も聞かずに頷いたレオンは『お、セイヨウヒイラギだ』と喜んでいる。

「内容を聞いてから返事をしないとダメじゃん! 魔法契約の恐ろしさ、分かってんの!?」

「話では知ってる。下手すると命懸けになったりするから、細かい穴がないか確認しろとか、できる限りするなとか」

 タチの悪い魔法士が作る抜け穴は、相手の行動の自由を生涯に渡って奪ったり、財産を搾り取ったり⋯⋯被害の内容は悪辣なものが多い。

(知ってるなら用心しろって!)

「ジルは俺を⋯⋯人を騙さない。騙すより関わらないことを選ぶタイプだもんね」

【よく知ってるね~、すごぉい。レオン、ちょびっとお利口さんかも~】

「⋯⋯今から4月末までに見聞きした事は、生涯に渡って誰にも言わないって言う契約」

 スタンピードはいつも3月中旬に起きるので、余裕を持って4月末の期間にした。

「分かった、4月末までだね。家族や友達にも話さない」



「レオンはロクサーナ・バーラムとの間で今から4月末までに起きた出来事とロクサーナ・バーラムに関して見聞きした事を口外しない。ロクサーナ・バーラムはレオンの生命を保証し怪我の完全治癒を行う。違反し⋯⋯」

「レオン・カートレットはロクサーナ・バーラムとの間で今から4月末までに起きた出来事とロクサーナ・バーラムに関して見聞きした事を口外しない」

「ロクサーナ・バーラムはレオン・カートレットの生命を保証し怪我の完全治癒を行う。違反した場合、レオン・カートレットは生涯オネエ言葉で話し続け、耳毛が伸び続ける。ロクサ⋯⋯」

「待って待って! そのペナルティはヤダ! オネエ言葉はまだしも耳毛は無理。別ので」

「じゃあすね毛にする」

 伸び続けるすね毛を毎日剃り、オネエ言葉で話す自分の姿を想像したレオン⋯⋯。

「⋯⋯チェンジで。あ、いや。契約を破らなきゃいいんだから⋯⋯うん、それでいいよ。それにしても本当はロクサーナって言うんだね」

 若干引き攣り気味のレオンとの魔法契約を終わらせた。ロクサーナのペナルティはいつも通り、全財産と生命。



「じゃあ、転移するから手を繋いで」

「へ?」

 ロクサーナが右手を差し出したが、ぽかんと口を開けたままのレオン。

「行かないの?」

「い、行く行く。でも、転移って聞こえたから」

 恐る恐るロクサーナの手を掴み『ちっちゃ!』と言うレオンの呟きが消える前に景色は変わっていた。

「おえぇぇっ!」

 初めての人にありがちな転移酔いで、口を押さえたレオンがしゃがみ込んだ。

「スッキリするからこれ飲んで。朝食を吐き出さなかっただけマシだよ~」

 レモンと蜂蜜を入れた水を飲んだレオンが復活するまで暇になったロクサーナは、辺りを索敵して溜息をついた。

(今日は全然魔物がいない、暇すぎる)



「はぁ、ホントに転移したんだね」

 木の間から日差しが差し込んでいた先ほどまでの景色と打って変わって、競い合うように林立する木のせいで薄暗い森の奥地。

 泥濘んだ地面をロクサーナが歩きはじめたビチャビチャと音が聞こえ、辺りを見回していたレオンはロクサーナを追いかけた。

「待って、ジル⋯⋯ロクサーナって呼んでもいい?」

「ダメ、僕はジルだからね!」



 樹々の間を抜けると、ぽっかりと空いた草地の中に隠れるようにして、大きな口を開けた岩が見えた。

「こんなとこに⋯⋯これってダンジョンだよね」

「地下10階、小型の魔物がほとんど。5階のボスはオークキングでラスボスはオーガ。ダンジョンとしてのランクはわりと低いけど、魔物が増え続けてる。いずれ、全部の階層がモンスターハウスになりそうな勢い」

 ダンジョンで産み出される魔物の種類は各階ごとにほぼ固定で、その設定はダンジョンコアが行うと言われている。

「ここにいるのはゴブリン・コボルト・魔狼・アルラウネ・オークとかが5階まで。その後はゴーレムとか毒や状態異常を仕掛けてくるやつとかもいて、もう少しは楽しめるかなって感じ」

「つまり、ここがスタンピードの原因で、いつ溢れ出してもおかしくないって事だよね」

「ところが、入り口に結界の魔導具が仕掛けられてて、魔物は外に出てこれないようになってる。しかも、魔物の異常発生の原因は、各階層に仕掛けられている魔力増幅の魔導具」

「つまり⋯⋯魔導具で増え続けた魔物が、結界の魔道具のせいで閉じ込められてるダンジョン? 怖すぎだろ」

「そう。各階の魔物は増え続けて殺し合ってて、ボスはどんどん強くなってる」

「スタンピードは人為的なものって事か、一体誰がなんのためにそんな事をやってるんだ?」

 瘴気や魔力で生み出されていると言われている魔物達を増やしている魔導具と、それを押さえ込んでいる魔導具。

「それを設置したやつを突き止めるのが今回のミッションのメイン。結界を張ってる魔導具を外して別のに変える間、見張りを頼む」

 魔法陣のくせやこだわりなど魔導具には作成者の個性が現れ、有名な魔導具士の中には自分の名前を刻印するものまでいる。

「僕の予想が正しければ、魔導具士の居場所は帝国なんだ。魔導具を分解すれば作成者が特定できる可能性が高いから、犯人を絞り込みできる」

 結界の魔導具が作れるほどの腕を持つ魔導具士は数が限られているが、捕まえるには証拠が必要になる。

(帝国の王宮に張られた結界も同じ奴が作ってると思うから、忍び込む前に魔導具の情報を吐かせたいんだよね。それができれば一挙両得ってやつなんだよなぁ)


「じゃ、よろ~」

 手ぶらで空に浮かび上がったロクサーナを見上げて、ポカンと口を開けていたレオンが慌てて剣を抜いた。

「虫が入るぞ~」

 魔導具が設置されているのは、ダンジョンの入り口がある岩の裏側で、少し離れた場所に生えた木の中程。大人が手を伸ばしても届かない高さで、大きく枝分かれした箇所にガッチリと固定されていた。

「よくもまぁ、こんなこと考えるよね。正面につければ毎回壊されるけど、ここなら何回でも使えてお得ってやつ?⋯⋯えーっと、どこかにスイッチが⋯⋯あ、あった」

「レオ~ン、結界消えるよ~」

「分かった! 気を付けて」

 レオンこそ気を付けろと呟きながら魔導具を取り外した。サイズは両手で抱えるくらいで、思ったよりもかなり重い。

「うわっ! ヤバいヤバい。壊すとこだったよ。も~、素材、何使ってんの? めちゃめちゃ重いんですけどぉ」

【落としたら復元するくせに~】

「テヘッ」

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