【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との

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59.予定が決まったジルベルト司祭

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【ごめんね、緊急事態でさ】

【ピッピもごめんねするよ~】

【僕からも】【モグッ】

【ありがとう】【ありがとう】

【苦労をかけるが】【よろしく頼む】

【いいのよ、この子って絶対ぜーったい諦めないもの。頑張るわ⋯⋯疲れるけど⋯⋯ものすご~く疲れるけど。イケメンに続いて時の神や精霊にも頼まれたら、頑張るしかないじゃない】

 溜め息をついたアラクネがせっせと魔糸を吐き出した。



「おお、こんなに沢山なの!?」

【まあ、お礼も兼ねてる感じかしら】

 スタンピードの原因だった帝国兵達をロクサーナが捕縛し、ダンジョンの魔導具の撤去をしてくれたお礼だと言われて驚いた。

「そうか! 西の森のダンジョンにはアラクネがいたんだった」

 変異種のアラクネは元々ダンジョンボスだった。強制的にスタンピードを起こされた時に逃げ出し、それからは森で生きてきたと話してくれた。

【私の後輩もあそこにいるからねぇ⋯⋯】

「なんだか魔物の方が人情あるかも。魔情の方が尊い⋯⋯」



「ねえ、うちの島にお引越しとかどうかな?」

【えっ! 嫌に決まってるじゃない。魔糸を出し過ぎて干からびる未来しか見えないもの⋯⋯あ、でもぉ⋯⋯そこのイケメンとお茶できるなら考えても良いわよ~】

「んじゃ、決まりだね! 1日1回ジルベルト司祭を島に強制転移して貸出しする」

 呆然とするジルベルト司祭の目の前でハイタッチしているロクサーナとアラクネは、『引越しはいつにしようか』などと話している。

 ジルベルト司祭の予定も意思も確認しないまま、お茶会の開始日時が決まっていた。




 そんな魔糸で作られたのは、光の加減で淡いグリーンにも輝いて見える、ハイウエストの白いワンピース型のドレスで、シュミーズ・ア・ラ・レーヌと呼ばれるもの。

 裾と前面には植物模様の刺繍が施され、前中心と袖と衿ぐりにはドロン・ワークと呼ばれる技法で布地に模様が描かれている。後部にはたっぷりとギャザーが寄せられ、スカートはトレーンをひいている。

 古代ギリシア・ローマの彫像を思わせるドレスに、リバーレースのショールをゆったりと腕にかけるこのスタイルは、ここ数年大陸で流行りはじめたばかりの物。

 少し広く開けられた胸元を飾るのは、チョーカータイプのネックレス。小粒のダイヤモンドで囲まれたサファイアは、鮮やかなコーンフラワーブルー。濃い青と柔らかい色合いのドレスのコントラストが美しい。

 ハーフアップにした髪に飾られるのは、ブルーダイヤの小ぶりな髪飾り。

【ねえ、ドレスとアクセサリーの色がさぁ⋯⋯】

【青と緑だね~】

「たまたまよ、た・ま・た・ま! それよりも、最後の勝負の準備はできた。ポンコツ&クソ女⋯⋯かかってきやがれぇぇ」





 準備万端整えたロクサーナは卒業パーティーが開催されはじめた頃、隠蔽魔法をかけて王宮に転移した。

(何度見ても豪華だねえ⋯⋯ガッツリ払ってもらえそうだよ)

 パーティーの会場となる大広間にはすでに多くの人が集まっているようで、賑やかな声が聞こえている。

 人気のない控室を見つけたロクサーナは隠蔽を解いて、当たり前のような顔で会場入りした。

 高い天井に描かれた宗教画には、天使が水辺で微睡み古書に描かれている姿の精霊達が飛び回っている。

 涼しげな白色のライトで照らされた会場。白い壁にかけられている大きなタペストリーに織り込まれているのは、この国の歴史だろうか。

 会場中に飾られた大量の美しい薔薇はチェンバー先生の努力の賜物。

『薔薇の育て方なんて知るわけないのにさぁ⋯⋯まあ、研究費割増してくれるって言うから仕方なく受けたんだけどね。
あの偽聖女が煩くって、ブチ切れそうだった。上級ポーションの恨みがどうのって、意味わからん』

 大きく開いたテラスの窓から夏の風に乗って花の香りが漂い、大勢の人の熱気を冷まそうと懸命に努力してくれている。

 大広間と続く庭は魔導具でライトアップされ、腕を組んだ恋人達や晴れやかな顔の卒業生がそぞろ歩きしていた。

 正面の雛壇には豪華な椅子が6脚。国王夫妻とグレイソン王太子とイライザ公爵令嬢、ポンコツとレベッカだろう。

(グレイソン王子って初お目見えだよね。そうか、ひとりくらい真面な人がいる事を祈ろう)

 レベッカはもちろんだがサブリナとセシルの姿も見当たらず、ロクサーナは呑気なぼっち状態で暇を持て余し、部屋の隅から料理の置かれた隣の部屋をチラ見していた。

(何の匂いかな⋯⋯うう、気になる~)




「ロクサーナ⋯⋯だよね!?」

 入学してからほんの2ヶ月しか登園しなかったので、知り合いはいない。クラスメイトの顔もほとんど覚えていないのに⋯⋯と、不思議に思いながら振り返ると、見慣れない男性が不安そうに立っていた。

「えーっと、誰?」

「ひ、酷いよお。僕はこの日だけを待ち続けて、毎日を耐え続けてたのに~! 元気のない薬草み⋯⋯」

「チェンバー先生!? いや~、化けましたね~。ビックリです」

 モジャモジャの髪をすっきりと短く切り、ヨレヨレで汚い白衣を脱いだジェイムス・チェンバーはちゃんと27歳に見えた。

(陽に焼けた顔の中でおでこだけ白いのがウケるけど、優しそうな垂れ目がはっきり見える)

「なんか別人みたいだし、すっごく目立ってるから⋯⋯声をかけにくくてさ」

 会場にいる女性達が身に纏っているのは、ローブ・ア・ラングレーズと呼ばれるスタイルのドレスばかりで、コルセットで締めた細いウエストとバッスルで、女性らしいラインを強調している。

 ロクサーナの纏うシュミーズ・ア・ラ・レーヌはその中で奇異に見えかねないほど目立っている。

 背が低くほっそりとしたロクサーナは精巧に作られたビクスドールのよう。

(回復魔法で日焼けも消してお肌は艶々、化粧もバッチリ⋯⋯自分でも別人に見えるもんね。それにさぁ、凹凸が少ないからローブ・ア・ラングレーズだと借り物みたいなんだもん。いずれはボンキュッボンで見返すけど)



 チェンバー先生と薬草の話で盛り上がっていると舞台にポンコツ達が現れ、流れていた音楽が小さくなった。

(国王やら、謎の王太子やらは出てこんの?)

 ポンコツの横に並んだレベッカはピンク盛り盛りのローブ・ア・ラ・フランセーズ。大きく膨らんだペチコートが周りの女性達と一線を画していた。

(おおっ、ティアラだ! 綺麗だねぇ)

 結い上げられたピンクブロンドに飾られたティアラには、ダイヤモンドが煌めいている。

 アクセサリーも全てダイヤモンドで統一され、ドレスにも大量に縫い付けられているようで⋯⋯目が痛い。

(これってさぁ、悪趣味でみんなが見飽きてるイベントをやるっぽくない? レベッカがポンコツの婚約者確定って周知されてるのにさ)

【大勢の前で恥をかかせたい、Byミュウ】

【すっご~く目立つから~! Byピッピ】

【僕はドヤってしたいんだと思うな、Byウルウル】

【派手好きだからモグッ、Byモグモグ】

【バカだから⋯⋯だと思うよ、Byルル】

【アホだから⋯⋯だと思うの、Byミイ】

【反省するまで異空間に閉じ込めてやるか、Byカイロス】

【一気に時間を進めて年寄りにしてやろう、Byクロノス】

(ここ最近は全員が色々と話をしてくれるんだよね~)

 そのお陰でロクサーナのプライベートは楽しくなるばかりで、通信鏡の向こうにいるジルベルト司祭の笑顔も増えていた。



(もちろんだけどさ、やるなら受けて立つよ? 社会的に死にたいなら⋯⋯かかってこいや~。だよ?)

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