【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との

文字の大きさ
96 / 126

87.やるならできる限り派手にして楽しみたい

しおりを挟む
 人でごった返していた広場の中央は大きな丸を描くように人が消え、観光客や見物人達は広場の周りで押し合いへし合いしている。

「さーて、今ならまだ許してやっても良いんだぜ~? 俺たちゃ優しいからよお、詫び代払って土下座でもすりゃ許してやる。だよな~」

「おう、細っこーい兄ちゃんとガキじゃ、遊びにもなんねえもんなあ」

 向こうは因縁をつけてきたおっさんと仲間が5人。真っ黒に日焼けしているので漁師なのかもしれない。全員筋肉もりもりで薄汚れたシャツが弾けそうになっている。

「サーナ、下がってろ」

「え~、私も遊びたいです~。6人だから半分こで!」

 周りを取り囲む野次馬達が賭けをはじめ、帽子を逆さに持った男が掛け金を回収している。

「ねえ、そこの帽子を持った兄ちゃん! 私も参加させてくれる? 勿論、私たちの勝ちに賭けるからね!」

「良いぜ! 掛け金投げて寄越しな!」

 ロクサーナが景気良く飛ばしたのは⋯⋯。

「うっひょお! おい、見ろよ! 白金貨だぜぇぇ」

「「うおぉぉ!」」

「俺も賭けに乗った~!!」



 見物人達が一斉に騒ぎ出し、賭けはどんどんヒートアップしていった。それまでは銅貨が殆どだった帽子の中に、銀貨が増えていく。

「白金貨賭けるくらいだせ、自信があんじゃねえの?」

「バカ! あの兄ちゃんはどう見てもお貴族様だろ? 白金貨なんて唸るほど持ってんだよ!」

「白金貨なら全員で分けても、良い金になる」



「デニス! お前らに賭けたんだ、負けたらタダじゃおかねえからな!」

(全く⋯⋯人嫌いのくせに、騒ぎを大きくしてるよ)

 苦笑いしたジルベルトがロクサーナに声をかけた。

「⋯⋯俺は右から3人だな。見物人が一杯だから、周りに気をつけろよ」

「はい! 魔法なし縛りでやるから、先に終わった方にご褒美ありで。おっさん達、勝つ自信があるんでしょ? いつまでも突っ立ってないでかかってくれば?」

「うるせえ、このクソガキがぁぁ」

 カットラスを振り翳して走り込んできたおっさんに、ロクサーナの派手なパラフーゾ飛び回し蹴りが決まった。

「ぐへえぇぇ!」

「くそぉ!」

 大きく腕を振りかぶった男の膝にローキックを決め、膝をついた男にコークスクリュー・ブローを叩き込むと、血飛沫と共に折れた歯が飛んでいく。

 ロクサーナを心配してチラチラと横目で見ていたジルベルトが、近くにいた男のカットラスをダガーで弾き、腹にパンチを決めた。連続してもう一人に蹴りを入れ、カットラスを持った男と斬り合いをはじめた。

 刺したり投擲に使う事が多いダガーには致命傷を与えるほどの威力はないが、使い方によっては⋯⋯今回のような多くの人が近くにいる戦いではかなり有効だろう。

(破落戸みたいに『いちゃもん』をつけてきた相手でも、見物人の前で殺るのはまずいもんね)

「カットラスを使うって事は海賊だったりするの?」

「海賊じゃねえ! 俺たちゃ船乗りだ」

 カットラスは湾曲した刃を持ち片手で扱う刀身が短い刀で、 狭く障害物の多い帆船の甲板上での戦闘の取り回しに優れている。

「船乗りもおかじゃあんまり役に立たないみたいね」

 最後の一人に見事な金的を喰らわすと同時に、ジルベルトも最後の一人を叩きのめしていた。

 しんと静まりかえった広場に、大歓声が巻き起こった。

「「「凄えぇぇえ!」」」

「うおぉぉぉ、兄ちゃんもちびっ子も凄かったぜぇぇ」



「どっちが早かった!?」

「同時じゃないかな」

「最後の一人⋯⋯タイミングを合わせて倒したでしょ? ずる~い」

 カットラスを持った巨体にダガー1本で立ち向かったのに、戦いのはじめから最後まで余裕を見せていたジルベルト司祭は、意外にもかなり鍛えているのだろう。

(仕事中毒かと思ってたのに、体術とか剣術をあそこまで覚えてるなんて⋯⋯ううむ、戦ってみたい)



 小銭が大量に入った袋を渡されて『掛け金は、アンタらがほぼ総取りだぜ』と言われたロクサーナ達は苦笑いを浮かべ、元イカ焼きのおじさんのところに戻った。

「凄えな、ちびちゃんは踊ってるみてえだったし、兄ちゃんは勇者様みてえじゃんか。ほら、タコ焼き出来てるぜ⋯⋯銀貨1枚⋯⋯毎度あり」

「私達に賭けた人が殆どいなかったとは⋯⋯」

「そのお陰で、小銭がじゃらじゃらだよ。へっへ~。でね、この町に孤児院ってある」

「ああ、一応な」

 前領主の代から援助や寄付金が廃止された孤児院は、老朽化した建物に浮浪者のような風体の子供達が住んでいると言う。子供達が農家や港で手伝いをして糊口を凌いでいる有様で、スラムのような状態になっている。

「ええっ! 責任者っていうか大人がいないの!?」

「ああ、とっくに逃げちまった。新しい領主に期待してたんだが、へっぽこで役に立たねえし。たまに店やら屋台の奴等であまりもんを持たせてやるんだが、酷えもんだぜ」

 片手にソースのかかったタコ焼きを持ったまま、屋台のカウンターにドシャっと小銭の入った袋を置き⋯⋯。

「孤児院に全部寄付する。金の管理はおじさんに任せるからね」

「なんで俺? このままネコババするかもだぜ?」

「そん時はお仕置きに来るから⋯⋯全身ツルッツルにして、2度と母ちゃんと楽しめなくなるように永遠の勃起不全にして、アルコールで蕁麻疹が出るようにし⋯⋯モガッ、ムググッ」

 ジルベルト司祭に後ろから口を塞がれたロクサーナが見上げると、『やり過ぎだからね』と口が動いた。

「面倒をかけますがお願いできますか? 素直に頼めないみたいであれこれ言っていましたが、この子が信じている方ならお任せできると思うんですが、いかがでしょうか」

「⋯⋯しょうがねえ。以前、ちびちゃんには稼がしてもらったしな。こんな大金を孤児院に持ってくわけには行かねえし⋯⋯ギルドに預けて、毎月ちびちびと渡すとするか」

「ありがとう! 後でタコ焼き買いにくる。50本分で金貨2枚と銀貨5枚、置いとくね」

「相変わらずの大量注文だな、毎度あり~」

 前回や前々回で慣れているおじさんは『持って帰れるのか?』などと余計な事は聞かない。

(収納バッグとやらから船を出したくれえだから、いくらでも入るだろうしな)



「あ! 海老だ、海老食べたい」

「白身魚のフライだ~、旨し!」

 焼き立ての車海老にジルベルトの顔も綻び、フライの熱さで涙目になっている。

「美味しいな⋯⋯なんのスープか分からないけど」

 周りからあれこれ言われるのが面倒で、教会では食堂で食べる事は殆どなく、出来立ての熱々は滅多にお目にかからない。

「ちゃんとご飯を食べないと大きくなれませんよ」

「ププッ、どっかで聞いたセリフだな。俺はこれ以上大きくなれなくても良いけど、温かい料理は良いね」

 最近は料理好きのカジャおばさん達から昼の弁当を買っているが、島で食べるのも悪くない。

 帆立の串焼きを買いがてら大量の貝殻を購入し、港に向けて歩く頃には海風がおさまりはじめていた。

「夕凪か⋯⋯思ったより時間が経ってたな」

 陸地が暖まっている昼間は海から陸に向かって海風が吹き、夜は陸から海に向かって陸風が吹く。海風と陸風が交代する頃に風が弱くなるのが朝凪と夕凪。

 港町の子供達は夕凪になると『家に帰らなきゃ』と、時計がわりにしている。

「お腹いっぱいで夕食は入らなさそう。少し身体を動かしたいかも⋯⋯」

 ジルベルト司祭を見上げたロクサーナの顔に『やるよね?』と書いてある。

「言うと思った。じゃあ⋯⋯」

しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 ◇レジーナブックスより書籍発売中です! 本当にありがとうございます!

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~

キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。 パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。 最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。 さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。 その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。 王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。 こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。 ※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。 ※カクヨムにも掲載中です。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)
恋愛
エレナは一度死に戻り、二度目の人生を生きることになった。 一度目は親友のマリアンヌにあらゆるものを奪われ、はめられた人生。 今回は関わらずにいこうと、マリアンヌとの初めての顔合わせで倒れたのを機に病弱と偽り王都から身を遠ざけることにする。 人生二度目だから自身が快適に過ごすために、マリアンヌと距離を取りながらあちこちに顔を出していたら、なぜかマリアンヌの取り巻き男性、死に戻り前は髪色で呼んでいた五人、特に黒いのがしつこっ、……男たちが懐いてきて。 一度目の人生は何が起っていたのか。 今度こそ平穏にいきたいエレナだがいつの間にか渦中に巻き込まれ――。

婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの

鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」 そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。 ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。 誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。 周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」 ――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。 そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、 家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。 だが、彼女の予言は本物だった―― 数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。 国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、 あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。 「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」 皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、 滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。 信じてもらえなかった過去。 それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。 そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。 ――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

処理中です...