【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との

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106.色んな事に驚いて、お口ぽっかーん!

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「うわ~、すっごい変化! 話を聞いてなかったら、知らない場所に転移したのかと思ってたかも」

 倉庫がわりに使っていた、あちこち修理の跡があった小屋は全て撤去され、横長で2階建ての建物が建っている。

「まだ営業してねえが、1階は金持ちの待合室やら土産物屋になるらしい。そっちの建物は食事したりカフェとやらになるんだ」

 町から港までの馬車道の石畳や全ての桟橋が新しくなり、小洒落た店が出来つつある。道の隅に積み上げられていた木箱や、使いかけのリヤカーは全て撤去され、街路樹とベンチに変わっていた。

「向こうに工事してるとこがあんだろ? あの辺は水深が結構あって、大型の帆船を停泊するように整備してる。一本釣りすりゃ大物が狙えてたんだがな⋯⋯」

 目を眇めて工事現場を見つめるウルサの肩が落ちている気がする。哀愁を漂わせる背中が切なく⋯⋯ぴょこんと立ったひと房の寝癖が風情を台無しにしていた。

(ウルサ~、風に揺れてるよ~)



 ウルサの船の周りにはバリケードが張られ、移動すれば音がする魔導具が設置されている。

(ここまでしないとダメって事なら、船に乗り込んできたりするとか?)

 ウルサの声が聞こえたのか、バリケード近くのテントの中から人が這い出してきた。

「ウルサ、一体いつ帰ってきたんだい!?」

「おー、フェーリスか。見張りありがとうな。さっき帰ってきたばっかなんだけど⋯⋯紹介する。このちびがロクサーナで、隣のイケメンがジルベルト」

「初めまして、Bランク冒険者でカーニスの女房だよ」

 ぽっかーんと口を開けたロクサーナの背中に手を当てながら、ジルベルトが小さく会釈をした。

「初めまして、朝早くからお騒がせをして申し訳ありません」

「いいって、そろそろ起きなきゃ奴等がやってくる頃だったから、ちょうど良いタイミングさ」

 他のメンバーもテントからゾロゾロと這い出し、軽く手を振って『水をもらってくる』と建屋に向かってゾロゾロと歩いて行った。

「詐欺? うん、間違いなく詐欺案件だね。アンセルといいカーニスといい、なんでこんな美人さんのボンキュッボンをゲットしてるの? リューズベイは美人が繁殖してるとか、ここの魚を食べ続けるとバーンのキューになるとか? 引っ越そうかな⋯⋯美人は諦めるけど、デコとボコのナイスなバディになるまで」

「⋯⋯ロクサーナちゃん、リューズベイの女の子の美人率がおかしいんじゃなくて、コイツらが面食いなだけだからね」

「う、うん。そうだよね。シーミアだっているし、女の子だけじゃなくて両方ともだよね。
あ、申し遅れました。ロクサーナです。想像を突き抜けた美人さんに会えて、ちょっと混乱中ですが普段は真面ですから」

 謝罪を込めて深々と下げたロクサーナの頭を、ウルサがガシッと掴んだ。

「いや、ちびはかなりヤバい奴だぜ?」


 ザバーン!


 ウルサが問答無用でかなり沖まで吹き飛ばされた。

「いや~、これで熊の寝癖が取れるね! 商会員とやらが来るまでに戻ってこれるかな?」



 身支度を整え終わったフェーリスの仲間が、ゾロゾロと船に向かって歩いてくる。鎧などはつけていないが、全員が腰に剣を差していた。

「さーて、あとは噂の商会員が出てくるのを待つとして⋯⋯あ、ねえねえ、シーミア達だけで船って2艘を動かせる?」

「うん、無理」

「そうかぁ、2艘で並走したらカッコいいと思ったんだけど、諦めるしかないか~」

「ロクサーナちゃんが凄腕の魔法士⋯⋯聖女様なんだよね。噂通りと言うか噂以上と言うか⋯⋯ちっちゃくて可愛い。ウルサが夢中になるはずだねえ」

 ポンコツ王子達の前で盛大に魔法を使ったロクサーナの噂は、旧ダンザリアム王国以外の国にも知れ渡っているそう。

「今世紀最大の聖女様だって言われてて、冒険者ギルドが大騒ぎしてたんだよ」

「聖女は辞めたの。元々期間限定だったから、今はただの⋯⋯ただの、なんだろう。うーん、無職! 無職の野生児で半居候です。んで、まだまだ成長期なんで、ちっちゃいのは今だけだからね」

 家は建てかけでジルベルトの家に間借りしている日が多く、何かを売ったりしているわけでもない。依頼を受けていないのに、冒険者を名乗るわけにもいかない。

 肉・魚・野菜・果物⋯⋯足りないものがあれば自給自足か物々交換で済ませている。



 話し込んでいる間に空が明るくなり、ガラガラと車輪の音がして大きくて古い荷馬車が桟橋に近づいてきた。

「あれは別の馬車だね。奴等のは幌に商会の名前が入ってるんだ」

 あっという間に戻って来たウルサの全身を(ジルベルトが)水で洗い流して乾かし終わる頃、別の馬車が何台もやって来た。

「あれは工事の作業員を積んでる。って事はそろそろ来るかもだね」

「本当にうちの島に引っ越すの? とてつもない離れ小島だから、周りに何もないし陸との行き来に問題がある。船は簡単には動かせないから、冒険者をするにも簡単にギルドへ行くとかできない。
人間の子供は一人もいないし、店も何もないから買い物もできないし娯楽なんてもちろんないの。
住んでる人間はジルベ⋯⋯ルイスと私とガンツと奥さんだけ。
引越し先が決まるまでの仮の宿としても、ナイナイづくしですご~く不便だよ?」

「多分、あたしに聞いてるんだよね。初めはもちろん悩んだけどさ、あたしはカーニスの勘を信じてる。きっと新しい世界が開けるはずだって」

 フェーリスは照れくさそうにカーニスの胸を叩いた。

「仲間には抜けるってもう話してあるんだ」



「俺は⋯⋯この町の雰囲気が好きだったんだけどさ、どんどん変わってきたから、別の町に行ってみようと思ってるんだ」

 公国の冒険者ギルドは、討伐よりも護衛の方が依頼料が高く設定されている。その為、護衛や盗賊退治が苦手な冒険者はあまり利用しないらしい。

「俺達、貴族や金持ちの護衛はあんまり好きじゃないんだけど、この町もいずれ同じようになるかもしれないだろ? 暫くは魔の森をふらついてもいいし、その間にのんびり行き先を決めるつもりなんだ」

「魔の森が公国になったから、公国のギルドは変わっていくかも⋯⋯そうなったらまた考えるかな」



 港に人が増え工事の音が響き渡る中、一台の馬車がロクサーナ達の近くに停車した。馬車から降りてきたのはイカ焼きのおっちゃんグラント。

「おー、ちびちゃんも来てたのか! ウルサが戻ってきてるって町の奴らが騒いでたから来てみたんだが、ちょうど良かったぜ。
ここじゃなんだから、どっか別の場所で話したいんだが」

 それならと⋯⋯ウルサとグラントは船に乗り込み、ロクサーナ達は全員でテントやバリケードの撤収をはじめた。





 フェーリスが言っていた通り、幌に商会の名前を縫い込んだ馬車がウルサの船の近くで3台停まり、後ろの2台からバラバラと強面の男たちが降りてきた。

(護衛かな? 弱そうだけど、護衛だよね)

 1台目の馬車からステッキを持った男が降りてきて、ずらっと並んだゴツゴツの男達の間を歩いてきた。

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