病弱設定されているようです

との

文字の大きさ
7 / 145
第一章 マーサと共に

06.3歳で自立への道を模索中

しおりを挟む
「マーサ、これからお庭に行ってくるね」

 昼食の皿を厨房に運びかけていたマーサの後ろから声をかけたミリーは、大きな本を抱えていた。

「いってらっしゃ⋯⋯えぇ!? あ、あの⋯⋯そんな大きなご本を持って行かれるのですか?」

「うん、今日はこれが必要なんだ~。無くしたり汚したりしないから心配しないでね。じゃあ、行ってきま~す」

 不安そうな顔のマーサに手を振ったミリーは、ドアから飛び出した。

(いつもなら『走ってはいけません』とか『ドアは静かに』とかって注意してくるマーサが何も言わない⋯⋯寂しそうな顔してたなぁ。あんな顔見たら泣いちゃいそうだよ~)

 忙しくしていないとマーサを問い詰めてしまいそうになる。

 どんな契約なのか、誰にも話すなというのがどんな話の事なのか⋯⋯何よりも聞きたいのは、自分が家族から放置されている理由を知っているのか。そもそも両親は揃っているのか、兄や姉はいるのかという基本情報から知りたいのだが⋯⋯。



 あの陰険そうなクリフにミリーのこれからを願い出るほど、心を砕いてくれたマーサに会えなくなるのは辛い。

 マーサがどこの出身でどんな経緯でここに勤めることになったのかも知らない。遠くに行くのか近くに住むのか⋯⋯どちらにしても二度と会えなくなる気がするが。

(ミリーの世界にはマーサしか頼れる人がいないからこそ、自分の足で立たなきゃ。誰かを強く求め過ぎたら『依存』になる。
マーサは来月から新しい人生を進むんだから、私も現状打破の策を練らなきゃ)

 おかしな言動をしないように極力気をつけようと思ってはいるが、怪しさ満載の言動をとっているのは承知している。実里の記憶が戻って来たら、3歳未満児の話し方が分からなくなったのもあるが、成人以上婆ちゃん未満(だと思っている)実里は恥ずかしくて『でちゅ』とか言えない。

 マーサが居なくなるまでの約1ヶ月で、やらなければいけない事が山積みなのだから、できる限り自然体を心がけて、大人しく日々を⋯⋯なんて、呑気に過ごしていたら時間が足りなくなると開き直ることにした。



 午後は庭の探索タイムだが、ミリーの狙いは食べられる野草か何かを見つける事。内緒の畑を作れる場所を見つけられたら最高なのだが⋯⋯。

 この屋敷の庭はとても広く奥に向かっていくつもの道が作られていて、小さな身体で重い本を運ぶのはかなりの重労働だが、目的達成の為にはこの植物図鑑がなくてはならない。

『お庭の奥に行ってはいけません、迷子になって帰れなくなりますからね。遊ぶ時はこのお部屋が見える場所だけ。それに、西のお庭にもお屋敷のテラスから見えるお庭にも行ってはダメです。お約束出来ますか?』

 珍しく厳しい表情のマーサがミリーに厳命したのがいつだったのかは覚えていない。

 テラス側の庭をこっそりと覗こうとした事があるが、3歳前のミリーには曲がりくねった道の先は恐ろしく思えて、一度も行った事がなかった。

(まぁ、この間マーサ達を追いかけて、庭の奥に入り込んじゃいましたけどね~)

 庭の中でも北の端にある自分の部屋が見える辺りはあまり手入れがされておらず、子供が遊ぶのに丁度良い。

 木の枝に引っかかって折ってしまっても、草や花をむしっても誰にも怒られない。穴を掘って綺麗な石を見つけて、虫に追いかけられて逃げ回っていれば大満足の1日が過ごせた。

(マーサは忙しいからいつもひとりで遊んでたけど、部屋に帰ったら『お帰りなさい』って笑顔で言ってくれて⋯⋯あ~、もう直ぐそれもなくなるのかぁ。今世もまたボッチ⋯⋯)

「ぼーっちぼっちぼっちぼっちぼっち~」

 残念な歌を歌いながら庭の奥を覗き込んだ。




 屋敷のテラス側⋯⋯屋敷の主人達が使うそこは芝生が敷き詰められピクニックテーブルやベンチが置かれた広場で、お茶会やガーデンパーティーをするも良し散歩しながら花々を愛でるも良しの場所なので、ミリーには全くと言って良いほど用がない。

 花壇の間にある煉瓦敷きの道は、白く輝くガゼボに続いている。

(遠目に見ただけだけど、すっごいお金かかってそうだったんだよね~。まさにヨー◯ッパ貴族の庭園って感じで)

 時折聞こえてくる軽やかな音楽も賑わいも発生源はいつもその辺り。



「畑、作りたいなぁ。んで、狙いは異世界転生あるあるのじゃがいも! 多分だけど青く変色したじゃがいもが捨てられてる事ってありそうじゃん。種芋にするなら変色してても大丈夫だったはずだから、それを植えて⋯⋯。塩は厨房からくすね⋯⋯貰えたらラッキー。
あと、生でも火を通してもいける野菜が作りたいなぁ。人参とか玉葱とか、キャベツにほうれん草も。ビタミンたっぷりで健康はつらつ!
でも、その野菜の種を手に入れる方法が思いつかない。種かぁ、種・種・種⋯⋯あぁぁぁ! 火の起こし方が分かんないぃぃぃ⋯⋯はぁ、最悪だぁ」

 木の摩擦で火を付けるのはミリーには無理すぎるし、火打石を手に入れるお金はない。

(この世界にマッチやライターがあっても買えないし。何で魔法のある世界に転生しなかったの!? こんなの完全に無理ゲーじゃんかぁぁぁ)

 ボッチ生活はほぼスペシャリスト状態の『実里』の記憶のお陰で、日々の暮らしも勉強も楽勝⋯⋯とはならず、前途多難なミリーは身に余る大きな本を抱えて座り込んだ。

「じゃがいもは生では食えんのに⋯⋯ん? 水にさらしたら食えるんだっけ? 確か⋯⋯ちょっぴりとか時々ならOKだった気が。でも、お子ちゃまはダメなんだよね。んじゃ、どっちにしてもミリーは食べらんないじゃん」



 頭を抱えてしゃがみ込み、ぶつぶつと愚痴を言い続けていたミリーがすっくと立ち上がった。スカートの裾をパタパタとはたき分厚い本を抱え直して大きく頷き⋯⋯。

「よーし、こうして悩んでても仕方ない⋯⋯取り敢えず庭の探検をしよう。時間は有限、されど使い方は無限。何事もポジティブシンキングでいかなくちゃね。
こういう大きな庭ってさぁ、隅の方に実のなる木があったりするかもだし~」

 ミリーと実里のどちらかの性格なのか、空元気からげんきなのか⋯⋯立ち上がったミリーはしっかりと本を抱え直して、夕方まで探検を続けた。

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で……

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。

水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。 兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。 しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。 それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。 だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。 そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。 自由になったミアは人生を謳歌し始める。 それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。

処理中です...