【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

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第一章 お花畑の作り方

07.羽ペンの値段はおいくら?ビルワーツ侯爵、見参

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 エロイーズが何故ここまでビルワーツ侯爵家に恨みを持つのか⋯⋯。

 まずひとつ目の出来事は、エロイーズと皇帝がマクベス王太子との婚姻を強引に捩じ込んだ少し後から、エロイーズの暴走全盛期が舞台となる。



 エロイーズが強引な婚約をした時、マクベス王太子と婚約していたのは、ビルワーツ侯爵の妹リディアだった。

 強引な婚約破棄を強制した帝国は、慰謝料として信じられないほどの端金を、下級事務官に届けさせた。その金額は彼の一週間分の給料にも満たない額、と言えば分かりやすいだろう。

『そそ、そこにも書いてございますが⋯⋯慰謝料等に異議がございましたら、帝国まで足をお運び下さい。えっと、あの⋯⋯皇帝が直々に⋯⋯は、拝謁の栄誉を授けて下さると仰せです。も、も、申し訳ありません!』

 青褪め冷や汗を垂らす下級事務官から、受領書を差し出されたビルワーツ侯爵家の当主は、無言のまま内容を確認しサインを済ませた。

 ビルワーツ侯爵家の当主の名前はレイモンド・ビルワーツ。妹のリディアを心から愛する兄である。

 帝国が強引な手口で婚約破棄を決めた時には、涙を堪えた妹の『国の決断だから』と言う言葉で、怒りを抑え込んだレイモンドだったが、下級事務官の言葉で徹底抗戦の覚悟を決めた。

(直々に拝謁の栄誉を授けて下さる⋯⋯皇帝に直接文句を言う勇気などないだろうに、と言いたいわけか。ふーん、たかが売女エロイーズの売り付け先を見つける為に、脅し戦争が必要だったボケ老人が、舐めた口を聞きやがる)

 ここから、帝国&アルムヘイル王国とビルワーツ侯爵家の、戦いの火蓋が切って落とされた。

 言動から察するに、平民だと思われる下級事務官は声を震わせながら謝罪し、脱兎の如く逃げ出した後は夜を徹して馬を走らせたと言う。

(ヤバいヤバい、あのご当主は絶対に何かする! あの威圧は、皇帝を前にした時より恐ろしかった⋯⋯第一皇子殿下ぁぁ、虎です、皇帝は虎の尻尾、踏み踏みしましたぁぁ)

 ビルワーツ侯爵家はマクベス王太子とエロイーズ皇女の成婚の儀の時、『療養』と銘打った旅行に出かけ、式も祝賀パーティーも堂々と欠席。

 その後も王宮への参内は全て拒否、招待状の返事は『私用にて』『弔事にて』と、事あるごとに王家の意向を無視した。



 エロイーズはと言うと⋯⋯独身時代と同じく皇帝から多大な援助を受け、可愛く真面目で大人しい夫にはすぐに飽き、あっという間に物欲と色欲で暴走しはじめた。

『わたくしの自由を妨げる者は、不敬で首を刎ねてやる』

『人の物? 人の男? わたくしが欲しいと思った時から、わたくしのものになると決まっているの! 戯言など言う前に、さっさとわたくしに寄越しなさい!!』



 数ヶ月、領地に悠々と籠り続けるビルワーツ侯爵家に、アルムヘイル王国の玉璽が押された召喚状が届いた。

 堂々と謁見の間に現れた侯爵は、王太子達の前でも頭を下げることなく両足を開いて立ち、不敬だと騒ぎ立てる大臣達を睨みつけた。

「マクベス王太子殿下と王太子妃エロイーズ様の御前であるぞ! 頭が高い!!」

「そう申されても、この場には臣下の礼をとらねばならぬ相手が見つかりません。頭を下げる理由も思いつかぬし⋯⋯納得できる答えをお教えて下さる方はおられますかな?」

「なんという無礼な! 帝国皇女でありこの国の王太子妃であるわたくしの前で、臣下の礼をとらぬ者など、見たことも聞いたこともない⋯⋯誰ぞ、この者に膝をつかせよ!」

「初めてご覧になられるとは。いや、歳を取っても⋯⋯これは失礼。幾つになられても、初めてというのはあるものですなあ」

「なっ!」

 エロイーズが気にしている年齢を当て擦ったビルワーツ侯爵は、してやったりと内心親指を立てた。

 22歳でようやく結婚したが、相手は7歳も下。自信家のエロイーズでも思うところがあるようで、今日もマクベス王太子の隣に相応しい若作りをしている。

 似合ってないけど。

 プルプルと震えるエロイーズと、不安そうな顔のマクベスに向かって、侯爵は手に持っていた羽ペンを胸の前でゆらゆらと揺らしはじめた。

「さて、下げねばならぬ頭の持ち合わせはなく、くだらん挨拶も時間の無駄。本題に入らせていただきたく存じます。
この羽ペンが幾らかご存じですかな? ここにおられる高貴な方々は、平民街で売られている、このような品の値段などご存知ありますまいが、アルムヘイル王国においても帝国においても、ビルワーツ侯爵家の価値はこのペンと同等だと教えていただきました故、わざわざお持ちしました。
この程度の価値しかない下賎なビルワーツなどが、わざわざ高貴な方々の御前を穢すのは、申し訳ないと参内を差し控えておりましたが、この度召喚状なるものが届きました。下賤の次は犯罪者呼ばわりかと疑問に思っておりますが⋯⋯どなたが説明して下さるのか、楽しみでなりません」

「ビ、ビルワーツ卿が何を言っておられるのか分かりかねるが⋯⋯きょ、今日の呼び出しは、卿が貴族としての責任を放棄しておられる所以その理由を問い、必要であればその⋯⋯それなりの対応を⋯⋯ヒィ⋯⋯さ、させていただく次第でござりますです」

 目を眇め眉間に皺を寄せたレイモンド・ビルワーツ侯爵に、真正面から見つめられた宰相の語尾が怪しい。

「確か皇女と共に帝国より参られた直後、イシュタル侯爵家に婿入りを果たし、それと同時に異例の抜擢をされたと言う宰相閣下でしたかな。お名前は存じませんが⋯⋯」

「わ、私の名はロバー「いや結構⋯⋯さて、ご質問の答えですな。我が妹の人生に傷をつけ、全ての希望を奪った代償がこの羽ペン一本。つまり、我が最愛の妹と侯爵家の価値をお教えいただいた御礼に、参内を控えておったわけです」

 はらりと床に投げ落とされたのは帝国の下級事務官が届けた書類。

「その紙切れには、慰謝料等に異議があれば帝国まで足を運べと書かれております。しかも、皇帝自らが面談し教えを拝聴する機会をいただけるそうです。
わざわざ玉璽まで押されておりましたので、記念くらいにはなるかもと、鼻紙にせず置いておきましたが⋯⋯入り用の方がおられれば差し上げても良いと思っております。まあ、我が家の鼻紙の方が質が良いやもしれませんがな」

 呆然とする貴族達が侯爵に注目する中、金切り声が響いてきた。

「帝国の玉璽が押された書類を鼻紙扱いだなど⋯⋯なんと傲慢な! 誰かある! その愚か者の首を刎ねよ!! 皇帝に対する不敬罪じゃ! 膝をついて土下座して謝罪したとて許してはおけぬ!!』

 壁際に並んでいる衛兵達は剣に手をかけて国王の指示を待ったが、当の国王はレイモンドを見つめ、硬直したまま身動き一つできないでいる。

(こ、皇帝がそのようなことを⋯⋯侯爵家が羽ペンほどの価値? どう言う意味だ!?)



 チャリン⋯⋯チャリン⋯⋯チャリン⋯⋯

 床に落とされたのは金貨が3枚。

「当家に届けられた慰謝料とやらは、お返し致しましょう。一ヶ月後、ビルワーツ侯爵家はアルフヘイル王国を離反。つきましては契約書にあります通り⋯⋯長年にわたる貸付金を全額返済していただきます。その額はおよそ3兆8千6百万。
これからは帝国が支えていかれるとお聞きしております故、安心して取り立てができると言うもの」

「ま、待て! そのような大金が一ヶ月で準備できるわけがない⋯⋯私が代わって謝罪する。皇帝が慰謝料を払って下さり、侯爵家に遺恨はないと聞いておったのだ!」

「そうそう、忘れるところでした⋯⋯我が領内では少し前からやたらと犯罪が増え続けております。畑を荒らし商家に火を放つ、馬車に火矢が打ち込まれる。道を歩いていた子供や年寄りが暴力を受ける、年頃の婦女子が攫われそうになる。
無銭飲食に商品の強奪。鉱山に爆薬を仕掛けた者や川に毒を流そうとした者もおりました。
街道を行く者達が襲われるのは昼夜を問わず、我が妹の悪評を書き散らした張り紙が至る所にばら撒かれ⋯⋯。それには我が妹の不貞で婚約が破棄されたとか、夜な夜な男を屋敷に引き入れているとか、違法な薬を常用しているとか。他にも色々書かれておりましたが、誤字脱字が多くて笑ってしまう張り紙でした。
賊は見つけ次第捕縛しておりますが⋯⋯不思議なことに皆、帝国語しか理解できない上に、騎士として訓練を受けた者達ばかり。誰の指示でわざわざやって来たのか、賊の荷物から出てきた指示書や、帝国兵の持つ印章も確保しておりますので、近々国際裁判所に申し立てを行う予定で準備を進めております。
もしかすると、帝国では一般的な慰謝料として『騎士として訓練され、帝国語しか話せぬ破落戸』を送る習慣でもあるのかと思い、張り紙の一部と指示書の写しなどは帝国の第一皇子宛てに届け済みですが、帝国の習慣ではないとの返答をいただき⋯⋯となると、誰の指示なのか予想がつきすぎてしまいますなあ。
お望みであれば⋯⋯帝国と強いご縁を繋がれた王家の方々にも、裁判の経過報告くらいはさせていただきましょう」



「帝国語っていうことは⋯⋯」

「指示書があるなら⋯⋯」

「まさかと思うが、あの方の指示⋯⋯」

 ヒソヒソと話していた貴族達の声が次第に大きくなっていく中で、ビルワーツ侯爵は冷ややかな視線を玉座に向けて身を翻した。

「待て、待ってくれ! まだ話は終わっていない! 誰かビルワーツを別室に案内してくれ。私と二人で話をさせて欲しい」

 マクベス王太子の言葉を無視して、強引に王宮を出たビルワーツ侯爵は、その足で自領に戻って行った。



 この出来事の後ビルワーツ侯爵家が離反を取りやめた為、侯爵家が膝を折ったかに見えたが⋯⋯。

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