【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

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第一章 お花畑の作り方

11.義妹を傷付けた王妃に『ざまぁ』致します

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 社交界に流れた噂⋯⋯財務大臣との打ち合わせで王都に来るレオナルドが、珍しくセレナ夫人を伴っているらしい。

 その噂に釣られて、マーチャント伯爵家に乗り込んできたエロイーズだが、ここがお仕置きの場だと気付いていない。

 来なければそれも良し、来ても礼儀正しくしているならこちらも礼儀正しく接するが、少しでも横柄な態度をとるなら、タダでは終わらせない。

 王妃が乱入する可能性は、夜会の参加前から周知されており、騒ぎが起きた時は静観してもらうよう頼んでおいた。エロイーズは機嫌を損ねると、気が済むまで仕返しをしてくるので、今もこれからも王都で暮らす招待客達が、彼女の目に留まるのは避けたい。

 王国貴族達の前で、エロイーズが何を言い何をするかを確認する、見届け人としてここにいてもらっているだけで十分だと、セレナとレイモンドは考えていた。

 エロイーズの狙いがセレナなのは明白だったが、折角なので追加の餌として宝石を身につけておくと、予想通りの流れになってきた。

(これだけ多くの方々に見られていては、なかったことにはできませんのよ? 覚悟なさいませ)

「お褒めいただき光栄です。我領で産出されたエメラルドで、ゴタ・デ・アセイテと呼ばれる最高品質のエメラルドですの。このイヤリングもセットで夫がプレゼントしてくれたのですけれど、デザインには娘の意見も入っているそうですわ。
わたくしには少し大きすぎて⋯⋯肩が凝るのが難点だと申しましたら、娘に『愛が重すぎるってことかしら?』って揶揄われてしまいましたの」

 少し恥ずかしそうに、それでいて幸せいっぱいの笑顔を浮かべたセレナは、成人したばかりの令嬢と変わらないくらい愛らしく、紳士達から溜め息が溢れた。

「そ、そう。でもねえ、それほどの大きさの物が産出されるなら、王家へ報告をするべきじゃないかしら。
王妃であるわたくしが知らないだなんて、わざと恥をかかせようとした⋯⋯不敬と捉えられても仕方ないわよ? それとも、納税額を誤魔化したのかしら?」

(鉱山の持ち主は、建国前からビルワーツ侯爵家なのも知らないのかしら? 王妃教育どころか、低位貴族のマナーさえ危うい王妃だから仕方ないわね。
頭を振ればカラカラと音がしそう⋯⋯音がする程の中身もないかもね)

 自領で産出された宝石に報告義務などあるはずもないが、意味不明の非難をするエロイーズが距離を詰めてきた。

「そのままではよく見えないから、外してくださる? 手に取って近くで見てみたいの」

 これはエロイーズの常套手段の一つで、手にした途端『ありがとう』と言って立ち去るのは有名な話。抗議すると『プレゼントだと言ったくせに』と言い出し、不敬だ・名誉毀損だと騒ぎ立てると言う。

 エロイーズが輿入れしてきたばかりの頃は、この手口で家宝の宝石を奪われた令嬢や夫人も多く、今では誰も目立つ貴金属も流行りのドレスも、小物類さえ身につけない。



「申し訳ございません。留め金の調子が悪いようで、今は外せませんの」

「わたくしが調べてあげるわ。ほら、さっさとよこしなさい」

(噂には聞いていたけど、自分が経験すると虫唾が走るわ。これが一国の王妃のすることだなんて⋯⋯強請り集りの常習犯だから、手慣れたものね)

「王都に出てくる途中の管理が甘かったようで⋯⋯一度外したら修理しなければならないだろうと思いますの。今外してしまうと宿に帰るまで、扱いに困ってしまいますから、遠目で見て楽しんでいただくしかありませんわ」

「帰り道なんてどうでもいいわ! さっさと外して寄越しなさいって言ってるでしょ!!」

「まあ! そのような物言いをされては、誤解されてしまいましてよ?」

 驚いたセレナが驚いて目を見開いた後、少し低めの声でエロイーズを諭した。

(見せてと仰っておられたのに、寄越せになって⋯⋯直情的な方は貴族には不向きですから、別のお仕事がお似合いですわ)

「誤解って⋯⋯とにかくそのエメラルドは王家にこそ相応しいの! 留め金なんていくらでも修理すればいいんだから、さっさと献上なさい!」

「寄越せと仰られたり献上しろと仰られたり⋯⋯ビルワーツ侯爵領の鉱山から産出されたエメラルドの所有権は、当家にございます。差し上げる理由はございませんし、夫からの誕生日プレゼントを献上するなどあり得ません。
財務のお勉強が進んでおられないようなので、ご説明させていただきますが、納税に関係しますのは、売買された品のみでございます。王家が採掘権をお持ちでない鉱山の産出量や、産出された品の品質について、報告の義務はございません。
誠に残念ではございますが、脱税を疑われ不敬だと仰られました事に対して、それ相応の対応をさせていただく所存でございます。
お会いできて光栄でしたとは申せませんが、どうぞお気をつけてお帰り下さいませ。一招待客のわたくしではお見送りできませんので、ここで失礼させていただきます」

 キッパリとした口調で断りを入れ席を立つと、エロイーズがセレナのドレスを掴んでネックレスに手を伸ばした。

「ぐだぐだ言ってないでネックレスを寄越しなさい! わたくしに逆らうということは、王国と帝国に逆らうとの同じなんだから! 牢に入れられたいの!?」

 セレナのドレスをぐいっと引っ張ったエロイーズがネックレスを鷲掴み、揉み合いになった。

「セレナ!!」

 静観すると約束していた為、少し離れた場所にいたレイモンドが、セレナに向かって駆け出した。

「おやめください⋯⋯何をなさいます!」

 ビリッ⋯⋯カチャン

 ドレスの破れる音と同時に、ネックレスの留め金が外れ宙を舞って床に落ちた。

「きゃあ!」

 遠巻きにしていた夫人達が、あまりの恐ろしさに悲鳴をあげ、男性達がいきり立った。

 マーチャント伯爵が落ちたネックレスを拾い上げて、執事に傷の確認をするよう言いつけ、レイモンドは上着を着せ掛けたセレナを背に庇い、エロイーズを睨みつけた。

 ソファに腰を落としたエロイーズが、つんと顎を上げて広間の中を見渡すと、眉を顰め軽蔑したように睨みつける目や、青褪め怯えたような顔ばかり。

(流石にこれはマズイかも。だってがあんなに抵抗するなんて思わなかったんだもの、仕方ないじゃない。わたくしに向かって抵抗するが悪いのよ!)

 アクセサリーを奪おうとした相手から抵抗されたのは、初めての経験だったエロイーズは、怒りに任せて周りが見えなくなっていた。

「王妃殿下、これはどういうことですか!?」

「⋯⋯ちょっと手が滑っただけじゃないの。そんな大騒ぎするようなことじゃないわ」

「レイ⋯⋯ありがとう。わたくしは大丈夫よ」

 レイモンドの横に並んだセレナは、レイモンドの上着を握りしめながら、毅然とした態度でエロイーズに向かい合った。

「王妃殿下、この度のことは王家に報告させていただきます。臣下の持ち物を強請り、権力で脅し暴力行為に及ぶなど、例えどのようなお立場の方であろうとも、許されることではございません。
侯爵家に対する不干渉の契約を無視し、度々脅迫めいた文言を追記した招待状を、お送りになられるのはおやめください。
その中に、侯爵家から産出された宝石持参で⋯⋯と書いておられるのがどのような意味を持つのか、とても興味深く思っておりましたが、先ほどの殿下のご様子から鑑みるに、献上品を持ち参内しろと言うご指示だったように見受けられますわ。
先日、王家とビルワーツ侯爵家の間で交わされた契約を無視して、侯爵領においでになられました事は、既に報告させていただいております。その件と今回の事については、正式な文書にてご返答いただきたいと存じます」

「大袈裟にすることはないでしょう? ドレスなら弁償してあげるし、が勿体ぶらず素直にいう事を聞けば、こんなことにはならなかったんだから!」

「ネックレスを強奪しようとなされたのは王国と帝国の総意だと仰られ、大袈裟にされたのは王妃殿下でございます。
権力を傘にきて臣下の物を奪うのが、初めてだとは思えないほど、見事な手口に思えましたので、過去に同様の事件が起きていないか調べてみるべきかもしれませんわね。
わたくしにとって、夫からプレゼントされたこのネックレスは、家宝とも言える大切な品でございます。夫を尊敬し大切に思う妻であれば、当然のことでございますが、ご理解いただけますでしょうか?
それから、侍女に望んでおられたらしいエリナ様やヘレナ様がどこのどなたか存じませんが⋯⋯わたくしの名前はでございます。
レイ、着替えを馬車に積んであるから取ってきて下さる? クリス、着替えのできるお部屋を貸してくださいな」

 頭に血が上っているレイモンドに用事を頼んで席を外させ、この場をマーチャント伯爵に任せて、セレナはクリスと共に広間を後にした。



「分かってるでしょうね、この事は他言無用よ! 一言でも漏らせばタダじゃおかないわ」

「王妃殿下、玄関までお見送り致します」

 冷ややかな目付きのマーチャント伯爵に催促されたエロイーズは、周囲からの突き刺すような視線を無視して、ズカズカと大股で広間を出て行った。



「最後まであのような事を仰るなんて⋯⋯アレ以上に下品な女は見たことがありませんわ」

「これだけ大勢の口を塞ぐなど出来ますかな?」

「それにしてもセレナ夫人は最後まで堂々としておられて⋯⋯流石ですな」

「途中で口を挟みたくてウズウズしました。我が領でも石炭が出ますから、我が家で使用する分を王家に報告しなければ脱税だと言われそうです」

「石炭は貴重な黒いダイヤですからな。法律が改編されていないか、注意しておかれた方が良さそうですぞ。はっはっは」

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