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第二章 育ったお花から採れた種
01.宰相は若い娘がお好き。だってエロイーズってもう⋯⋯
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エロイーズがビルワーツ侯爵家に恨みを持つ理由、ひとつ目の出来事を要約すると⋯⋯。
獲物を強奪した悪評を誤魔化すべく、皇帝と手を組み悪事を働きまくったエロイーズは、大勢の前でレイモンド・ビルワーツに全てを暴露されたが、言葉でタコ殴りにされたのは生まれて初めての経験。
証拠を揃えられていた王国と帝国はあらゆる面で完敗し、ビルワーツの一人勝ちが決まった。
その上、第一皇子に説教を喰らった皇帝が、支援金以外の援助を少しずつ渋りはじめるという、驚きのおまけ付きで⋯⋯レイモンド・ビルワーツに死角なし!
『恥をかかされた上に、お父様があまり助けてくださらなくなってきた!⋯⋯全部全部、ビルワーツのせいよ!』
単なる逆恨みってやつですね。
時は流れ、(16年も時間が流れましたが)ミニイベントが発生した。
『お父様が援助してくださらないなら、侯爵夫人に金と宝石を持って来させるわ!』
結果は⋯⋯ネックレスを強奪し損ねた挙句、セレナ・ビルワーツにも言葉でタコ殴りにされただけで、終わってしまった。
赤っ恥をかかされたエロイーズの怒りゲージはマックスを超え、次の事件を引き起こすきっかけとなる。
セレナ、グッジョブとなるか?
さて、次なる戦いのはじまりは⋯⋯ビルワーツ侯爵領の端で、ダイヤモンド鉱山が発見されたことからはじまる。
「産出されたダイヤモンドのカラーとクラリティは!? どんな手を使っても構わない、鉱山ごと手に入れるのよ!」
帝国から支援金以外の援助をほぼ期待できなくなったエロイーズは、支援金を横流ししてくれる宰相にどんどん依存していったが⋯⋯。
以前は人目を気にせず宰相を私室に招き入れ、朝まで出てこない事も多かったが、最近の宰相は成人したばかりの男爵家令嬢がお気に入り。
ビルワーツ侯爵家が、王国を離反するのは時間の問題だと言われはじめた。
(本当にこのままで良いのか。余にできる事は⋯⋯)
「これはチャンスよ! 宰相を呼びなさい、議員達を集めて臨時議会を開かせるのよ!」
「エロイーズ、其方⋯⋯一体なにを考えておる」
「決まっているでしょう? ビルワーツに資産を吐き出させるのよ! 今度は絶対に逃してなどやらないわ」
「ビルワーツ侯爵家に手を出してはならん。絶対に手を出すな!!」
エロイーズの癇癪と皇帝の横槍に、怯えてばかりだったマクベス国王が、意を決して叫んだが、それを聞く者など存在しない。国のトップはエロイーズ王妃殿下で実質は宰相。次席はランドルフ王太子。
王宮内は完全に帝国色に塗り替えられ、マクベスは使用人達から『玉座の鼠』だと嘲笑されるまでになっていた。
(時に遇えば鼠も虎になると言う⋯⋯いや、虎になれずとも、鼠らしい戦いを見せてやろうではないか)
マクベス王、覚醒?
「王命にて、王太子ランドルフとビルワーツ侯爵家アメリアの婚約を申しつける! ビルワーツの財を他国に奪われる前に、次代の王との縁組を成立させる」
エロイーズと並んだ宰相が議会で宣言した。
おや? ビルワーツに王命⋯⋯出せたっけ?
議会の決定は、すぐさまビルワーツ侯爵家に知らされることになった。書状を届けた宰相は、メアリー第一王女と瓜二つだという。
(切れ者と言う噂はやはり紛い物か。帝国出身の貴族などタカが知れてるな)
「ほう⋯⋯当家に王命ですか。それはまた意外なお話を聞きました」
「ランドルフ王太子殿下は、幼き頃より親しくしておられた令嬢との婚約を既に解消されました。婚約式の日程は四ヶ月後、その前に婚約発表の夜会を開く予定で、王宮と神殿は準備をはじめております。
侯爵閣下はアメリア嬢と共に一ヶ月以内に参内し、謁見の手続きを取っていただきたい。その時に婚姻前契約書を作成致しますが、詳細はこちらに」
宰相の横に立っていた補佐官がドヤ顔で、一枚の羊皮紙をテーブルに置いたが、内容を確認したビルワーツ侯爵が『ブハッ!』と盛大に吹き出した。
「これは失礼。予想を上回る内容に堪えきれず⋯⋯この内容から察するに議会の決議が通っているとは思えません。いや、最近の議会なら決議が通った上で、コレと言う可能性がないとも言い切れませんな。
因みに、当家がこの内容でサインすると思われたのはどなたなのか、お教えいただけますかな?」
パサリと羊皮紙をテーブルに投げ出し、無表情で宰相を見つめたビルワーツ侯爵の冷ややかな目つきに、宰相が震え上がった。
(な、な、なんだこの迫力は!)
普段はエロイーズと皇帝を盾にして、思う様権力を振るっている宰相だが、侯爵からの威圧に押されて言葉が出ない。
「おおよその検討はついておりますが、是非とも宰相の口からお聞かせ願いたい」
ソファの背にもたれた侯爵が足を組んでゆっくりと腕を組んだ。
「⋯⋯そ、それは王家の御意志と言いますか⋯⋯つまりその⋯⋯エ、エロイーズ王妃殿下とランドルフ王太子殿下が草案を作られました」
本当は宰相も参加して楽しく作った草案だが、侯爵の前で『自分も』と言う勇気はなかった。
宰相がビルワーツ侯爵に最後に会ったのは15年以上前。マクベスと侯爵の妹リディアの結婚破棄に関する話の時。
成人になって数年しか経たないレイモンドが、王侯貴族を圧倒し数々の約束事を取り決め、帝国との裁判を含め圧勝した事は記憶からこぼれ落ちているらしい。
38歳になった今、それ以上の強敵になっていないはずがないのだが。
無表情に見えるが、レイモンドが怒髪天を衝かんばかりの怒りに震えている事に、気付いているのは執事のみ。
(宰相と王家⋯⋯終わったな)
「宰相になられたのは王妃の成婚の直後、イシュタル侯爵家に婿入りされたのと同時でしたな。最近は陰の国王と言われるほどの手腕を発揮されているとか。
その宰相殿がわざわざ当家にお越しになられたのは、我が娘との婚姻を心から願っておられる証という事でしょう」
「そ、その通り! 王家だけでなく王国の貴族も全てが待ち望んでおります。王家と侯爵家の和解には若い二人が縁を結ぶのが一番! ご令嬢の為と言う大義名分があれば、閣下も王都へ足を踏み入れやすくなる。
長年社交界から遠ざかっておられた侯爵閣下が、貴族社会に難なく溶け込めるよう我等一同でお助け致しましょう」
「それはそれは、色々とお考えいただいたようで」
この話をビルワーツ侯爵が喜んだと勘違いした宰相は、安堵の溜め息を溢した。
(偉そうにしていても所詮は辺境の田舎貴族で、王都に戻れるきっかけを待っていただけかよ。
王国と帝国を相手に長年宰相を勤めてきた俺としたことが、さっきの迫力で騙されるところだったじゃないか⋯⋯ったく、クソむかつく。
これがおわったら俺様には、帝国の公爵位と領地での悠々自適の暮らしが待ってるんだから、せっせとご機嫌を取ってやらなきゃな。
ふふん、この様子だと簡単に事が運びそうだぜ)
上手く話がまとまったと思い上機嫌になった宰相は、侯爵に向けて右手を差し出した。
「次は王都ですな。お会いできる日を楽しみにしております」
「左様ですな。流石にこの件に関しては王都へ行かねばなりますまい」
特に不機嫌な様子はないが、侯爵は宰相が差し出した手を無視している。その事に少し違和感を感じたが⋯⋯。
「ビルワーツ侯爵家は、王都にタウンハウスをお持ちではなかったはず。到着の日時が決まり次第ご連絡をいただければ、王宮内の客室を準備して差し上げましょう」
「何年も前に売却したのですよ。無用な場所に、不要な物を持っていても手間がかかるばかりですからな」
「ん? 左様ですか。私は王都に何年も住んでいて色々な伝手がありますから、良い場所を調べておきましょう。侯爵家に相応しいタウンハウスを建てるとなれば、結構な広さが必要になりますなあ。
さて、そろそろお暇させていただきます。なにしろ、王都で仕事が待っているので、このままトンボ帰りしなくてはならんのです」
ようやく腰を上げた宰相を見送りに出た侯爵は、馬車に向かう宰相に声をかけた。
「王都に戻られたらお気に入りの方々に是非お伝え下さい。王家とビルワーツ侯爵家の契約内容を精査されるようにと。宰相殿は王都に着くまでに、時間がたっぷりあるでしょうから、よくよく思い出していただきたい。
ああ、そうだ! 宰相殿からお話をお聞きしたが、了承したのは一ヶ月以内の登城のみ。それ以外はお受けしたと勘違いされる返答さえしておりません。
言質を取られるのは、サインするのと同じくらい危険ですからなあ」
唖然とする宰相の目の前で、バタンとドアが閉まった。
「こ、侯爵閣下! 今のはどう言う意味ですか!?」
ドンドン⋯⋯ドンドンドン⋯⋯
「閣下! ビルワーツ侯爵閣下、もう少しお時間を⋯⋯ドンドン⋯⋯どう言うつもりだ! 話しを聞いてくれ」
ドアを叩く音と宰相の怒鳴り声は、1時間以上続いた。
「元気が有り余っておられるのね」
「馬車に乗っているだけだからな。膨らんだ腹を見る限り馬車じゃなく、食料貯蔵庫に乗って来たのかもな。衿元についた食べこぼしにも気付かず、他家を訪問するなんて信じられんよ」
「ついて来た補佐官と使用人のレベルが低すぎるんですわ。類は友を呼ぶと言いますものね」
「そんな奴らばかりだからアメリアと婚約なんて、馬鹿げたネタを思いつくんだろうな」
ビルワーツ侯爵の言葉通り、登城以外には何一つ確約など取れていない宰相が、エロイーズから半死半生の怪我を負わされ、急遽宰相代理が立てられるまで⋯⋯あと数日。
レイモンドとセレナがのんびりとお喋りを楽しんでいる客間に、アメリアが飛び込んできた。
「お父様、途轍もなく面白い話を聞きました! ぜひ私にやらせて下さいませ。今度は私の番ですから!!」
獲物を強奪した悪評を誤魔化すべく、皇帝と手を組み悪事を働きまくったエロイーズは、大勢の前でレイモンド・ビルワーツに全てを暴露されたが、言葉でタコ殴りにされたのは生まれて初めての経験。
証拠を揃えられていた王国と帝国はあらゆる面で完敗し、ビルワーツの一人勝ちが決まった。
その上、第一皇子に説教を喰らった皇帝が、支援金以外の援助を少しずつ渋りはじめるという、驚きのおまけ付きで⋯⋯レイモンド・ビルワーツに死角なし!
『恥をかかされた上に、お父様があまり助けてくださらなくなってきた!⋯⋯全部全部、ビルワーツのせいよ!』
単なる逆恨みってやつですね。
時は流れ、(16年も時間が流れましたが)ミニイベントが発生した。
『お父様が援助してくださらないなら、侯爵夫人に金と宝石を持って来させるわ!』
結果は⋯⋯ネックレスを強奪し損ねた挙句、セレナ・ビルワーツにも言葉でタコ殴りにされただけで、終わってしまった。
赤っ恥をかかされたエロイーズの怒りゲージはマックスを超え、次の事件を引き起こすきっかけとなる。
セレナ、グッジョブとなるか?
さて、次なる戦いのはじまりは⋯⋯ビルワーツ侯爵領の端で、ダイヤモンド鉱山が発見されたことからはじまる。
「産出されたダイヤモンドのカラーとクラリティは!? どんな手を使っても構わない、鉱山ごと手に入れるのよ!」
帝国から支援金以外の援助をほぼ期待できなくなったエロイーズは、支援金を横流ししてくれる宰相にどんどん依存していったが⋯⋯。
以前は人目を気にせず宰相を私室に招き入れ、朝まで出てこない事も多かったが、最近の宰相は成人したばかりの男爵家令嬢がお気に入り。
ビルワーツ侯爵家が、王国を離反するのは時間の問題だと言われはじめた。
(本当にこのままで良いのか。余にできる事は⋯⋯)
「これはチャンスよ! 宰相を呼びなさい、議員達を集めて臨時議会を開かせるのよ!」
「エロイーズ、其方⋯⋯一体なにを考えておる」
「決まっているでしょう? ビルワーツに資産を吐き出させるのよ! 今度は絶対に逃してなどやらないわ」
「ビルワーツ侯爵家に手を出してはならん。絶対に手を出すな!!」
エロイーズの癇癪と皇帝の横槍に、怯えてばかりだったマクベス国王が、意を決して叫んだが、それを聞く者など存在しない。国のトップはエロイーズ王妃殿下で実質は宰相。次席はランドルフ王太子。
王宮内は完全に帝国色に塗り替えられ、マクベスは使用人達から『玉座の鼠』だと嘲笑されるまでになっていた。
(時に遇えば鼠も虎になると言う⋯⋯いや、虎になれずとも、鼠らしい戦いを見せてやろうではないか)
マクベス王、覚醒?
「王命にて、王太子ランドルフとビルワーツ侯爵家アメリアの婚約を申しつける! ビルワーツの財を他国に奪われる前に、次代の王との縁組を成立させる」
エロイーズと並んだ宰相が議会で宣言した。
おや? ビルワーツに王命⋯⋯出せたっけ?
議会の決定は、すぐさまビルワーツ侯爵家に知らされることになった。書状を届けた宰相は、メアリー第一王女と瓜二つだという。
(切れ者と言う噂はやはり紛い物か。帝国出身の貴族などタカが知れてるな)
「ほう⋯⋯当家に王命ですか。それはまた意外なお話を聞きました」
「ランドルフ王太子殿下は、幼き頃より親しくしておられた令嬢との婚約を既に解消されました。婚約式の日程は四ヶ月後、その前に婚約発表の夜会を開く予定で、王宮と神殿は準備をはじめております。
侯爵閣下はアメリア嬢と共に一ヶ月以内に参内し、謁見の手続きを取っていただきたい。その時に婚姻前契約書を作成致しますが、詳細はこちらに」
宰相の横に立っていた補佐官がドヤ顔で、一枚の羊皮紙をテーブルに置いたが、内容を確認したビルワーツ侯爵が『ブハッ!』と盛大に吹き出した。
「これは失礼。予想を上回る内容に堪えきれず⋯⋯この内容から察するに議会の決議が通っているとは思えません。いや、最近の議会なら決議が通った上で、コレと言う可能性がないとも言い切れませんな。
因みに、当家がこの内容でサインすると思われたのはどなたなのか、お教えいただけますかな?」
パサリと羊皮紙をテーブルに投げ出し、無表情で宰相を見つめたビルワーツ侯爵の冷ややかな目つきに、宰相が震え上がった。
(な、な、なんだこの迫力は!)
普段はエロイーズと皇帝を盾にして、思う様権力を振るっている宰相だが、侯爵からの威圧に押されて言葉が出ない。
「おおよその検討はついておりますが、是非とも宰相の口からお聞かせ願いたい」
ソファの背にもたれた侯爵が足を組んでゆっくりと腕を組んだ。
「⋯⋯そ、それは王家の御意志と言いますか⋯⋯つまりその⋯⋯エ、エロイーズ王妃殿下とランドルフ王太子殿下が草案を作られました」
本当は宰相も参加して楽しく作った草案だが、侯爵の前で『自分も』と言う勇気はなかった。
宰相がビルワーツ侯爵に最後に会ったのは15年以上前。マクベスと侯爵の妹リディアの結婚破棄に関する話の時。
成人になって数年しか経たないレイモンドが、王侯貴族を圧倒し数々の約束事を取り決め、帝国との裁判を含め圧勝した事は記憶からこぼれ落ちているらしい。
38歳になった今、それ以上の強敵になっていないはずがないのだが。
無表情に見えるが、レイモンドが怒髪天を衝かんばかりの怒りに震えている事に、気付いているのは執事のみ。
(宰相と王家⋯⋯終わったな)
「宰相になられたのは王妃の成婚の直後、イシュタル侯爵家に婿入りされたのと同時でしたな。最近は陰の国王と言われるほどの手腕を発揮されているとか。
その宰相殿がわざわざ当家にお越しになられたのは、我が娘との婚姻を心から願っておられる証という事でしょう」
「そ、その通り! 王家だけでなく王国の貴族も全てが待ち望んでおります。王家と侯爵家の和解には若い二人が縁を結ぶのが一番! ご令嬢の為と言う大義名分があれば、閣下も王都へ足を踏み入れやすくなる。
長年社交界から遠ざかっておられた侯爵閣下が、貴族社会に難なく溶け込めるよう我等一同でお助け致しましょう」
「それはそれは、色々とお考えいただいたようで」
この話をビルワーツ侯爵が喜んだと勘違いした宰相は、安堵の溜め息を溢した。
(偉そうにしていても所詮は辺境の田舎貴族で、王都に戻れるきっかけを待っていただけかよ。
王国と帝国を相手に長年宰相を勤めてきた俺としたことが、さっきの迫力で騙されるところだったじゃないか⋯⋯ったく、クソむかつく。
これがおわったら俺様には、帝国の公爵位と領地での悠々自適の暮らしが待ってるんだから、せっせとご機嫌を取ってやらなきゃな。
ふふん、この様子だと簡単に事が運びそうだぜ)
上手く話がまとまったと思い上機嫌になった宰相は、侯爵に向けて右手を差し出した。
「次は王都ですな。お会いできる日を楽しみにしております」
「左様ですな。流石にこの件に関しては王都へ行かねばなりますまい」
特に不機嫌な様子はないが、侯爵は宰相が差し出した手を無視している。その事に少し違和感を感じたが⋯⋯。
「ビルワーツ侯爵家は、王都にタウンハウスをお持ちではなかったはず。到着の日時が決まり次第ご連絡をいただければ、王宮内の客室を準備して差し上げましょう」
「何年も前に売却したのですよ。無用な場所に、不要な物を持っていても手間がかかるばかりですからな」
「ん? 左様ですか。私は王都に何年も住んでいて色々な伝手がありますから、良い場所を調べておきましょう。侯爵家に相応しいタウンハウスを建てるとなれば、結構な広さが必要になりますなあ。
さて、そろそろお暇させていただきます。なにしろ、王都で仕事が待っているので、このままトンボ帰りしなくてはならんのです」
ようやく腰を上げた宰相を見送りに出た侯爵は、馬車に向かう宰相に声をかけた。
「王都に戻られたらお気に入りの方々に是非お伝え下さい。王家とビルワーツ侯爵家の契約内容を精査されるようにと。宰相殿は王都に着くまでに、時間がたっぷりあるでしょうから、よくよく思い出していただきたい。
ああ、そうだ! 宰相殿からお話をお聞きしたが、了承したのは一ヶ月以内の登城のみ。それ以外はお受けしたと勘違いされる返答さえしておりません。
言質を取られるのは、サインするのと同じくらい危険ですからなあ」
唖然とする宰相の目の前で、バタンとドアが閉まった。
「こ、侯爵閣下! 今のはどう言う意味ですか!?」
ドンドン⋯⋯ドンドンドン⋯⋯
「閣下! ビルワーツ侯爵閣下、もう少しお時間を⋯⋯ドンドン⋯⋯どう言うつもりだ! 話しを聞いてくれ」
ドアを叩く音と宰相の怒鳴り声は、1時間以上続いた。
「元気が有り余っておられるのね」
「馬車に乗っているだけだからな。膨らんだ腹を見る限り馬車じゃなく、食料貯蔵庫に乗って来たのかもな。衿元についた食べこぼしにも気付かず、他家を訪問するなんて信じられんよ」
「ついて来た補佐官と使用人のレベルが低すぎるんですわ。類は友を呼ぶと言いますものね」
「そんな奴らばかりだからアメリアと婚約なんて、馬鹿げたネタを思いつくんだろうな」
ビルワーツ侯爵の言葉通り、登城以外には何一つ確約など取れていない宰相が、エロイーズから半死半生の怪我を負わされ、急遽宰相代理が立てられるまで⋯⋯あと数日。
レイモンドとセレナがのんびりとお喋りを楽しんでいる客間に、アメリアが飛び込んできた。
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