【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

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第四章

18.新生エレーナ、行動開始

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「よおし、取り敢えずの状況確認はこれくらいかな~。ポンコツは帳簿、頑張れ! アタシはお茶とお菓子でも頼んでこようかな?」

「ルーナ様、あのぉ⋯⋯俺、厨房に案内しましょうか?」

 今のルーナなら最初に会ったメイドと、速攻でバトルをはじめかねない。

(本人、そのつもりできてるからな~。やる気満々? さっきの扇子をビュンバシッとかやりまくりそう⋯⋯)

 鉄扇だけどね。

「うーん、簡単に説明してくれたらそれで良いかなぁ。この手の古い家ってそれ程大きな違いはないじゃん。ポンコツと一緒にいると、例の三人衆が付き纏いそうだからね、絶対やだ」

 ぐうの音も出ないジェイクは目印込みで説明をし、部屋を出るルーナを見送った。

「エレーナ様、マジで申し訳ありませんでした。まさか、ここまで酷いとは⋯⋯」

 エレーナがクローゼットから取り出した籠を見て初めて気付いたが、いつも同じような柄のチュニックを着ていた気がする。古びて柄が薄れているそれは、下層の平民と同じかそれ以下。

(同じような⋯⋯じゃなくて、同じチュニックだったんだな。侯爵領の平民でも、もうちょいマシな服装してるのに、高位貴族令嬢で王女様のエレーナ様が⋯⋯。
はぁ、何を見て『俺はエレーナ様を気にしてる』とか思ってたんだろ)

「謝罪はもう結構ですわ。この屋敷を出るチャンスが来たのは、あの日ジェイクが話を聞いてくれたから。だから、わたくしこそお礼を言わなくてはならないと思ってますの」

 歪な形の籠を大切そうに抱え、柔らかな笑顔を浮かべていたエレーナは、何かを思いついたようで⋯⋯目を大きく見開いてジェイクを見上げた。

「わたくし、ジェイクのお手伝いいたしますわ! 家庭教師は辞めていただきますから、時間はたっぷりとありますもの。ここにいる間ジェイクの補佐をすれば、わたくしは無駄な時間がなくなり、ジェイクの仕事は捗る⋯⋯一石二鳥ですわね!」

「え、いやいやいやいや。流石に無理がありますって。帳簿やら領収書やら⋯⋯侯爵家の書類ってすっげえ細かいんで、読むだけで頭が痛くなるの確定ですからね」

 ジェイクの返事を聞いているのかいないのか⋯⋯クローゼットに籠を片付けているエレーナは、すでに今後の計画を立てはじめていた。

(考えもしなかったけど、ビルワーツ侯爵家令嬢の予算であれば相当な金額になるはず。宰相の話ぶりだと、追加請求もかなり頻繁だったみたい⋯⋯となると、先ずは裏帳簿ね。それさえあればダミー会社の情報もすぐに見つかるし。
一度キレたからかしら、世界が変わって見えるわ。諦念と無関心のエレーナは終わり! これからは新生エレーナになる)

(ミセス・ブラッツが雇われて2年半くらいか? いつ頃から不正をはじめたのか分かんねえけど、膨大な仕事になりそう⋯⋯はあ、それが終わるまではエレーナ様が屋敷にいてくださるけど、ルーナ様もセットかぁ。
『前門の虎、後門の狼』ってやつじゃね?)

 エレーナに『侯爵家にいても良い』と思って欲しい。その為に屋敷内の意識改革したいジェイクのタイムリミットは、予算額の把握や追跡調査が終わるまでだが、グズグズと時間稼ぎをしようにもルーナの目が怖すぎる。

 あの薄汚れたお手製の籠を見れば、一度でも屋敷を離れたエレーナは二度と戻ってこないと誰でも分かる。オーレリアの国王が口を出せば、エレーナの『離籍・養子』があっという間に決まってしまうのも間違いない。

(アメリア様は意識不明で、ニール様は無関心。後は全員エレーナ様の養育に権利を持たない他人ばっかり。
ひょっとして、ニール様が助けて⋯⋯いやいや、ミセス・ブラッツの話からして、アメリア様の事故に関わってそうなニール様を突くのはヤバすぎる。俺、詰んでるじゃん)

 遠い目になっていたジェイクの左手をエレーナが握りしめた。

「役にたつか立たないか、やってみなければ分かりませんでしょう? 補佐の見習い開始ですわ」

 ぐいぐいとジェイクの手を引っ張るエレーナの姿は、親戚のお兄ちゃんか若い父親に外遊びをねだる子供そのもの。

(少し手伝っていただいて、適当なところでルーナ様に迎えに来ていただけば良いかな。一緒にいれば、なんか方法が見えてくるかも⋯⋯)



 エレーナと手を繋いだジェイクが2階の執務室に向かうつもりで部屋を出ると、一仕事済ませたらしく晴れやかな顔のルーナが、階段を登ってくるのが見えた。

「ルーナ様、ちょうど良いところに⋯⋯わたくし達はこれからミセス・ブラッツの私室調査に参りますの」

「ええっ! エレーナさ「わあ、わたくしも勿論お供しますわ!」

 執務室に行くつもりだったジェイクが慌てはじめたが、ルーナは張り切って拳を握り締めた。

「少々お待ちくださ⋯⋯あ、そこのあなた! 逃げない! 呼ばれたらすぐに来るようにと、教えたばかりではありませんか!? 次はありませんからね。
すぐに厨房へ連絡に行って来なさい。お茶と茶菓は3人分に変更し、1時間後に執務室へ持ってくる事。
では、エレーナ様。参りましょう!」」

 声をかけられた途端青い顔でプルプルと震えはじめたのは、第一段階『ルーナ流の躾』が終わっているメイド(名前不明)かも。

 登ってきた階段を張り切って降りていくルーナの後ろ姿が頼もしすぎる。

(わたくしも、ルーナ様のように毅然とした態度でちゃんと意思を⋯⋯)

「そうだ! アタシはエレーナの侍女だからね、敬称はだめだよ~」



 メイド達の部屋は屋根裏にあるが、家政婦長の私室は一階にあり、保存食の保管室や大切な陶磁器の置かれた部屋と繋がっている。

 保管室は⋯⋯高価な香辛料やあまり手に入らない食品、極上の菓子や貴重な砂糖、保存食のジャムやピクルス等々。

 もうひとつの部屋は⋯⋯歴代の当主や当主夫人が手に入れ、季節や来客の種類によって入れ替えられる陶磁器で、値がつけられないほどの高級品ばかりが並んでいる。

「エレーナ様、流石にヤバいっすよ。ミセス・ブラッツが横領してる証拠をまだ見つけてませんから、部屋に入るのは⋯⋯」

「あら、当主の娘を虐待していた証拠を探しに参りましたの。
執事の証言により、家政婦長であるミセス・ブラッツが主犯格の一人である可能性が高いと判明。当主不在の為、後継として正当なる権利を保有する娘が代行し、公平なる第三者オーレリア国ルーナ・オルシーニ様立ち合いの元、強制捜査を行う⋯⋯こんな感じですわ。
その時に、たまたま裏帳簿やその他の犯罪の証拠が出てきたりする予定ですの」

「凄い!完璧じゃん。で、鍵はどうすんの?」

 ワクワクが隠しきれないルーナがミセス・ブラッツの私室のドアを叩いた。

「それはジェイクの仕事ですわ。さあ、その無駄に長い足で思いっきりやってくださいませ。さあさあ」

 ぐいぐいとドアに向かってジェイクを押すエレーナは、今までの溜まりに溜まった鬱憤を晴らそうとしているのか、心なしか楽しそうな顔をしている。

「⋯⋯(マ、マジで?)」

 たまに顔を見るだけだったが、ジェイクが見た事のあるエレーナは、いつも大人しく少し下を向いているイメージだった。人と決して目線を合わせない、人の気配がするとサッと道を変えるか逃げ出す⋯⋯臆病で人見知りな少女。

 ところが、初めて話しした時から大人顔負けの会話術を操り、ジェイクですら理解が追いつかなくなりそうな知識を披露する。今日に至っては、ミセス・ブラッツを煽って情報を引き出し、あの腹黒ジョーンズを再起不能になるまで理路整然と追い詰めて、精神的に叩きのめした。

(まるで別人⋯⋯二重人格説に1票)

「緊急性のある強制捜査ですもの。聞くところによると、アメリア様は一人娘を大切にしておられたそうですから、陰で虐待していたとお知りになられれば心を痛めてしまわれます。皆様が大切にしておられる偉大なアメリア様を謀っていた容疑ですのよ? ドアの1枚くらい必要経費で落とせますわ。
国民を愛する心優しいアメリア様のお心を安んじる為に、調査いたしませんとね!
マスターキーをお持ちの方がおられれば簡単ですけれど⋯⋯ねぇ」

「⋯⋯エレーナ様、知ってて言ってますよね」

 いざという時の為にと、前家政婦長からマスターキーを預かっているジェイクが、ジト目でエレーナの顔を覗き込んだ。

「宮殿から帰る時、ジェイクはミセス・ブラッツから屋敷の鍵を預かりたいと言い出さなかったでしょう? 気づかない間抜けなのか、鍵を開ける方法がある 持っている のか⋯⋯半々でしたけれど、持っている方に賭けてみましたの」

(ジェイクが鍵を持っていなければ、本気でドアを壊すつもりでいたのだけど、持っていてくれてラッキーでした。多分、前家政婦長ミセス・メイベルのお陰ね)



『アメリア様やジョーンズさんの決定に異を唱える資格はわたくしにはございません。ですが、ミセス・ブラッツを信用するのは危険ではないかと⋯⋯。
誰よりも大切なエレーナ様が今後もお住まいになられますし、歴代のご当主様が集められた貴重な品々もあります。
もしもの時の保険だと思い、このマスターキーをお持ちください。この鍵の存在が問題になりました時は、わたくしが全責任を負う覚悟でございます。
使わずに済めば重畳⋯⋯使わなければならない時がきたならば、躊躇なくお使いくださいませ』

(ミセス・メイベルが責められるような事になりませんように⋯⋯)

 緊張した面持ちで眉間に皺を寄せたジェイクが、ポケットから取り出した鍵を差し込んだ。

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