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第1話 王都ケーニヒシュタットの洗礼
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「さあ、着いたぞ坊主。王都正門前だ」
御者の声に促され、アルトは初めて見る大都会の石畳に降り立った。その足元には、彼の故郷の畑のような土の感触は、一切なかった。城門をくぐると、アルトの五感は一斉に王都の【超一流】な現実に晒された。
通りを歩く人々は故郷のくたびれた農民服とは違う。色鮮やかな絹や、仕立ての良いウールを着込み、清潔で生き生きとしていた。そして、アルトの足が、思わず立ち止まったのは、大通りに面した一際豪華な一角だった。
【高級薬草と治癒魔導具販売店『聖なる治癒』】
その店は、故郷の家々が石ころに思えるほど高く、店全体が漆黒に磨かれた大理石で造られていた。太陽光を反射して冷たく、威圧的に輝くその外観は、まるで貴族の館か、あるいは闇の巨塔のようだった。巨大な窓には透明なガラスが嵌められ、内部のきらびやかな調度品が覗いている。店の入り口には、全身銀色の鎧で武装した、警備兵士が二人、微動だにせず立っている。ショーケースに並ぶのは、故郷の母が長年苦しむ病を治療するために、喉から手が出るほど欲しかった高価な治癒魔道具だ。小さな治癒魔道具1つが、アルト一家の10年分の生活費に匹敵する値段をつけている。
アルトはそのガラスに顔を近づけて、宝物のように輝く治癒魔道具を必死に覗き込んだ。
「おい、そこの汚い坊主」
低い声が響いた。アルトは、警備兵士が言うような「汚い坊主」というよりも、故郷の貧しい生活には不似合いなほど華奢で整った容貌をしていた。細身の体型に幼さが残る白い肌。彼の明るい亜麻色の髪は目元に影を落としていたが、その奥にある瞳は澄んだロイヤルブルーをしていた。今日の彼は、故郷を出るにあたり新調した簡素だが清潔な服を着ており、それは彼の心に宿る希望を表しているかのようだった。しかし、王都の豪華な服と比べれば、そのみすぼらしさは隠しようがなかった。
アルトは低い声にビクッと体を震わせた。店の入り口の警備兵士の一人が、アルトを上から下まで値踏みするように見た後、蔑むように言った。
「そこのガラスに触るな。お前のような貧乏人が触れたら、店の格が落ちる。さっさと立ち去れ。ここはお前の来る場所じゃない」
警備兵士の言葉は、まるで鋭い石つぶてのようにアルトに突き刺さった。
「うっ……ごめんなさい!」
顔を真っ赤にして謝り、急いで店の前を離れる。警備兵士は最後までアルトを見下ろしたまま、微動だにしなかった。
(くそっ!見てるだけだってのに、ここまで言われるか!でも、見てろよ。今は汚ねえ小僧だけど、神様が絶対に俺にすげぇ職業をい授けてくれるんだ!)
アルトは強く決意した。すれ違うのは、胸に銀獅子の紋章をつけた金色の鎧を着た騎士団。そして、大酒を飲んでいるA級冒険者パーティ。彼らの姿全てが、アルトの目指すレア職業を手にした成功の眩しい未来だった。その勇猛な姿を見ると不安は消え去り、胸の中は熱い決意でいっぱいになる。
「僕も超一流になるんだ!」
アルトは強い志を抱き王都の中心部、太陽の光を反射して輝く巨大なヴェルクマイスター大神殿へと走り出した。
大神殿の正面は、純白の大理石で築かれており、柱の一本一本に、戦士の剣、魔法士の杖、商人の天秤など、あらゆる職業の精巧なレリーフが彫り込まれている。それは、職能の神ヴェルクマイスターの力と慈悲を象徴する荘厳さだった。大神殿の内部は、外の喧騒とは打って変わって静寂に包まれていた。天井は遥か高く、ステンドグラスから差し込む光が神聖な雰囲気を醸し出す。アルトは思わず息を飲んだ。
神殿の奥、最も神聖な祭壇の上には、巨大な神ヴェルクマイスターの像が鎮座していた。その像は、片手に研ぎ澄まされたノミを、もう一方の手に分厚い職業の書を持ち、全ての人間を見下ろしている。まるで、「お前たちの人生は、このノミで緻密に削り出される」と告げているかのようだ。
儀式を受けるための若者の行列が、大神殿の床を埋め尽くしている。アルトは緊張で震える手で、革のバッグを抱きしめた。
(頼みます、ヴェルクマイスター様。僕に家族を救えるだけの立派な職業を授けてください!)
アルトは像に向かって深く頭を下げ、胸の中で熱い祈りを捧げた。
長い行列はゆっくりと進む。ついにアルトの順番の直前になった。
アルトの目の前で儀式を受けていたのは、派手な服を着た、王都の商人の息子らしき青年だった。彼は興奮した面持ちで水晶玉に触れる。水晶が眩い光を放ち、やがて収束した。神官が、威厳に満ちた声で告げる。
「マルクス・フリッツよ。お前が神から授かりし職業は……『大商人』だ!」
「やった!大商人だ!」
青年はガッツポーズをし、周囲からは祝福と羨望のざわめきが起こる。
「いきなり大商人かよ!すげえな!」
「将来、絶対に国を動かす金持ちになるぞ!」
アルトも思わずゴクリと唾を飲み込んだ。大商人。羨ましい。だが、次は自分の番だ。
「次の者、前へ」
アルトは深呼吸をして胸を張って祭壇へ進み出た。そして、緊張で震える手を水晶玉に触れた。水晶が光を放ち、アルトの全身の力を吸い取っていくような感覚が走る。周囲の視線が、アルトと水晶に集中する。全員が次なる吉報を待っていた。やがて光が収束し、神官は水晶玉に浮かび上がった文字を確認した。 神官はアルトに向き直った。その顔は祝福や歓喜とは程遠い、困惑と深い深い哀れみに歪んでいた。
神官は一度、周囲を見回した。そして、先ほどとは違い小声でアルトに告げる。
「アルト・ヴィーゼンよ。お前が神から授かりし職業は……『フリーター』だ」
『ドォン』と頭の中で何かが砕ける音がした。その直後、神殿中に抑えきれないざわめきと、あからさまな失笑が広がった。
「フリーター!?嘘だろ、あのハズレ職かよ!」
「まさか、ヴェルクマイスター大神殿でフリーターを見るなんてな!」
「あーあ、可哀想に。あの地味な服からして、なんとなく察してたけど」
アルトの頭は真っ白になった。期待の絶頂から、一瞬にして絶望の谷底に突き落とされた。
(なんで、こんなひどい職業を授けるんですか!?こんなのあんまりだ!)
神官は目を合わせるのも辛いといった様子でアルトを促した。
「アルト・ヴィーゼンよ。フリーターはあらゆる雑務を器用にこなすが、どの専門職にも進歩しないので継続雇用は難しい日雇い専門の職業だ。くじけず地道にがんばりたまえ」
アルトはその場から逃げるように、失笑の渦巻く神殿を後にした。
御者の声に促され、アルトは初めて見る大都会の石畳に降り立った。その足元には、彼の故郷の畑のような土の感触は、一切なかった。城門をくぐると、アルトの五感は一斉に王都の【超一流】な現実に晒された。
通りを歩く人々は故郷のくたびれた農民服とは違う。色鮮やかな絹や、仕立ての良いウールを着込み、清潔で生き生きとしていた。そして、アルトの足が、思わず立ち止まったのは、大通りに面した一際豪華な一角だった。
【高級薬草と治癒魔導具販売店『聖なる治癒』】
その店は、故郷の家々が石ころに思えるほど高く、店全体が漆黒に磨かれた大理石で造られていた。太陽光を反射して冷たく、威圧的に輝くその外観は、まるで貴族の館か、あるいは闇の巨塔のようだった。巨大な窓には透明なガラスが嵌められ、内部のきらびやかな調度品が覗いている。店の入り口には、全身銀色の鎧で武装した、警備兵士が二人、微動だにせず立っている。ショーケースに並ぶのは、故郷の母が長年苦しむ病を治療するために、喉から手が出るほど欲しかった高価な治癒魔道具だ。小さな治癒魔道具1つが、アルト一家の10年分の生活費に匹敵する値段をつけている。
アルトはそのガラスに顔を近づけて、宝物のように輝く治癒魔道具を必死に覗き込んだ。
「おい、そこの汚い坊主」
低い声が響いた。アルトは、警備兵士が言うような「汚い坊主」というよりも、故郷の貧しい生活には不似合いなほど華奢で整った容貌をしていた。細身の体型に幼さが残る白い肌。彼の明るい亜麻色の髪は目元に影を落としていたが、その奥にある瞳は澄んだロイヤルブルーをしていた。今日の彼は、故郷を出るにあたり新調した簡素だが清潔な服を着ており、それは彼の心に宿る希望を表しているかのようだった。しかし、王都の豪華な服と比べれば、そのみすぼらしさは隠しようがなかった。
アルトは低い声にビクッと体を震わせた。店の入り口の警備兵士の一人が、アルトを上から下まで値踏みするように見た後、蔑むように言った。
「そこのガラスに触るな。お前のような貧乏人が触れたら、店の格が落ちる。さっさと立ち去れ。ここはお前の来る場所じゃない」
警備兵士の言葉は、まるで鋭い石つぶてのようにアルトに突き刺さった。
「うっ……ごめんなさい!」
顔を真っ赤にして謝り、急いで店の前を離れる。警備兵士は最後までアルトを見下ろしたまま、微動だにしなかった。
(くそっ!見てるだけだってのに、ここまで言われるか!でも、見てろよ。今は汚ねえ小僧だけど、神様が絶対に俺にすげぇ職業をい授けてくれるんだ!)
アルトは強く決意した。すれ違うのは、胸に銀獅子の紋章をつけた金色の鎧を着た騎士団。そして、大酒を飲んでいるA級冒険者パーティ。彼らの姿全てが、アルトの目指すレア職業を手にした成功の眩しい未来だった。その勇猛な姿を見ると不安は消え去り、胸の中は熱い決意でいっぱいになる。
「僕も超一流になるんだ!」
アルトは強い志を抱き王都の中心部、太陽の光を反射して輝く巨大なヴェルクマイスター大神殿へと走り出した。
大神殿の正面は、純白の大理石で築かれており、柱の一本一本に、戦士の剣、魔法士の杖、商人の天秤など、あらゆる職業の精巧なレリーフが彫り込まれている。それは、職能の神ヴェルクマイスターの力と慈悲を象徴する荘厳さだった。大神殿の内部は、外の喧騒とは打って変わって静寂に包まれていた。天井は遥か高く、ステンドグラスから差し込む光が神聖な雰囲気を醸し出す。アルトは思わず息を飲んだ。
神殿の奥、最も神聖な祭壇の上には、巨大な神ヴェルクマイスターの像が鎮座していた。その像は、片手に研ぎ澄まされたノミを、もう一方の手に分厚い職業の書を持ち、全ての人間を見下ろしている。まるで、「お前たちの人生は、このノミで緻密に削り出される」と告げているかのようだ。
儀式を受けるための若者の行列が、大神殿の床を埋め尽くしている。アルトは緊張で震える手で、革のバッグを抱きしめた。
(頼みます、ヴェルクマイスター様。僕に家族を救えるだけの立派な職業を授けてください!)
アルトは像に向かって深く頭を下げ、胸の中で熱い祈りを捧げた。
長い行列はゆっくりと進む。ついにアルトの順番の直前になった。
アルトの目の前で儀式を受けていたのは、派手な服を着た、王都の商人の息子らしき青年だった。彼は興奮した面持ちで水晶玉に触れる。水晶が眩い光を放ち、やがて収束した。神官が、威厳に満ちた声で告げる。
「マルクス・フリッツよ。お前が神から授かりし職業は……『大商人』だ!」
「やった!大商人だ!」
青年はガッツポーズをし、周囲からは祝福と羨望のざわめきが起こる。
「いきなり大商人かよ!すげえな!」
「将来、絶対に国を動かす金持ちになるぞ!」
アルトも思わずゴクリと唾を飲み込んだ。大商人。羨ましい。だが、次は自分の番だ。
「次の者、前へ」
アルトは深呼吸をして胸を張って祭壇へ進み出た。そして、緊張で震える手を水晶玉に触れた。水晶が光を放ち、アルトの全身の力を吸い取っていくような感覚が走る。周囲の視線が、アルトと水晶に集中する。全員が次なる吉報を待っていた。やがて光が収束し、神官は水晶玉に浮かび上がった文字を確認した。 神官はアルトに向き直った。その顔は祝福や歓喜とは程遠い、困惑と深い深い哀れみに歪んでいた。
神官は一度、周囲を見回した。そして、先ほどとは違い小声でアルトに告げる。
「アルト・ヴィーゼンよ。お前が神から授かりし職業は……『フリーター』だ」
『ドォン』と頭の中で何かが砕ける音がした。その直後、神殿中に抑えきれないざわめきと、あからさまな失笑が広がった。
「フリーター!?嘘だろ、あのハズレ職かよ!」
「まさか、ヴェルクマイスター大神殿でフリーターを見るなんてな!」
「あーあ、可哀想に。あの地味な服からして、なんとなく察してたけど」
アルトの頭は真っ白になった。期待の絶頂から、一瞬にして絶望の谷底に突き落とされた。
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神官は目を合わせるのも辛いといった様子でアルトを促した。
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