10 / 62
第10話 おバカとバカ
しおりを挟む
トビーはアルトの言葉に満足げにニヤリと笑った。
「いいぜ、好きにすればいいさ」
そう言い終えると、トビーはすぐに牢屋の扉の横に立つ衛兵に近づいた。トビーは一言も発することなく、懐から取り出した銀貨を衛兵の手に直接握らせた。衛兵はそれを確認することもなく、慣れた手つきで銀貨を素早く服の内側に隠す。
『ガチャン』
衛兵は無言で鍵を開けた。トビーは「行くぞ」とアルトに声をかける。アルトは開いた扉から堂々と牢屋の外へ出た。アルトはトビーの後について収容所の廊下を進む。途中で数人の衛兵とすれ違うが、誰も二人を止めることはしない。まるで2人が存在しないかのように衛兵たちは業務に従事していた。結局、2人は誰にも止められることなく収容所を抜けることができた。
収容所を出た瞬間、アルトは思わず口を開いた。
「こんなの、おかしいよ」
正義感にかられたアルトの呟きに、トビーは嘲るように言った。
「何をバカなことを言ってるんだ」
「だって、お金を払っただけで釈放されるなんて、おかし過ぎるよ」
アルトは故郷で教わった常識が通用しない現実に苛立っていた。トビーは呆れた目でアルトを見た後、冷静に問い返した。
「じゃあ聞くが、お前はどんな罪を犯したのだ?」
「僕は…………」
アルトは言葉に詰まった。アルトは何の罪も犯していない。汚いという理由で収容所に連れて行かれ、盗人の嫌疑をかけられただけだ。
「そうだ。俺たち泥底の人間は、くだらない理由で収容所に連れて行かれるのだ」
トビーは続けた。
「俺だって、蠅の王のお金をちょろまかしたのがバレて捕まった。でも、正式な罪状など何もない。蠅の王が常習的に衛兵たちに賄賂を渡しているから、奴らに逆らったという理由だけで捕まる。でも、アイツらは誰の味方でもない。金さえ渡せば簡単に出してくれるのさ。これが、お前がこれから生きる泥底の常識だ」
トビーの説明を聞いて、アルトは王都の底辺に蔓延する腐りきった現実を再確認した。憎むべきトビーの言葉だが、その通りだと認めざるを得ない。さらにトビーはアルトに説明をする。
「いいか、アルト。これから俺がこの泥底の現実を徹底的に教えてやる。まずは職業案内所へ行くぜ」
「……あぁ」
アルトはやる気のない返事をした。
2人が職業案内所に辿り着くと、まだ朝早いというのに、受付には30名ほどの人が並んでいた。彼らは皆、アルトと同じように、今日の仕事を得ようとするハズレ職の住人たちだ。
「僕たちもすぐにならばないと」アルトがそう言いかけると、トビーは鼻で笑って制止した。
「何をバカなことを言ってるんだ。あそこに並んでももらえる仕事は、糞ばかりだ。ただ並ぶだけでは良い仕事など貰えないぞ」
「でも、昨日は朝早く並ぶと良い仕事があるって言ったじゃないか!」
アルトはトビーに言い返した。
「あれは嘘だ。お前と仲良くなるために嘘を言ったのだ」
トビーは悪びれる様子もなくあっさりと白状した。アルトはトビーの言葉に動揺はしなかった。なぜなら、トビーが信用してはいけないペテン師だと、既に骨身に染みて認識しているからだ。
「初めから僕を騙すつもりだったのだな」
「もう、その話は無しだ。今日からは本当の相棒になったんだ。昨日のことは忘れろよ」
アルトは「ぁぁ」と軽く呟いた。しかし、彼の心の中では、トビーの裏切りを一生忘れないと固く誓っていた。アルトの明らかに不機嫌な返事に、トビーは気に留めることなく話を続けた。
「職業案内所で紹介してくれる仕事は二通りある。おバカ向けとバカ向けだ。おバカ向けは昨日説明したゴミ山の仕事。あそこは3K(臭くて汚くてキツい)の仕事のわりに、一日鉄賃7枚(700円)しかもらえない最悪の場所だ。泥底の六割の住人がゴミ山の仕事をしている」
トビーはアルトに問う。
「アルト、ゴミ山以外の仕事をもらうにはどうすれば良いかわかるか?」
「経験を積めば、良い仕事がもらえるのだろう」
アルトは故郷での常識に基づいた正論を答えた。
「違う。受付嬢に賄賂を渡すのだ。そうすればマシな仕事を斡旋してもらえるし、高額の賄賂を渡せば、泥底内で定職に就くことができるのだ。だが所詮、職業案内所を裏で牛耳る金色の蜘蛛の養分となるバカ向けの仕事だ。泥底にはまともな仕事など何もないのだ」
アルトはトビーの言葉に驚きはしなかった。牢屋での出来事と、衛兵への賄賂。泥底はすべてが金と腐敗で動いているのだと、再確認した程度に過ぎなかった。
「いいぜ、好きにすればいいさ」
そう言い終えると、トビーはすぐに牢屋の扉の横に立つ衛兵に近づいた。トビーは一言も発することなく、懐から取り出した銀貨を衛兵の手に直接握らせた。衛兵はそれを確認することもなく、慣れた手つきで銀貨を素早く服の内側に隠す。
『ガチャン』
衛兵は無言で鍵を開けた。トビーは「行くぞ」とアルトに声をかける。アルトは開いた扉から堂々と牢屋の外へ出た。アルトはトビーの後について収容所の廊下を進む。途中で数人の衛兵とすれ違うが、誰も二人を止めることはしない。まるで2人が存在しないかのように衛兵たちは業務に従事していた。結局、2人は誰にも止められることなく収容所を抜けることができた。
収容所を出た瞬間、アルトは思わず口を開いた。
「こんなの、おかしいよ」
正義感にかられたアルトの呟きに、トビーは嘲るように言った。
「何をバカなことを言ってるんだ」
「だって、お金を払っただけで釈放されるなんて、おかし過ぎるよ」
アルトは故郷で教わった常識が通用しない現実に苛立っていた。トビーは呆れた目でアルトを見た後、冷静に問い返した。
「じゃあ聞くが、お前はどんな罪を犯したのだ?」
「僕は…………」
アルトは言葉に詰まった。アルトは何の罪も犯していない。汚いという理由で収容所に連れて行かれ、盗人の嫌疑をかけられただけだ。
「そうだ。俺たち泥底の人間は、くだらない理由で収容所に連れて行かれるのだ」
トビーは続けた。
「俺だって、蠅の王のお金をちょろまかしたのがバレて捕まった。でも、正式な罪状など何もない。蠅の王が常習的に衛兵たちに賄賂を渡しているから、奴らに逆らったという理由だけで捕まる。でも、アイツらは誰の味方でもない。金さえ渡せば簡単に出してくれるのさ。これが、お前がこれから生きる泥底の常識だ」
トビーの説明を聞いて、アルトは王都の底辺に蔓延する腐りきった現実を再確認した。憎むべきトビーの言葉だが、その通りだと認めざるを得ない。さらにトビーはアルトに説明をする。
「いいか、アルト。これから俺がこの泥底の現実を徹底的に教えてやる。まずは職業案内所へ行くぜ」
「……あぁ」
アルトはやる気のない返事をした。
2人が職業案内所に辿り着くと、まだ朝早いというのに、受付には30名ほどの人が並んでいた。彼らは皆、アルトと同じように、今日の仕事を得ようとするハズレ職の住人たちだ。
「僕たちもすぐにならばないと」アルトがそう言いかけると、トビーは鼻で笑って制止した。
「何をバカなことを言ってるんだ。あそこに並んでももらえる仕事は、糞ばかりだ。ただ並ぶだけでは良い仕事など貰えないぞ」
「でも、昨日は朝早く並ぶと良い仕事があるって言ったじゃないか!」
アルトはトビーに言い返した。
「あれは嘘だ。お前と仲良くなるために嘘を言ったのだ」
トビーは悪びれる様子もなくあっさりと白状した。アルトはトビーの言葉に動揺はしなかった。なぜなら、トビーが信用してはいけないペテン師だと、既に骨身に染みて認識しているからだ。
「初めから僕を騙すつもりだったのだな」
「もう、その話は無しだ。今日からは本当の相棒になったんだ。昨日のことは忘れろよ」
アルトは「ぁぁ」と軽く呟いた。しかし、彼の心の中では、トビーの裏切りを一生忘れないと固く誓っていた。アルトの明らかに不機嫌な返事に、トビーは気に留めることなく話を続けた。
「職業案内所で紹介してくれる仕事は二通りある。おバカ向けとバカ向けだ。おバカ向けは昨日説明したゴミ山の仕事。あそこは3K(臭くて汚くてキツい)の仕事のわりに、一日鉄賃7枚(700円)しかもらえない最悪の場所だ。泥底の六割の住人がゴミ山の仕事をしている」
トビーはアルトに問う。
「アルト、ゴミ山以外の仕事をもらうにはどうすれば良いかわかるか?」
「経験を積めば、良い仕事がもらえるのだろう」
アルトは故郷での常識に基づいた正論を答えた。
「違う。受付嬢に賄賂を渡すのだ。そうすればマシな仕事を斡旋してもらえるし、高額の賄賂を渡せば、泥底内で定職に就くことができるのだ。だが所詮、職業案内所を裏で牛耳る金色の蜘蛛の養分となるバカ向けの仕事だ。泥底にはまともな仕事など何もないのだ」
アルトはトビーの言葉に驚きはしなかった。牢屋での出来事と、衛兵への賄賂。泥底はすべてが金と腐敗で動いているのだと、再確認した程度に過ぎなかった。
16
あなたにおすすめの小説
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!
黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――勇者パーティーの【鑑定士】リアムは、戦闘能力の低さを理由に、仲間と婚約者から無一文で追放された。全てを失い、流れ着いたのは寂れた辺境の村。そこで彼は自らのスキルの真価に気づく。物の情報を見るだけの【鑑定】は、実は万物の情報を書き換える神のスキル【神の万年筆】だったのだ!
「ただの石」を「最高品質のパン」に、「痩せた土地」を「豊穣な大地」に。奇跡の力で村を豊かにし、心優しい少女リーシャとの絆を育むリアム。やがて彼の村は一つの国家として世界に名を轟かせる。一方、リアムを失った勇者パーティーは転落の一途をたどっていた。今さら戻ってこいと泣きついても、もう遅い! 無能と蔑まれた青年が、世界を創り変える伝説の王となる、痛快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ
天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。
彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。
「お前はもういらない」
ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。
だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。
――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。
一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。
生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!?
彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。
そして、レインはまだ知らない。
夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、
「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」
「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」
と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。
そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。
理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。
王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー!
HOT男性49位(2025年9月3日0時47分)
→37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)
追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。
ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。
だから、ただ見せつけられても困るだけだった。
何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。
1~2話は何時もの使いまわし。
亀更新になるかも知れません。
他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる