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第18話 トビーのリスク
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アルトが王都の片隅にある職業案内所の前に着くと、トビーはすでにそこで待っていた。昨日着ていた仕立ての良い濃紺の服とは打って変わり、トビーはボロボロの服に身を包んでおり、まるで泥底の住人におあつらえ向きの恰好だった。
トビーはアルトの姿を見ると、人目を気にする様子もなく「こっちだ」というように手を振った。アルトはトビーの元へ駆けよった。
「職業案内所に並ばないと……」
アルトの言葉を遮り、トビーは涼しい顔で言った。
「もう手続きは済ませている。現場へ向かうぞ」
本来、職業の登録や仕事の手続きは本人の確認が必要だが、トビーの顔に不安の色は一切ない。おそらく、裏で賄賂を渡して強引に手続きを済ませたのだろう。アルトは何も言わず、トビーの後を付いて行った。
2人はゴミ山に到着した。腐敗臭が立ち込め、辺り一面に黒く巨大な山が連なっている。トビーは、その荒涼とした光景を見ながら説明を始めた。
「ゴミ山の仕事は大きく分けて3つある。まずは王都から運ばれたゴミを分別する仕事だ。お前は自分だけが【ゴミ山の再利用】を思いついたと思っているが、現実は違うぞ。まずはここで、再利用できる物と出来ない物に分ける。例えば、生ゴミの中でも、まだ腐敗していない食べられそうな食材は集められて泥底の食堂へ運ばれる。まだ使える綺麗な家具や日用品は修復部門へ回り、すぐに売りに出される。これが、ゴミ山における再利用だ」
トビーは巨大なゴミの山を指差した。
「次は、再利用できない物を、ゴミ山へ運ぶ作業。そして、最後はゴミ山に運ばれたゴミを処分する作業だ。解体できるゴミは細かく解体してから燃やし、そのまま燃やせる物は燃やしてしまう。そして、燃えないゴミは地下へ埋める。だが、あまりにもゴミの量が多いせいで全てを処分しきれず、結果としてあの巨大なゴミ山ができあがったのだ」
トビーはゴミ山の仕事の構造と、ゴミ山が出来上がった理由を説明し終えると、アルトに向き直り、低い声で続けた。
「アルト。このゴミ山のゴミは、全て金色の蜘蛛の所有物だ。お前はゴミ山から拾ったゴミを売って金を手に入れようと考えていたのだろう?このことが金色の蜘蛛にバレていたら、お前はただでは済まなかっただろうな」
それを聞いたアルトは、背筋が凍り、身の毛がよだつ思いをした。アルトがゴミ山でやっていた行為は組織の財産を盗む重罪だったのだ。
トビーはアルトの顔色の変化を無視して、さらに説明を続ける。
「今日のお前の仕事は、建前上はゴミ山から燃えるゴミを解体して運び、焼却する仕事だ。だが、お前はその仕事をしなくて良い。お前はゴミ山から再利用できる物を探すのが本職だ」
アルトは驚き、思わずトビーに確認した。
「仕事をサボって大丈夫なのか!?」
トビーは静かに頷き、ゴミ山の入り口付近を指差した。
「あのガタイのよい額に蜘蛛の入れ墨をした男が居るだろう。顔に蜘蛛の入れ墨があるのは金色の蜘蛛の一員の証だ。アイツはこのゴミ山の監視員の1人で、俺はアイツに銀貨三枚渡している。それは、お前が仕事をサボっていても見逃してもらうためのお金であり、お前がゴミ山から物を盗んでも目をつぶってもらうためのお金だ」
アルトはトビーの用意周到な計画性と、裏社会の人間を手玉に取る大胆さに、大いに感心した。そして、トビーが賄賂と話術で築いた安全な道なしに、自分1人では組織の目を盗んで物を拾うことなど、絶対に不可能だと痛感した。
トビーの用意周到な今日の仕事の段取りに、アルトは表向きは納得した。しかし、彼にとって最も気がかりな点は利子の返済だった。今日も銅貨五枚を稼がなければ、借金は確実に増えていく。
「もし、良いものを拾うことができなかったら、どうしよう……」
アルトは、不安を隠せず小さく呟いた。トビーはアルトのその不安な言葉が出るのを予測していたかのように、アルトに向き直った。
「アルト、ゴミ山の仕事は昼休憩の30分を含めて9時間労働だ。お前はあの監視員に、この日雇いカードにサインをもらい、帰る時にもサインをもらうのだ。そうすれば今日一日働いた証明となる」
トビーはアルトの日雇いカードを渡す。
「お前は帰りのサインをする時に、残業を申請しろ。残業は夜10時まで可能だ。その残業の間に見つけたお宝を、お前のスキルで綺麗にするのだ。もし、定時の間に見つからなければ、残業してお宝を見つけろ」
トビーはアルトに、組織の目を避けながら利益を最大化するための労働スケジュールを説明した。しかし、アルトが知りたいのはそこではなかった。
「僕が知りたいのは……」
アルトが何か言いかけた瞬間、トビーは言葉を重ねた。
「人の話は最後まで聞け。もし一日仕事をしてもお宝が見つからなかった時は、お前の借金の利子と宿代、そして最低限の食事代は、俺が全て保障してやる」
アルトは驚いたが、すぐに疑念に駆られた。
「しかし、その分はすべて分け前から引かしてもらうぞ」
とトビーは付け加えた。
「そんなことを言って、僕に新たな借金を背負わせるつもりなんだろ!」
アルトは声を荒げた。それに対してトビーは静かに否定した。
「今は俺とお前は仲間だ。だが、お前が俺を信用できないのはわかっている。後できちんとした書面でお互いの契約内容をかわそう。利益が出なかった日、または利益が少なかった日の利子や宿代と食事代の全ては俺が持つリスクとして組み込む。だからお前は何も気にせずにお宝を探すことだけに集中しろ」
アルトはトビーを信用できないが、今、彼を頼るしか泥底から這い上がる道がないことを知っていた。彼はトビーの目をしっかりと見つめた。
「絶対に僕を騙すなよ」
「あぁ」
トビーは短く答え、その言葉をアルトの命綱として与えた。アルトは納得し、トビーから受け取った日雇いカードを手に持ち、監視員の元へと向かった。
トビーはアルトの姿を見ると、人目を気にする様子もなく「こっちだ」というように手を振った。アルトはトビーの元へ駆けよった。
「職業案内所に並ばないと……」
アルトの言葉を遮り、トビーは涼しい顔で言った。
「もう手続きは済ませている。現場へ向かうぞ」
本来、職業の登録や仕事の手続きは本人の確認が必要だが、トビーの顔に不安の色は一切ない。おそらく、裏で賄賂を渡して強引に手続きを済ませたのだろう。アルトは何も言わず、トビーの後を付いて行った。
2人はゴミ山に到着した。腐敗臭が立ち込め、辺り一面に黒く巨大な山が連なっている。トビーは、その荒涼とした光景を見ながら説明を始めた。
「ゴミ山の仕事は大きく分けて3つある。まずは王都から運ばれたゴミを分別する仕事だ。お前は自分だけが【ゴミ山の再利用】を思いついたと思っているが、現実は違うぞ。まずはここで、再利用できる物と出来ない物に分ける。例えば、生ゴミの中でも、まだ腐敗していない食べられそうな食材は集められて泥底の食堂へ運ばれる。まだ使える綺麗な家具や日用品は修復部門へ回り、すぐに売りに出される。これが、ゴミ山における再利用だ」
トビーは巨大なゴミの山を指差した。
「次は、再利用できない物を、ゴミ山へ運ぶ作業。そして、最後はゴミ山に運ばれたゴミを処分する作業だ。解体できるゴミは細かく解体してから燃やし、そのまま燃やせる物は燃やしてしまう。そして、燃えないゴミは地下へ埋める。だが、あまりにもゴミの量が多いせいで全てを処分しきれず、結果としてあの巨大なゴミ山ができあがったのだ」
トビーはゴミ山の仕事の構造と、ゴミ山が出来上がった理由を説明し終えると、アルトに向き直り、低い声で続けた。
「アルト。このゴミ山のゴミは、全て金色の蜘蛛の所有物だ。お前はゴミ山から拾ったゴミを売って金を手に入れようと考えていたのだろう?このことが金色の蜘蛛にバレていたら、お前はただでは済まなかっただろうな」
それを聞いたアルトは、背筋が凍り、身の毛がよだつ思いをした。アルトがゴミ山でやっていた行為は組織の財産を盗む重罪だったのだ。
トビーはアルトの顔色の変化を無視して、さらに説明を続ける。
「今日のお前の仕事は、建前上はゴミ山から燃えるゴミを解体して運び、焼却する仕事だ。だが、お前はその仕事をしなくて良い。お前はゴミ山から再利用できる物を探すのが本職だ」
アルトは驚き、思わずトビーに確認した。
「仕事をサボって大丈夫なのか!?」
トビーは静かに頷き、ゴミ山の入り口付近を指差した。
「あのガタイのよい額に蜘蛛の入れ墨をした男が居るだろう。顔に蜘蛛の入れ墨があるのは金色の蜘蛛の一員の証だ。アイツはこのゴミ山の監視員の1人で、俺はアイツに銀貨三枚渡している。それは、お前が仕事をサボっていても見逃してもらうためのお金であり、お前がゴミ山から物を盗んでも目をつぶってもらうためのお金だ」
アルトはトビーの用意周到な計画性と、裏社会の人間を手玉に取る大胆さに、大いに感心した。そして、トビーが賄賂と話術で築いた安全な道なしに、自分1人では組織の目を盗んで物を拾うことなど、絶対に不可能だと痛感した。
トビーの用意周到な今日の仕事の段取りに、アルトは表向きは納得した。しかし、彼にとって最も気がかりな点は利子の返済だった。今日も銅貨五枚を稼がなければ、借金は確実に増えていく。
「もし、良いものを拾うことができなかったら、どうしよう……」
アルトは、不安を隠せず小さく呟いた。トビーはアルトのその不安な言葉が出るのを予測していたかのように、アルトに向き直った。
「アルト、ゴミ山の仕事は昼休憩の30分を含めて9時間労働だ。お前はあの監視員に、この日雇いカードにサインをもらい、帰る時にもサインをもらうのだ。そうすれば今日一日働いた証明となる」
トビーはアルトの日雇いカードを渡す。
「お前は帰りのサインをする時に、残業を申請しろ。残業は夜10時まで可能だ。その残業の間に見つけたお宝を、お前のスキルで綺麗にするのだ。もし、定時の間に見つからなければ、残業してお宝を見つけろ」
トビーはアルトに、組織の目を避けながら利益を最大化するための労働スケジュールを説明した。しかし、アルトが知りたいのはそこではなかった。
「僕が知りたいのは……」
アルトが何か言いかけた瞬間、トビーは言葉を重ねた。
「人の話は最後まで聞け。もし一日仕事をしてもお宝が見つからなかった時は、お前の借金の利子と宿代、そして最低限の食事代は、俺が全て保障してやる」
アルトは驚いたが、すぐに疑念に駆られた。
「しかし、その分はすべて分け前から引かしてもらうぞ」
とトビーは付け加えた。
「そんなことを言って、僕に新たな借金を背負わせるつもりなんだろ!」
アルトは声を荒げた。それに対してトビーは静かに否定した。
「今は俺とお前は仲間だ。だが、お前が俺を信用できないのはわかっている。後できちんとした書面でお互いの契約内容をかわそう。利益が出なかった日、または利益が少なかった日の利子や宿代と食事代の全ては俺が持つリスクとして組み込む。だからお前は何も気にせずにお宝を探すことだけに集中しろ」
アルトはトビーを信用できないが、今、彼を頼るしか泥底から這い上がる道がないことを知っていた。彼はトビーの目をしっかりと見つめた。
「絶対に僕を騙すなよ」
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