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第30話 束の間の勝利
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ベルゼブブからの「自らを奴隷として売りに出せ」という残酷な言葉に対し、ウコンは言葉を詰まらせた。
「あ、あぅ……そ、それは……」
ウコンは額から滝のような冷や汗を流し、視線を彷徨わせながら答えを渋っている。命をかけると豪語したものの、いざ自分の身を売るとなると恐怖が勝ってしまったのだ。その無様な様子を見ていた、もう1人の黒服の男、コッシが一歩前へと進み出た。彼はウコンの双子の弟であり、兄と共に賭博場の管理を任されている幹部だ。
「恐れながら、ベルゼブブ様。弟である私、コッシに発言の許可を頂きたく存じます」
ベルゼブブは、興味なさげに杖を回しながら許可を出した。
「許す」
発言の許可をもらったコッシは、深く頭を下げ、必死の形相でベルゼブブに嘆願した。
「ありがとうございます。……兄ウコンは、アイツが来るまではベルゼブブ様に多大な利益を与えてきた功績がございます。現在は、アイツが経営に噛んでいる【ぼったくり食堂】に客を奪われて売り上げが落ちておりますが、私共で新たな手法を考案し、売り上げを以前以上に回復させる所存でございます。どうか、今一度の機会を……!」
コッシは兄を庇い、最大限の敬意を払った言葉遣いで組織への貢献をアピールした。それに対して、ベルゼブブはニヤリと笑って、トビーに問いかけた。
「コッシはあのように申しておるが、お前はどうとらえる?」
それは、トビーを試すような問いだった。トビーは静かにコッシを一瞥すると、ベルゼブブに向き直り、ゆっくりと口を開いた。
「ご下問、恐縮に存じます。……私の愚見を述べさせていただきますと、もしも新たな手法を考えているのであれば、売り上げが落ち始めたその瞬間に判断し、実行すべきだったと思います」
トビーの声は、静寂な会場によく通った。
「組織の危機に際して、後手に回り、こうして追い詰められてからようやく発案するようでは、先ほどウコン殿が仰った【命を賭けて忠誠を尽くしている】というお言葉とは、矛盾していると言わざるを得ません。真の忠誠とは、身の危険がなくとも、常に主君の利益を最大化するために思考し続けることではないでしょうか」
トビーの指摘はあまりにも的確だった。命をかけるほどの忠誠があるなら、なぜ今までその新たな手法を隠していたのか、あるいは実行できなかったのか。それは無能か、怠慢のどちらかでしかない。
「なっ……!」
トビーの言葉に、コッシの顔も真っ青になり、反論の余地がなかった。勝負あった、と感じたベルゼブブは、黒いシルクハットを目深にかぶり直し、冷酷に宣告した。
「お前達2人には、身を挺して金を生み出してもらおう」
それは、幹部から奴隷への転落を意味していた。
「あ……あぁ……」
ベルゼブブの言葉を聞いたウコンとコッシは、絶望とショックのあまり白目を剥き、その場に崩れ落ちて気を失った。
ウコンとコッシの双子が気を失い、部屋の奥に控えていた黒服の男たちによって部屋の裏へと引きずられていくと、会場には再び静寂が訪れた。その静寂を破ったのは、金色のドレスを纏った美女、アクネラだった。彼女は口元を隠していた黄金の蜘蛛の扇子をパチンと閉じ、艶めかしく、しかし絶対的な権力を感じさせる声を発した。
「さて、この辺で茶番は終わりにして、本題に入らせてもらいましょうか」
アクネラにとって、配下の不始末やトビーの舌戦など、単なる余興に過ぎないと言わんばかりの口調だった。その言葉に同調するように、ベルゼブブも口を開いた。彼は先ほどまでの怒りや嘲笑を消し去り、底知れぬ闇を湛えた瞳で、舞台上の青年を見据えた。
「トビー……いや、エドワード・フィッツジェラルドよ」
ベルゼブブの口から紡がれたのは、泥底のペテン師トビーの名ではなく、彼が王都でのみ名乗っている本名だった。ベルゼブブは、その反応を楽しむように、低く重い声で続けた。
「お前をここへ連行させた、本当の理由を教えてやろう」
トビーは、跪いたまま顔を上げ、二人の支配者を真っ直ぐに見つめ返した。
「あ、あぅ……そ、それは……」
ウコンは額から滝のような冷や汗を流し、視線を彷徨わせながら答えを渋っている。命をかけると豪語したものの、いざ自分の身を売るとなると恐怖が勝ってしまったのだ。その無様な様子を見ていた、もう1人の黒服の男、コッシが一歩前へと進み出た。彼はウコンの双子の弟であり、兄と共に賭博場の管理を任されている幹部だ。
「恐れながら、ベルゼブブ様。弟である私、コッシに発言の許可を頂きたく存じます」
ベルゼブブは、興味なさげに杖を回しながら許可を出した。
「許す」
発言の許可をもらったコッシは、深く頭を下げ、必死の形相でベルゼブブに嘆願した。
「ありがとうございます。……兄ウコンは、アイツが来るまではベルゼブブ様に多大な利益を与えてきた功績がございます。現在は、アイツが経営に噛んでいる【ぼったくり食堂】に客を奪われて売り上げが落ちておりますが、私共で新たな手法を考案し、売り上げを以前以上に回復させる所存でございます。どうか、今一度の機会を……!」
コッシは兄を庇い、最大限の敬意を払った言葉遣いで組織への貢献をアピールした。それに対して、ベルゼブブはニヤリと笑って、トビーに問いかけた。
「コッシはあのように申しておるが、お前はどうとらえる?」
それは、トビーを試すような問いだった。トビーは静かにコッシを一瞥すると、ベルゼブブに向き直り、ゆっくりと口を開いた。
「ご下問、恐縮に存じます。……私の愚見を述べさせていただきますと、もしも新たな手法を考えているのであれば、売り上げが落ち始めたその瞬間に判断し、実行すべきだったと思います」
トビーの声は、静寂な会場によく通った。
「組織の危機に際して、後手に回り、こうして追い詰められてからようやく発案するようでは、先ほどウコン殿が仰った【命を賭けて忠誠を尽くしている】というお言葉とは、矛盾していると言わざるを得ません。真の忠誠とは、身の危険がなくとも、常に主君の利益を最大化するために思考し続けることではないでしょうか」
トビーの指摘はあまりにも的確だった。命をかけるほどの忠誠があるなら、なぜ今までその新たな手法を隠していたのか、あるいは実行できなかったのか。それは無能か、怠慢のどちらかでしかない。
「なっ……!」
トビーの言葉に、コッシの顔も真っ青になり、反論の余地がなかった。勝負あった、と感じたベルゼブブは、黒いシルクハットを目深にかぶり直し、冷酷に宣告した。
「お前達2人には、身を挺して金を生み出してもらおう」
それは、幹部から奴隷への転落を意味していた。
「あ……あぁ……」
ベルゼブブの言葉を聞いたウコンとコッシは、絶望とショックのあまり白目を剥き、その場に崩れ落ちて気を失った。
ウコンとコッシの双子が気を失い、部屋の奥に控えていた黒服の男たちによって部屋の裏へと引きずられていくと、会場には再び静寂が訪れた。その静寂を破ったのは、金色のドレスを纏った美女、アクネラだった。彼女は口元を隠していた黄金の蜘蛛の扇子をパチンと閉じ、艶めかしく、しかし絶対的な権力を感じさせる声を発した。
「さて、この辺で茶番は終わりにして、本題に入らせてもらいましょうか」
アクネラにとって、配下の不始末やトビーの舌戦など、単なる余興に過ぎないと言わんばかりの口調だった。その言葉に同調するように、ベルゼブブも口を開いた。彼は先ほどまでの怒りや嘲笑を消し去り、底知れぬ闇を湛えた瞳で、舞台上の青年を見据えた。
「トビー……いや、エドワード・フィッツジェラルドよ」
ベルゼブブの口から紡がれたのは、泥底のペテン師トビーの名ではなく、彼が王都でのみ名乗っている本名だった。ベルゼブブは、その反応を楽しむように、低く重い声で続けた。
「お前をここへ連行させた、本当の理由を教えてやろう」
トビーは、跪いたまま顔を上げ、二人の支配者を真っ直ぐに見つめ返した。
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