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第41話 アルトの初恋
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ルーナが部屋を出て行った後、残されたアルトの心は、彼女を追いかけて抱きしめたいという衝動と、彼女の「嘘」という名の気遣いを無駄にしてはいけないという理性の間で激しく揺れ動いていた。
(追いかけなきゃ……でも、僕に何ができる? お金もない。力もない。追いかけても、彼女を困らせるだけじゃないか?)
アルトはどうすれば良いか分からず、思考が堂々巡りをして気が動転していた。1人では答えが出せない。彼はすがるような思いで部屋を飛び出し、廊下の向かい側にあるファビアンが入った個室の扉を激しく叩いた。
「ファビアンさん! 出てきてください!」
返事はない。アルトは焦燥感に駆られ、さらに強く扉を叩く。
「ファビアンさん! 開けてください! お願いします!」
何度か激しくノックを繰り返した時、ガチャリと鍵が開く音がして、扉が少しだけ開いた。
そこから顔を出したのは、ファビアンではなく、バスローブを1枚だけ体に巻いた女性だった。彼女の茶色い髪は乱れ、首筋やデコルテには赤い痕が残り、ほんのりと上気した肌は、つい先ほどまで激しい情事が行われていたことを雄弁に物語っていた。
「あらぁ……。あなたはファビアン様のお連れの方ですね?」
女性は気怠げで、しかしアルトを誘うような艶めかしい声で言った。
「 坊やも混ざりたいの?3人でのプレイは追加料金が必要よ」
「っ……! 違います!」
アルトは顔を真っ赤にして叫んだ。
「そんなことはしません! 僕はファビアンさんに用事があるのです!」
アルトは羞恥心を振り切り、女性の脇をすり抜けて強引に部屋の中へと入った。
部屋の中は、アルトの部屋と同じ構造だが、そこには濃厚なアルコールの匂いと、男女の熱気が充満していた。キングサイズのベッドの上には、シーツを腰まで掛けただけの、ほぼ裸の状態のファビアンが横たわっていた。床には空になったワインボトルが転がっている。ファビアンは少し虚ろな目でアルトを見上げ、呂律が回らない様子で口を開いた。
「おぉ……アルト君か……。なんだ、お前は複数プレイがお好みか?」
ファビアンはだらしなく笑い、アルトを茶化すように言った。
「違います! ファビアンさん、僕は真剣に相談したいことがあるんです!」
アルトの必死な剣幕に、ファビアンはニヤニヤと笑いながら体を起こし、枕元のバスローブを羽織った。
「どうした、アルト君。そんなに青い顔をして。言ってみろ」
アルトは、一気にまくし立てた。ルーナのことを。彼女がハズレ職業の家事士のためにどこも雇ってもらえずに、家族への仕送りができないために、仕方なくこの仕事を始めたこと。そして、自分を遠ざけるために嘘をついたこと。
「僕は……ルーナさんをこの店から連れ出したいんです! 彼女を救いたいんです!」
アルトが息を切らして訴え終えると、ファビアンは、まるでそうなることを最初から想定していたかのように、口元に微かな含み笑いを浮かべた。
「なるほどな。美しい悲劇だ」
ファビアンはベッドから降り、アルトの前に立った。酒の酔いは演技だったのかと思うほど、その眼光は鋭さを取り戻していた。
「だがな、アルト君。この店は王都でも指折りの高級店だ。キャストの管理は厳しい。俺の情報によれば、ルーナが5年の契約期間を満了せずに辞める場合の違約金は……大金貨5枚(5,000万円)だ」
「わ、わかっています……」
アルトは震える声で言った。
「今すぐに支払うことはできません。でも、分割して支払って、ルーナさんを救いたいのです。ルーナさんは……僕のことを思って、僕を突き放したのです。あんなに優しい人を、僕は見捨てられません!」
アルトの目には涙が溢れていた。それは、同情ではなく、初めて知った愛に近い、強烈な情動だった。ファビアンは、アルトに一歩近づいた。そして、父親か兄のように、優しくアルトの背中を叩いた。
「アルト。お前は本気でルーナのことを好きになったのだな」
ファビアンはここで初めて、アルトを「君」付けではなく呼び捨てにした。それは、親身になっているという演出であり、二人の距離を一気に縮めるためのテクニックだった。
「はい……」
アルトは小さく、しかし力強く頷いた。
「俺は、お前にただ楽しんでもらうために、この店に招待をしたのだ。だが、お前は真剣にルーナのことが好きになってしまった。……あんな純朴な娘をあてがった、俺の責任でもあるな」
ファビアンは、自責の念を感じているような表情を作った。そして、アルトの瞳を覗き込み、試すように言った。
「いいだろう。お前が命を賭けてでもルーナを救いたいと願うなら、俺が協力しよう」
その言葉に、アルトは顔を上げた。
「本当ですか!?」
「ああ。だが、大金貨5枚だ。並大抵の覚悟では返せない。お前はそれどもルーナを救いたいのか?」
「はい!」
アルトは、迷いのない真剣な表情で即答した。
「救いたいです。お願いします、ファビアンさん! 僕に力を貸してください!」
アルトの純粋すぎる決意は、ファビアンという名の悪魔の手のひらで、あまりにも美しく、そして危うく輝いていた。
(追いかけなきゃ……でも、僕に何ができる? お金もない。力もない。追いかけても、彼女を困らせるだけじゃないか?)
アルトはどうすれば良いか分からず、思考が堂々巡りをして気が動転していた。1人では答えが出せない。彼はすがるような思いで部屋を飛び出し、廊下の向かい側にあるファビアンが入った個室の扉を激しく叩いた。
「ファビアンさん! 出てきてください!」
返事はない。アルトは焦燥感に駆られ、さらに強く扉を叩く。
「ファビアンさん! 開けてください! お願いします!」
何度か激しくノックを繰り返した時、ガチャリと鍵が開く音がして、扉が少しだけ開いた。
そこから顔を出したのは、ファビアンではなく、バスローブを1枚だけ体に巻いた女性だった。彼女の茶色い髪は乱れ、首筋やデコルテには赤い痕が残り、ほんのりと上気した肌は、つい先ほどまで激しい情事が行われていたことを雄弁に物語っていた。
「あらぁ……。あなたはファビアン様のお連れの方ですね?」
女性は気怠げで、しかしアルトを誘うような艶めかしい声で言った。
「 坊やも混ざりたいの?3人でのプレイは追加料金が必要よ」
「っ……! 違います!」
アルトは顔を真っ赤にして叫んだ。
「そんなことはしません! 僕はファビアンさんに用事があるのです!」
アルトは羞恥心を振り切り、女性の脇をすり抜けて強引に部屋の中へと入った。
部屋の中は、アルトの部屋と同じ構造だが、そこには濃厚なアルコールの匂いと、男女の熱気が充満していた。キングサイズのベッドの上には、シーツを腰まで掛けただけの、ほぼ裸の状態のファビアンが横たわっていた。床には空になったワインボトルが転がっている。ファビアンは少し虚ろな目でアルトを見上げ、呂律が回らない様子で口を開いた。
「おぉ……アルト君か……。なんだ、お前は複数プレイがお好みか?」
ファビアンはだらしなく笑い、アルトを茶化すように言った。
「違います! ファビアンさん、僕は真剣に相談したいことがあるんです!」
アルトの必死な剣幕に、ファビアンはニヤニヤと笑いながら体を起こし、枕元のバスローブを羽織った。
「どうした、アルト君。そんなに青い顔をして。言ってみろ」
アルトは、一気にまくし立てた。ルーナのことを。彼女がハズレ職業の家事士のためにどこも雇ってもらえずに、家族への仕送りができないために、仕方なくこの仕事を始めたこと。そして、自分を遠ざけるために嘘をついたこと。
「僕は……ルーナさんをこの店から連れ出したいんです! 彼女を救いたいんです!」
アルトが息を切らして訴え終えると、ファビアンは、まるでそうなることを最初から想定していたかのように、口元に微かな含み笑いを浮かべた。
「なるほどな。美しい悲劇だ」
ファビアンはベッドから降り、アルトの前に立った。酒の酔いは演技だったのかと思うほど、その眼光は鋭さを取り戻していた。
「だがな、アルト君。この店は王都でも指折りの高級店だ。キャストの管理は厳しい。俺の情報によれば、ルーナが5年の契約期間を満了せずに辞める場合の違約金は……大金貨5枚(5,000万円)だ」
「わ、わかっています……」
アルトは震える声で言った。
「今すぐに支払うことはできません。でも、分割して支払って、ルーナさんを救いたいのです。ルーナさんは……僕のことを思って、僕を突き放したのです。あんなに優しい人を、僕は見捨てられません!」
アルトの目には涙が溢れていた。それは、同情ではなく、初めて知った愛に近い、強烈な情動だった。ファビアンは、アルトに一歩近づいた。そして、父親か兄のように、優しくアルトの背中を叩いた。
「アルト。お前は本気でルーナのことを好きになったのだな」
ファビアンはここで初めて、アルトを「君」付けではなく呼び捨てにした。それは、親身になっているという演出であり、二人の距離を一気に縮めるためのテクニックだった。
「はい……」
アルトは小さく、しかし力強く頷いた。
「俺は、お前にただ楽しんでもらうために、この店に招待をしたのだ。だが、お前は真剣にルーナのことが好きになってしまった。……あんな純朴な娘をあてがった、俺の責任でもあるな」
ファビアンは、自責の念を感じているような表情を作った。そして、アルトの瞳を覗き込み、試すように言った。
「いいだろう。お前が命を賭けてでもルーナを救いたいと願うなら、俺が協力しよう」
その言葉に、アルトは顔を上げた。
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「ああ。だが、大金貨5枚だ。並大抵の覚悟では返せない。お前はそれどもルーナを救いたいのか?」
「はい!」
アルトは、迷いのない真剣な表情で即答した。
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