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第50話 別邸
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「だがな、アルト、もっと稼ぐ方法については、俺にしばらく考える時間をくれ。明日までには良い案を考えておく」
ファビアンは勿体ぶるようにそう告げた。彼の脳裏には、トビーのような泥臭いやり方とは異なる、富裕層をターゲットにした高収益なビジネスモデルの構想が、ぼんやりとだが浮かび上がっていた。まだ細部は決まっていないが、トビーを超えるための青写真の輪郭は、すでに彼の頭の中で描かれつつあった。
アルトはパッと顔を輝かせ、嬉しそうに頷いた。
「うん! 期待しているよ、ファビアンさん。……あ、それと報告なんだけど、『装飾的な杖』は見つからなかったよ」
アルトは申し訳なさそうに付け加えた。昨日、ゴミ山を必死に探して、壊れた杖を見つけて修復したが、何の変哲もない杖しか見つからなかった。ファビアンは一瞬、眉をひそめて残念そうな表情を浮かべた。ヴァレリウスからの特命である杖を早く見つけ出し、手柄を立てたかったからだ。
「気にするな。そんなにすぐに見つかることはないだろう。気長に探せよ」
ファビアン自身、その装飾的な杖が具体的に何なのか、どれほどの歴史的価値があるものなのか全く知らされていない。ただヴァレリウスが所望しているという事実だけで動いているため、見つからないのも無理はないと考えていた。
「はい!」
アルトは元気よく返事をすると、やる気に満ちた目をして、ゴミ山へ向かって駆けて行った。
休憩室に一人残されたファビアンは、アルトが昨日修復した品々である精巧な銀の食器、修繕された、鮮やかな色彩を放つ美しい風景画、そして欠片から完璧に修繕された、細部までリアルな天使像の彫刻品などを手際よく革袋へ詰めていく。
アルトの修復品は、その種類によって売却ルートが厳格に分けられている。貴金属や宝石類なら、高級宝飾店【白金の聖櫃】へ。高級な食器や調度品なら、世界中の逸品が集まる高級雑貨店【世界の食卓】へ。そして、絵画や彫刻などの芸術品は、富裕層しか入れない高級画廊【美の殿堂】へと持ち込まれる。本来であれば、そこで店主と交渉し、少しでも高値で売り捌くのが仲介人の腕の見せ所だ。かつてトビーは、その天性の話術と愛嬌、そして狡猾な駆け引きで、相場よりも遥かに高い金額をふんだくっていた。だが、ファビアンは違う。彼は【経営士】であり、システムを作る側の人間だ。トビーのような交渉術に長けていないので、交渉は任されていない。
ファビアンは、ヴァレリウスがトビーを自分よりも交渉に長けた者と認め、この業務を全てトビーに一任していたことに、強い屈辱を感じていた。彼は自らも組織の幹部候補であるため、トビーにできて自分にできないはずがないと強く自負している。しかし、ヴァレリウスはファビアンに交渉の場を与えなかった。
「……フン、こんな小銭稼ぎの交渉など、下っ端にやらせておけばいい」
ファビアンはあえて声に出して吐き捨てるが、内心では「俺にもできるはずだ、トビーなどに劣るはずがない!」と、煮え滾るような悔しさに唇を噛み締めた。ヴァレリウスからファビアンに与えられた役割は、アルトという生産拠点の管理だ。アルトの力を最大限に引き出し、規格外の利益を生み出すシステムを維持することこそが、ヴァレリウスから期待されている使命である。
ファビアンは革袋を抱え、休憩室を出ると、泥底を後にして王都の高級住宅街へと向かった。彼が目指すのは、かつてトビーが住んでいた屋敷、今はヴァレリウスの別邸となっている場所だ。
しばらく歩くと、整然とした街並みの中に、一際威容を誇る屋敷が現れた。 門には、精巧な装飾が施された重厚な鉄扉が閉ざされており、その奥には手入れの行き届いた広大な芝生の庭園が広がっている。その重厚な鉄扉の前には、機動性を重視した軽装備の警備兵が二人、静かに立っていた。彼らは、王都の高級住宅街の治安を守るために派遣された公的な存在である。
主を失ったはずのその屋敷は、今はより強大な主の支配下に置かれ、静かな威圧感を放っていた。ここは現在、ヴァレリウスは居住していないが、彼が統率する巨大犯罪組織【黒き太陽】の、王都における極秘アジトとして機能しているのだ。
ファビアンは門番に目配せをして中に入ると、アルトの修復品を組織の換金係に引き渡すべく、屋敷の奥へと進んでいった。
ファビアンは勿体ぶるようにそう告げた。彼の脳裏には、トビーのような泥臭いやり方とは異なる、富裕層をターゲットにした高収益なビジネスモデルの構想が、ぼんやりとだが浮かび上がっていた。まだ細部は決まっていないが、トビーを超えるための青写真の輪郭は、すでに彼の頭の中で描かれつつあった。
アルトはパッと顔を輝かせ、嬉しそうに頷いた。
「うん! 期待しているよ、ファビアンさん。……あ、それと報告なんだけど、『装飾的な杖』は見つからなかったよ」
アルトは申し訳なさそうに付け加えた。昨日、ゴミ山を必死に探して、壊れた杖を見つけて修復したが、何の変哲もない杖しか見つからなかった。ファビアンは一瞬、眉をひそめて残念そうな表情を浮かべた。ヴァレリウスからの特命である杖を早く見つけ出し、手柄を立てたかったからだ。
「気にするな。そんなにすぐに見つかることはないだろう。気長に探せよ」
ファビアン自身、その装飾的な杖が具体的に何なのか、どれほどの歴史的価値があるものなのか全く知らされていない。ただヴァレリウスが所望しているという事実だけで動いているため、見つからないのも無理はないと考えていた。
「はい!」
アルトは元気よく返事をすると、やる気に満ちた目をして、ゴミ山へ向かって駆けて行った。
休憩室に一人残されたファビアンは、アルトが昨日修復した品々である精巧な銀の食器、修繕された、鮮やかな色彩を放つ美しい風景画、そして欠片から完璧に修繕された、細部までリアルな天使像の彫刻品などを手際よく革袋へ詰めていく。
アルトの修復品は、その種類によって売却ルートが厳格に分けられている。貴金属や宝石類なら、高級宝飾店【白金の聖櫃】へ。高級な食器や調度品なら、世界中の逸品が集まる高級雑貨店【世界の食卓】へ。そして、絵画や彫刻などの芸術品は、富裕層しか入れない高級画廊【美の殿堂】へと持ち込まれる。本来であれば、そこで店主と交渉し、少しでも高値で売り捌くのが仲介人の腕の見せ所だ。かつてトビーは、その天性の話術と愛嬌、そして狡猾な駆け引きで、相場よりも遥かに高い金額をふんだくっていた。だが、ファビアンは違う。彼は【経営士】であり、システムを作る側の人間だ。トビーのような交渉術に長けていないので、交渉は任されていない。
ファビアンは、ヴァレリウスがトビーを自分よりも交渉に長けた者と認め、この業務を全てトビーに一任していたことに、強い屈辱を感じていた。彼は自らも組織の幹部候補であるため、トビーにできて自分にできないはずがないと強く自負している。しかし、ヴァレリウスはファビアンに交渉の場を与えなかった。
「……フン、こんな小銭稼ぎの交渉など、下っ端にやらせておけばいい」
ファビアンはあえて声に出して吐き捨てるが、内心では「俺にもできるはずだ、トビーなどに劣るはずがない!」と、煮え滾るような悔しさに唇を噛み締めた。ヴァレリウスからファビアンに与えられた役割は、アルトという生産拠点の管理だ。アルトの力を最大限に引き出し、規格外の利益を生み出すシステムを維持することこそが、ヴァレリウスから期待されている使命である。
ファビアンは革袋を抱え、休憩室を出ると、泥底を後にして王都の高級住宅街へと向かった。彼が目指すのは、かつてトビーが住んでいた屋敷、今はヴァレリウスの別邸となっている場所だ。
しばらく歩くと、整然とした街並みの中に、一際威容を誇る屋敷が現れた。 門には、精巧な装飾が施された重厚な鉄扉が閉ざされており、その奥には手入れの行き届いた広大な芝生の庭園が広がっている。その重厚な鉄扉の前には、機動性を重視した軽装備の警備兵が二人、静かに立っていた。彼らは、王都の高級住宅街の治安を守るために派遣された公的な存在である。
主を失ったはずのその屋敷は、今はより強大な主の支配下に置かれ、静かな威圧感を放っていた。ここは現在、ヴァレリウスは居住していないが、彼が統率する巨大犯罪組織【黒き太陽】の、王都における極秘アジトとして機能しているのだ。
ファビアンは門番に目配せをして中に入ると、アルトの修復品を組織の換金係に引き渡すべく、屋敷の奥へと進んでいった。
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