ハズレ職業【フリーター】を授かった少年は、王都で騙されて多額の借金を背負う。しかし、修復スキルでガラクタを修復して最下層の泥底から成り上がる

ninjin

文字の大きさ
54 / 62

第54話 緊張の果てに

しおりを挟む
 神々しい光が降り注ぐテーブルの最奥、上座に1人の男が待っていた。派手な真紅のスーツを着崩した、二十代前半と思われる若い男だ。 腰まで伸びた艶やかな黒髪がスーツの肩にさらりと掛かり、その整った好青年の顔立ちには、人懐っこい笑顔が浮かんでいる。

 男はテーブルに肘をつき、組んだ両手の上に顎を乗せると、その笑顔のまま食い入るようにファビアンを見つめていた。だが、その笑顔はどこか決定的にいびつだった。 口元は三日月のように綺麗な弧を描いて笑っているのに、目だけが一切笑っていないのだ。まるで精巧に作られた蝋人形が無理やり笑わされているような、底知れぬ不気味さがそこにあった。

 彼こそが、組織の実務を支える【7つの柱ゼーベン・ゾイレ】 の一人であり、上級職豪商ハンデルスヘルを成長させた大豪商ハンデルス・フュルストを持つ幹部、ローレンツである。

 ローレンツは、ガチガチに緊張して立ち尽くすファビアンを見ると、鈴を転がすような明るい声で言った。

 「やあファビアン。挨拶はいいよ! そこにある椅子に座りなよ」

 その口調は、まるで旧友に話しかけるかのように気さくだった。だが、その軽さがかえってファビアンの恐怖を煽る。組織の序列において、十の歯車ツェーン・ラーダーであるファビアンと7つの柱ゼーベン・ゾイレであるローレンツの間には、超えられない壁がある。

 「……わかりました。座らせていただきます」

 ファビアンは、自分よりも遥かに格上のローレンツに対し、極めて丁寧な言葉遣いで応じた。その動作は明らかにぎこちなく、指先が微かに震えている。それも無理はなかった。ファビアンは今日、新事業の提案だけでなく、昨日の泥底の幹部会議での失態も報告しなければならないからだ。

 ファビアンは緊張で震える体を必死に抑え込みながら、下座にある薄汚いランプの下の椅子に腰を下ろした。ファビアンが座ると、ローレンツはニコニコと笑いながら、首をコクリと傾げて問いかけた。

 「それで? 泥底の会議の報告をしてよ」

 その瞳は、やはり笑っていなかった。黒曜石のように冷たく、感情の読めない瞳が、ファビアンの心臓を射抜くように見据えている。ファビアンは、ローレンツのその不気味な笑みに晒され、さらに喉が渇き、心臓が早鐘を打った。

 「も、申し訳ございませんッ!」

 ファビアンは報告を口にする恐怖に耐えきれず、ガタッと椅子から立ち上がり、深々と頭を下げて謝罪した。

 「私の力不足で……今回は……!」

 しかし、ローレンツの反応は、ファビアンの予想とは違っていた。彼は怒るでもなく、呆れるでもなく、ただ無反応に不気味な笑みを張り付けたまま、軽い口調で遮った。

 「あ! 謝罪なんていいよ。時間の無駄だし。内容だけ端的に教えてよ」

 そのあまりの軽さに、ファビアンは逆に背筋が凍る思いがした。謝罪すら許されないほど、自分は価値がないと思われているのではないか。ファビアンは脂汗を垂らしながら、必死に言葉を紡いだ。

 「は、はい……。すぐにご報告いたします」

 ファビアンは震える声で続けた。

 「蝿の王は、トビーが処分されたことにより、ぼったくり食堂のシノギを縮小せざるを得ないと判断しています。その補填として、賭博場のシノギを拡大させる方針とのことです。……しかし」

 ファビアンは唾を飲み込んだ。

 「賭博場の運営が軌道に乗るまでは、上納金は3割減での支払いを要望しています」

 「ふーん。で、黄金の蜘蛛は?」
 「……黄金の蜘蛛のボルゴは……リヒター様、もしくはそれに相応しい立場のあるお方が幹部会議に来なければ、話はしないと……交渉の席に着くことすら拒否いたしました」

 報告を終えたファビアンは、処罰を覚悟して体を縮こまらせた。トビーがいた頃にはあり得なかった減収と、交渉決裂。これは明らかな失態だ。

 その時だった。

 「アハハハハハハハッ!!」

 突然、広い部屋にローレンツの狂ったような大笑いが響き渡った。

 「傑作だね! アハハハッ!」

 ローレンツは腹を抱えて笑い転げている。その場違いな哄笑に、ファビアンは恐怖も忘れ、きょとんとしてローレンツを見つめるしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!

黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――勇者パーティーの【鑑定士】リアムは、戦闘能力の低さを理由に、仲間と婚約者から無一文で追放された。全てを失い、流れ着いたのは寂れた辺境の村。そこで彼は自らのスキルの真価に気づく。物の情報を見るだけの【鑑定】は、実は万物の情報を書き換える神のスキル【神の万年筆】だったのだ! 「ただの石」を「最高品質のパン」に、「痩せた土地」を「豊穣な大地」に。奇跡の力で村を豊かにし、心優しい少女リーシャとの絆を育むリアム。やがて彼の村は一つの国家として世界に名を轟かせる。一方、リアムを失った勇者パーティーは転落の一途をたどっていた。今さら戻ってこいと泣きついても、もう遅い! 無能と蔑まれた青年が、世界を創り変える伝説の王となる、痛快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。 ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。 だから、ただ見せつけられても困るだけだった。 何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。 1~2話は何時もの使いまわし。 亀更新になるかも知れません。 他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

処理中です...