ハズレ職業【フリーター】を授かった少年は、王都で騙されて多額の借金を背負う。しかし、修復スキルでガラクタを修復して最下層の泥底から成り上がる

ninjin

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第55話 大事なこと

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 ローレンツの狂ったような哄笑が、薄暗い元食堂に反響して、ファビアンはその異様な光景に、訳もわからずただキョトンと立ち尽くすしかなかった。ひとしきり笑い終えると、ローレンツは涙を指で拭いながら、再びあの底知れない不気味な笑みを浮かべて言った。

 「ファビアン君、もしかして、君があの幹部会議を成功させられるとでも思っていたのですか?」

 その問いかけには、純粋な疑問と、残酷な嘲笑が含まれていた。ファビアンは冷や汗を流しながらも、正直な気持ちを吐露した。

 「……難しいとは思っていましたが、なんとか成功させたいと思っていました」

 ファビアンの真剣な言葉を聞いて、ローレンツは再び腹を抱えて大笑いした。そして、バンバンとテーブルを叩く音が響く。

 「アハハハハッ! ファビアン君、君は本当にヤバいねぇ~」

 ローレンツは笑い転げながら、まるで世間知らずの子供に教えるように言った。

 「いいかい? 泥底の幹部会議というのはね、黄金の蜘蛛と蝿の王といった古狸たちの顔を立てるために、本来なら7つの支配座セプテム・ソリアもしくは、支配座の影ジーベン・シャッテン】が出席するのが義務となっている。最悪の場合でも僕たち7つの柱ゼーベン・ゾイレが出席することになっているんだよ」

 ローレンツはテーブルに頬杖をつき、死んだ魚のような目でファビアンを見据えた。

 「僕たちが出向いても、アイツらは見下されたと被害妄想を抱いて、会議の進行に時間がかかるんだ。本当ならリヒター様が出席できない今回、僕が代わりに参加しなきゃいけなかった。……でも、君が任命されたよね?」

 ローレンツは楽しそうに首を傾げた。

 「幹部ですらない、下っ端の【十の歯車ツェーン・ラーダー】である君が選ばれた意図を全く理解していなかったんだね。いやあ、これはヤバいよ。本当にヤバいよ」

 ファビアンの顔から血の気が引いていく。彼は震える声で尋ねた。

 「ローレンツ様……泥底の幹部会議は、初めから失敗させるのが目的だったのですか?」
 「そうだよ。アイツらを怒らせるために、わざと格下の君を送り込んだんだよ。君は僕たちの期待通り、無様に振る舞って、彼らのプライドを逆撫でしてくれた。まさに天晴れだよ」

 ローレンツの言葉に、ファビアンはショックを隠しきれなかった。自分は大役を任されたと思い込み、張り切っていた。しかし、実際はただの捨て駒、相手を怒らせるための道化に過ぎなかったのだ。ファビアンが絶望に打ちひしがれていると、ローレンツは話題を変えるように、にこやかに問いかけた。

 「ファビアン君、それよりも杖の件は、どうなっているのかな?」

 ファビアンはハッとして顔を上げた。

 「そ、捜索はまだ1日です。しかも、どのような杖なのか具体的な特徴がわからないので、かなりの時間がかかりそうです」

 ファビアンの答えを聞いた瞬間、ローレンツは顎が外れるのではないかと思うほどの大口を開けて、狂ったように笑い出した。

 「アハハハハハハッ!!君、ヤバいよ! 本当にヤバいよ!」

 ローレンツは笑いすぎて苦しそうに息を継いだ。

 「杖の捜索は、組織の最重要事項だと知らないの?」

 「ゴミ山から杖を探してこいと言われましたが……それほど重要なことだとは、知りませんでした」

 ファビアンは素直に答えた。トビー亡き後、右も左も分からないまま命令を受けた彼には、事の重大さを知る由もなかったのだ。ローレンツは、スッと笑顔のまま表情を凍りつかせた。

 「君は本当にヤバいよ。ヤバすぎだよ。君は、いちいち何が重要か説明しないとわからないのかな?」
 「そ、そ、それは……」

 ファビアンは言葉に詰まった。自分で何が重要かの判断などしていなかった。ただ与えられた仕事をこなすだけで精一杯だったのだ。

 「君は何も考えていなかったんだね。だから君は、いつまで経っても【十の歯車(ツェーン・ラーダー)】なんだよ」

 ローレンツの声色が、氷点下のように冷たくなる。

「僕の口からは詳しいことは言えないけど、杖の探索は、君が今、一番力を入れてやらなければいけないことなんだよ。今からでも遅くはないと思うよ? 君が使える構成員を全て使ってでも、探すことを勧めるよ。もちろん、寝る間も惜しんで、見つかるまで探しなよ」

 それはアドバイスという名の、明確な死の宣告に近い命令だった。今すぐここを出て、死ぬ気で探せと言われているのだ。

 ファビアンの背中を冷や汗が伝う。

 (すぐにでもゴミ山へ戻るのが正解なのかもしれない……)

 しかし、ファビアンの脳裏に自らが考案した不死鳥の飛翔デア・フェーニクスフルークの青写真がよぎった。

 (いや、このまま何も言わずにゴミ山へ戻れば、俺はただの言われたことしかできない無能だと思われたままだ)

 ファビアンは、今この場で、自らの価値を証明したかった。 自分が考案したこの完璧なビジネスモデルさえ聞いてもらえれば、ローレンツ様も必ず俺を見る目を変えるはずだ。俺は使える男なのだと、すぐにでも認めさせたい。

 ファビアンは葛藤の末、事業案を提案することを選んだ。

 「ローレンツ様、すぐにゴミ山へ向かいたいと思いますが……1つだけ、話を聞いてもらえないでしょうか」

 ファビアンがそう声をかけた瞬間、ローレンツはまた腹を抱えて笑い出した。

 「アハハハハッ! 君はヤバいよ! 本当にヤバいよ!」

 ローレンツは、理解不能な生物を見るような目でファビアンを見下ろした。

 「僕がせっかくアドバイスをしてあげたのに、すぐにゴミ山へ向かわずに、僕に別の話をするなんて……君は本当にヤバいよ」

 ローレンツの笑いは止まらなかった。

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