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第62話 逆襲
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土下座をして地面に額を擦り付けながら、ファビアンは戦慄と共に兄の真意を理解した。なぜ、リヒターは杖の正体が、あの伝説の秘宝原初の王笏であることを隠していたのか。それは、もしファビアンがその正体を知れば、必ず裏切るとリヒターが判断していたからだ。
ファビアンはエーデルマン家の落ちこぼれだ。 レア職業【豪商】の父、レア職業【交渉人】の次男リヒターは別格としても、ファビアンは長男フランツと同じ上級職を授かっていた。 兄は上級職【豪商】、自分も上級職の【経営士】。 本来ならば、兄と同じように商会の柱となるべき恵まれた職業だ。だが、ファビアンにはその職業の才能を伸ばすための才覚が欠けていた。 器だけは立派だが、中身が伴わない見掛け倒し。 それゆえに、ファビアンは常に家の中で期待外れの無能と虐げられ、嘲笑されてきたのだ。
そんなコンプレックスの塊であるファビアンが、もし世界を支配できる杖の正体を知り、それを手にしてしまったらどうするか? 答えは決まっている。黒き太陽を裏切り、杖を自分の物にし、今まで自分をバカにしてきた連中全員に復讐し、ひれ伏させるだろう。リヒターは、弟の卑屈な心に潜む野心と復讐心を見抜いていたからこそ、情報を遮断していたのだ。
(ククク……そうだ。その通りだ、兄さん。あんたの懸念は正しいよ)
ファビアンの中で、何かが弾けた。リヒターの懸念は、今ここで現実のものとなる。
ファビアンには切り札がある。それはアルトだ。アルトはまだ正式な黒き太陽の構成員ではない。ただ利用されているだけの外部の人間であり、ファビアンのことを信じ切っている。杖を見つけ出し、アルトに修復させて、それを自分で奪えばいい。そうすれば、エーデルマン家の汚点から、世界の王になれる。
ファビアンはゆっくりと顔を上げた。そこには、先ほどまで怯え、涙を流していた弱々しいファビアンの姿はなかった。あるのは、歪んだ野望に満ち溢れ、生き生きとした光を宿した男の顔だった。
「……ボルゴ、取引をしよう」
立ち上がり、埃を払ったファビアンの声には、奇妙な自信が満ちていた。
「あぁ? お前とは何も話すことはねぇよ。とっとと帰りやがれ」
ボルゴは興味なさそうに手を振った。もうファビアンから搾り取れる金は取ったし、後は自分たちで杖を探せばいいと考えているからだ。だが、ファビアンは引かない。
「ボルゴ、その足りない頭でよく聞け。俺が探している杖は、お前の推察通り伝説の杖……原初の王笏だ」
ファビアンはあっさりと核心を認めた。ボルゴの眉がピクリと動く。
「ほう、認めやがったな。なら尚更、俺たちがいただくぜ」
「だが、伝説の物語の最後の部分を思い出せ」
ファビアンは商談のように、冷静に言葉を紡ぐ。
「伝説の杖は、初代国王の手によって破壊された。そして王城の地下に封印されたはずが、なぜかこのゴミ山にある。……つまりだ。もし、伝説の杖を見つけたとしても、それはただのバラバラになったゴミだということだ」
「なんだと!それなら、お前はなんでそんなに躍起になって杖を探しているのだ。俺を騙そうとしても無駄だぞ」
ボルゴは警戒心を露わにして睨みつける。その姿を見てファビアンは鼻で笑った。
「ボルゴ、よく考えろ。もしも、伝説の杖が正常な状態なら、王城にて厳重に保管してあるはずだ。それがなぜ、こんなゴミ溜めに転がっている?ガラクタと見分けがつかなくなったからゴミと一緒に捨てられたと考えるのが妥当だろう?」
「む……」
ボルゴは言葉に詰まった。確かに筋は通っている。もし伝説の杖がそのままの形でゴミ山へ捨てられたのならば、誰かがとっくに拾っているはずだ。今まで見つからなかったのは、それがゴミにしか見えない状態だからだ。
「……確かに、お前の言っていることは筋が通っている。だが、それならば見つけた後に、修復士に直してもらえば良いだけだ」
そう、ボルゴは壊れていても直せばいいと考えたのだ。しかし、ファビアンは待っていましたとばかりに、嘲るような笑みを浮かべた。
「ハハハッ! 本気か? 上級職の修復士ごときが、世界を支配できる伝説の秘宝、神話級のアーティファクトを直せると本当に思っているのか?」
ファビアンは一歩踏み出し、ボルゴを見下ろすように言った。
「もし、その辺の修復士ごときが簡単に直せるような代物ならば、初代国王がわざわざ伝説の杖を壊して封印する意味がないだろう?神話級のアーティファクトは壊れれば修復するのは不可能に近いと推測するのが妥当だ。だが王城の地下に封印したということは、絶対に修復できないというわけではないとも推測することができるのだ」
ボルゴは腕を組み、唸り声を上げた。ファビアンの言葉には、反論できない説得力があった。伝説の武器が上級職レベルで治せるはずはない。
「……チッ。確かに、お前の言ってることは理屈が通るなぁ」
ボルゴの殺気が霧散し、代わりに迷いが生じた。
ファビアンはエーデルマン家の落ちこぼれだ。 レア職業【豪商】の父、レア職業【交渉人】の次男リヒターは別格としても、ファビアンは長男フランツと同じ上級職を授かっていた。 兄は上級職【豪商】、自分も上級職の【経営士】。 本来ならば、兄と同じように商会の柱となるべき恵まれた職業だ。だが、ファビアンにはその職業の才能を伸ばすための才覚が欠けていた。 器だけは立派だが、中身が伴わない見掛け倒し。 それゆえに、ファビアンは常に家の中で期待外れの無能と虐げられ、嘲笑されてきたのだ。
そんなコンプレックスの塊であるファビアンが、もし世界を支配できる杖の正体を知り、それを手にしてしまったらどうするか? 答えは決まっている。黒き太陽を裏切り、杖を自分の物にし、今まで自分をバカにしてきた連中全員に復讐し、ひれ伏させるだろう。リヒターは、弟の卑屈な心に潜む野心と復讐心を見抜いていたからこそ、情報を遮断していたのだ。
(ククク……そうだ。その通りだ、兄さん。あんたの懸念は正しいよ)
ファビアンの中で、何かが弾けた。リヒターの懸念は、今ここで現実のものとなる。
ファビアンには切り札がある。それはアルトだ。アルトはまだ正式な黒き太陽の構成員ではない。ただ利用されているだけの外部の人間であり、ファビアンのことを信じ切っている。杖を見つけ出し、アルトに修復させて、それを自分で奪えばいい。そうすれば、エーデルマン家の汚点から、世界の王になれる。
ファビアンはゆっくりと顔を上げた。そこには、先ほどまで怯え、涙を流していた弱々しいファビアンの姿はなかった。あるのは、歪んだ野望に満ち溢れ、生き生きとした光を宿した男の顔だった。
「……ボルゴ、取引をしよう」
立ち上がり、埃を払ったファビアンの声には、奇妙な自信が満ちていた。
「あぁ? お前とは何も話すことはねぇよ。とっとと帰りやがれ」
ボルゴは興味なさそうに手を振った。もうファビアンから搾り取れる金は取ったし、後は自分たちで杖を探せばいいと考えているからだ。だが、ファビアンは引かない。
「ボルゴ、その足りない頭でよく聞け。俺が探している杖は、お前の推察通り伝説の杖……原初の王笏だ」
ファビアンはあっさりと核心を認めた。ボルゴの眉がピクリと動く。
「ほう、認めやがったな。なら尚更、俺たちがいただくぜ」
「だが、伝説の物語の最後の部分を思い出せ」
ファビアンは商談のように、冷静に言葉を紡ぐ。
「伝説の杖は、初代国王の手によって破壊された。そして王城の地下に封印されたはずが、なぜかこのゴミ山にある。……つまりだ。もし、伝説の杖を見つけたとしても、それはただのバラバラになったゴミだということだ」
「なんだと!それなら、お前はなんでそんなに躍起になって杖を探しているのだ。俺を騙そうとしても無駄だぞ」
ボルゴは警戒心を露わにして睨みつける。その姿を見てファビアンは鼻で笑った。
「ボルゴ、よく考えろ。もしも、伝説の杖が正常な状態なら、王城にて厳重に保管してあるはずだ。それがなぜ、こんなゴミ溜めに転がっている?ガラクタと見分けがつかなくなったからゴミと一緒に捨てられたと考えるのが妥当だろう?」
「む……」
ボルゴは言葉に詰まった。確かに筋は通っている。もし伝説の杖がそのままの形でゴミ山へ捨てられたのならば、誰かがとっくに拾っているはずだ。今まで見つからなかったのは、それがゴミにしか見えない状態だからだ。
「……確かに、お前の言っていることは筋が通っている。だが、それならば見つけた後に、修復士に直してもらえば良いだけだ」
そう、ボルゴは壊れていても直せばいいと考えたのだ。しかし、ファビアンは待っていましたとばかりに、嘲るような笑みを浮かべた。
「ハハハッ! 本気か? 上級職の修復士ごときが、世界を支配できる伝説の秘宝、神話級のアーティファクトを直せると本当に思っているのか?」
ファビアンは一歩踏み出し、ボルゴを見下ろすように言った。
「もし、その辺の修復士ごときが簡単に直せるような代物ならば、初代国王がわざわざ伝説の杖を壊して封印する意味がないだろう?神話級のアーティファクトは壊れれば修復するのは不可能に近いと推測するのが妥当だ。だが王城の地下に封印したということは、絶対に修復できないというわけではないとも推測することができるのだ」
ボルゴは腕を組み、唸り声を上げた。ファビアンの言葉には、反論できない説得力があった。伝説の武器が上級職レベルで治せるはずはない。
「……チッ。確かに、お前の言ってることは理屈が通るなぁ」
ボルゴの殺気が霧散し、代わりに迷いが生じた。
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