「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

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第2章 スキル覚醒

第14話「勇者は重要イベントに立ち合います」

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 ――前回までのあらすじ。

 お母さんに夢の中で「セーフセックスを心がけろ」と言われていたはずなのに、流されてグレン(チート主人公)と川の中での行為に及ぼうとしていたベルンハルト(勇者を辞める予定の凡人)。
 
 だが、それを妨害するかのように、川の中から突如、巨大な魚型のモンスターが出現したのである!!


 ……止めてくれてありがと~!!
 
 オレどうかしてたわ……この川の水、媚薬とか入ってない……?(媚薬って実在しないらしいけど、ファンタジー世界だからあり得そうで怖い。)


「ベルンハルト。俺の後ろに下がってて」

 グレンはオレを背に庇うと、張っていたバリアをより強くするように魔力を放出する。

 わー安心感すごーい。
 多分あれS級モンスター(めっちゃ強いやつ)だけど、グレンくんならチートだから安心……安心……?

 
 え、まって。
 グレンってまだ【皇帝】チートスキル覚醒させてないよね???

 い、いけるのか……? 【防衛】と魔法だけで……。

 
「グレン……」

 逞しい背中に縋り付く。逃げれそうなら逃げようぜ⁉︎
 ……そういう意思表示のつもりだった。

「安心して、ベル。あんな雑魚を相手に――俺が貴方を、守り抜けないはずがないでしょう?」

 のに、何故かグレンはそれを応援的な意味だと解釈したようだ。
 
 違うって!! ポジティブだなお前!! 
 いつでも前向きなのはいいことだけど、前だけ向いてたら気づかないこともあるよーー!!?? 例えばほら、道端に落ちている石の美しさとか……!!!


「――っ」

 魚の形をしているが、見るからに異形と知れる、全長三メートルはあろうかという巨体。
 それが跳躍し、襲い掛かってくる。

 グレンが二重三重にと強化したバリアの中にも、その衝撃は及んだ。


 ……こっわ!!!

 見た目もグロ……やば……。人魚とか贅沢は言わんから、同じ水属性ならせめてもうちょっとかっこいいやつがよかったな……ケートスとかさ。

 いや、今回こそはマジでそれどころじゃない……!

 
「グレン、逃げるぞ」

 勝てないってあんなの!!
 だってでかい! でかい生物は強いの!! でかくて優しいのは鯨だけだから!!!(諸説あり)

「そうしたいのは山々ですが……囲まれてます」

 囲まれ……?

 慌てて見回せば、オレとグレンを包むバリアを取り囲むように、大小様々な魚が浮遊していた。

 ……さっきまで普通のお魚さんだったじゃん……。平和に泳いでたでしょ……? なんでそんな禍々しい感じの魔力まとってんのさ……。
 

「あのデカブツが、他の魚たちも操ってんのか」

「そのようです。なので……あいつを倒します」

 グレンは平然と言ってのけたが、今のところ防戦一方だ。

 【防衛】によって魔法は無限に使える。だが、内部で攻撃魔法を放てば……当然バリアは壊れ、無防備になる。

 グレン一人ならどうとでもなるだろう。
 彼なら、あのデカグロ魚を攻撃しながら周りのお魚さんたちをいなす程度簡単だ。

 でも、今はオレがいる。
 どういうわけか、彼にとっては大切らしいお荷物が。


 あー……オレがアイリちゃんだったらなぁ……。

 【皇帝】はヒロインを守りたいという――愛の力で覚醒する。
 今彼の背中にへばりついているのが、当て馬ではなくヒロインであったなら……と、どうにもならないことを考えてから、はたと、思い出す。

 ん? そうだよ、オレはヒロインじゃないじゃん。
 なに守ってもらうのが当然みたいになってんだ!!

 忘れかけていたが、ベルンハルトは曲がりなりにも勇者。スキルだって二つある。

 【剣】は……得物がないからちょっと難しいとして、【予言】ならいけるか。


 オラクルムは、その名が示す通り、“相手の未来を定める“能力だ。

 中々に強力だが、使うと……まあ、予言する内容によるが軽く三日は昏睡する。

 嫌だけど……今は一番確実だろう。【予言】なら、バリアに影響も出ないし。


「グレン、教えろ。あいつを倒すのには、どんな予言が必要だ?」

 下手な予言をすれば、モンスターは倒せない上にオレは倒れて荷物が重くなる……みたいな最悪の事態を招きかねない。
 それを避けるためにはグレンに訊くのが手っ取り早いだろう。

「っ、ベル……【予言】を使うつもりですか」

「ああ。もうすぐ引退する予定だが――オレは“勇者“だからな。戦うのがオレの使命だ」

 ここで最後にかっこよく強いやつ倒しといたら、良い感じの女の子と結婚できたりしないかな~しないか~。

「だめです、ベル……貴方は……」

「いいから! さっさと教えろ」

 グレンの腕を強く掴む。

 ビチビチぴちぴち跳ねてる音が耳に残って、ノイローゼになる前に吐け!!
 
 いやもう手遅れかも……これ絶対夢に出る……!!!

「嫌です」

「そんなこと言ってる場合じゃ……っ」

 また、強い衝撃。
 障壁の一番外側が崩れる。

「グレン……!」

「ベル……ごめんなさい」

 グレンが、凛々しい顔を悲痛に歪めた。目には涙が滲んでいる。

「泣くなよ……別に――」

 死ぬわけじゃないんだし、と続けようとした言葉は唇で封じられた。


 ――こんなときにまでお前……!

 そう怒りが湧いたのも束の間。


「ベルンハルトさん……貴方のお力を、お借りします」

 グレンの身体を、大きな黄金の粒――魔力が取り囲んだ。

 魔力は本来、こんなにもはっきりと目に見えるものではない。強い魔力の持ち主がスキルや魔法を行使するとき、例えばグレンの魔力なんかはほのかに見えることもあるが……。

 え、あ、これ……もしかしなくても、アレか……??

「グレ、ン……」

 グレンは混乱するオレに微笑みかけて。
 それから、モンスターに向かい、荘厳に告げる。
 

「【予言】――“在るべき姿に戻れ“!」

 
 ……予言っていうか、命令じゃない? それ……。

 グレンの命令、もとい予言によって、モンスターはたちまちただの魚へと姿を変えた。
 
 オレたちを取り囲んでいた魚たちからも不穏な魔力は消え、水の中へ返っていく。



 ◇


 
 先程までのことが嘘のように、川はもとの穏やかさを取り戻した。
 
「グレン……今のは……」

「ああ……新しいスキルが発現したみたいです」

 
 ――覚醒イベントアレってことで……いいの?

 めちゃくちゃあっさり言うからわかんなくなってきた……。いや、でもさっきの魔力の感じは明らかに異質だったし……。


「なんで急に……?」

 前触れなかったくない? なかったよね?? スイッチとかあんの???

「その……貴方を失うと思ったら、怖くて……気付いたら使ってました」

 気付いたら使ってました……ってなんだよ!
 チートスキル発現イベントなんだからもうちょっとカッコつけろ!!

「ベルンハルト――貴方が無事で、本当に良かった」

 涙声のイケメンに強く抱きしめられる。
 こういうの、お互いに服着てからにしません?


 ――「覚醒スイッチ、オレだったね」。
 ――「わからんか、愛だ、愛」。

 脳内オレと、脳内井上さん……黙ってて……。


 なんか、なんもしてないのに疲れた。
 とりあえず。


「グレン、もう一回温泉つくって」

「いや、危ないんでもう陸に上がりますけど」

 ですよねー。
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