「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

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第5章 ギルド壊滅

第41話「皇帝と勇者と利用価値について」

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 “クラウスお兄様“の協力の甲斐あって、王家の方は問題なさそうだ。
 

「これで……あとはギルドマスターの承認を受けられれば、オレは晴れて自由の身か」

 勇者の称号は確かに便利だが、この体躯に背負うには重すぎる。

「そうですね。ベル……」

 グレンはオレの手を握ると、さっきまでお兄ちゃんと呼べとか強要してきてた人とは同一人物とは思えないほど真剣で暗い声で、告げてきた。

「俺、貴方が勇者じゃなくなったら、言わないといけないことがあるんです」

「お、おお……オレも……ある」

 なにこの急なシリアスムード……あとさ、グレン。

「でも、こんな往来で言うことじゃないと思う……」

 そう。
 ここはギルドへ続く道であって、二人の世界ではないので自重が必要だ。

 現にグレンの口から出た“勇者“という言葉に――というよりかは男二人で手を握って見つめあっている異様な状況に――人目を引いてしまっている。

「忘れてました。俺の瞳には貴方しか映らないもので……」

「そっか……後で病院行こうね」

 多分頭も打ってると思うから…………。
 なんか、グレン最近ちょっとアホになってない? オレのがうつった……??
 いや、オレはアホではないんだけども! 断じて!!



 ◇◇◇



「勇者様、いい加減こいつを解放してやれ」

「……見てわからないか。どちらかと言えばオレが拘束されてる方だ」

「そういう物理的な話をしてるんじゃねぇよ!! いい加減に、グレンをあんたのお守りから解放してやれって言ってるんだ」

 わかっとるわい。
 でもさぁ、どっちにしたってグレンがそれを望んでないんだよなぁ。


 王都ギルドへ辿り着いたオレたちを待ち受けていたのは、ベルンハルトをよく思っていない連中――言ってみれば“人格者グレン・アルナイルの親衛隊“だった。

 彼らはグレンに恩義があるらしく、オレのことをそんなグレンを冷遇しこき使う高慢で嫌味なガキだと思っているらしい。

 ……というか事実か。

 オレが転生する前のベルンハルトのグレンへの態度は確かに褒められたものではない。

 自分のような弱い……飾り物の勇者に献身するグレンに劣等感を強くし、苛立ち、それを彼にぶつけていた。


 でも、グレンがそれでもベルンハルトの傍にいることを望んだ以上、外野がとやかく言うことじゃなくない?

「ラルフさん……前にも言いましたが、俺が彼の傍にいるのは、俺の意思です」

 グレンもそう考えているのか、オレを彼らの目から隠すように抱きしめながら、親衛隊の筆頭の男(ラルフと言うらしい)に言い放つ。

「お前ほどの冒険者が、そんなのにいつまで付き従うつもりなんだ。お前なら、勇者パーティーを抜けてもどこでもやっていける。なんだったらお前が――」

「俺はもとから冒険者になりたかったわけではありません。ただ、彼が勇者に選ばれたから……彼の傍にいるために、勇者パーティーに入るために、冒険者になっただけです」

「でも、グレン……っ!!」

 グレンが冷たくあしらってもラルフとその仲間たちは引かない。
 ……なに?? またこのパターンなの???
 

「ベル、すみません……オレのせいで、貴方に不愉快な思いをさせていますね」

「いや、お前のせいじゃない。……ラルフ」

 グレンの腕の隙間から顔を覗かせ、ラルフに向かって声をかける。

「あ?」

「心配しなくても、オレは今日で“勇者サマ“引退だ。その後のことをグレンに強制する気は一切ない」

 オレの言葉に、男たちがざわついた。

「引退……? あんたまだ、二十歳にもなってないだろ。先代の勇者は三十手前まで粘ってたぞ」

 嫌な言い方。ベルンハルト、こいつになんかしたのかな……。してそうだな。

「先代がどうだったかは知らないが……とにかく、オレは、ベルンハルト・ミルザムは、もう勇者も冒険者も辞める。今日はそのためにここにきたんだ。邪魔するな」

「邪魔……? はっ……なんだ勇者様。あんた、俺が誰かもわかってなかったんですね」

 ……ん?? ラルフじゃないの???

「グレン、この人なに??」

「……ベル、彼が……ラルフさんが、現在のギルドマスターなんです」

 おお……やらかしたな。
 
 てかなんでベルンハルトはそんな重要なこと知らないわけ??
 オレはお前が知らないことは知らないんだからしっかりして!!!

「ベル、大丈夫。俺がなんとかします」

「グレン……」

 頼もしい……好き……。

 グレンはオレの耳元で囁くとラルフに向き直り、口を開く。
 
「ラルフさん。俺が代わりにお詫びしますので……彼の、勇者退任を認めていただけませんか?」

 ラルフはグレンの言葉に苦々しく表情を歪めて、それから。

「……ベルンハルト・ミルザム」

 俺の名前を重々しく呼んだ。

「あんたと二人で、話がしたい」



 ◇



 ラルフと二人になることにグレンは難色を示したが、まだお守りのイヤリングもつけっぱなしだし、なんとかなるだろ……と説得して、オレはラルフと二人、向かい合っている。

 案内されたのはギルドの二階。
 ラルフの執務室だろうか。クラウスの部屋とは違い、乱雑に書類や武器が散らばっている。

 
「単刀直入に言う。あんた……グレンから離れろ」

 窓際にもたれかかったラルフはオレを見下ろして、淡々とさっきと同じセリフを吐いた。

「……グレンも言ってただろ。彼がオレの傍を離れないのは彼の意思で――」

「わかってる。だから、グレンから離れろ」

 ラルフの言葉の意味を考える。

 グレンがオレから離れるのと、オレがグレンから離れることは、どう違うというのか。

「……すまないが、よくわからない」

「なら、もう少しはっきり言おうか。――あいつの好意を利用するのは、もうやめてやれ」

 ……は?

 また、思考が固まる。
 利用……オレが、グレンの好意を……。

「グレンが……本人の意思であんたといるっていうのは、あんたを本気で好きなのは……見てりゃわかる。でも、あんたは?」

 ラルフの鋭い眼光が、オレを見据えた。

「あんたは本当に、グレンが好きなのか? ただあいつに利用価値があるから傍においているだけじゃないのか」


 好意を……利用――?

 違う。オレは、本当にグレンのことが、好きで……。

 でも、それは言葉にはならなかった。

 
 だってオレはそういう人間だった。

 現にオレの――“赤谷せきやれん“の初めての恋は、打算から始まったんだ。
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