「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

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最終章 チート小説

第45話「井上さんの話」

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 オレはベッドに横になったまま、グレンは向かい合うようにソファーに座って、井上さんはそんなオレたちの周りをちょろちょろ動き回っている。

 そんな中、質疑応答は始まった。

 
「はい」

「はいどうぞ、ベルンハルトくん」

 とは言っても質問するのはオレだけなんですけどね。なにせこの部屋にいるのは、オレと……魔王と、皇帝だ。

 え、怖。世界征服できるじゃん(?)。

 
「一つ目の質問。オレの魂を“空の器“に転生させた、っていうのは……?」

 答えたのは井上さんだ。

「ああ、本来の“赤谷蓮“は、母体が脆弱だったこともあって死産になるはずだったの。私はそれを蓮くんのお母さんに伝えて……代わりに、“ベルンハルトくんを貴女の子供にしてくれませんか?“って交渉しに行きました」

「……それで、了承してくれたわけ??」

「それはもう快く」

 うん、容易に想像できる。あの人お母さんはそういう人だ。
 

「え~……二つ目。オレをこの……《三周目》の世界に転生させる準備っていうのは……??」

 これにも井上さんが答えた。

「私はスキルを二つ持っていて、一つは君も知っている【知恵プルーデンス】」
 
 ああ、あの『◯◯しないと出られない部屋』つくるやつね。

「もう一つは【後悔パエニテンティア】。時間を巻き戻すスキル……なんだけど、発動までに長い時間がかかるんだよねぇ。かつ、さすがに何年も戻すとかは無理でさぁ……せいぜい一年が限度だね」

 時間を巻き戻す。すごいな……さすが魔王。
 
「だからとりあえず、君の魂がどっかに行っちゃわないように仮の器に留めておく必要があって、グレンくんの力で“赤谷蓮“に転生させたわけです」
 
「……なんで、その……“追放前夜“を選んだの?」

 ベルンハルトの死を、一人で雪の草原に行くのを回避するためなら、もう少し前まで時間を巻き戻したほうが色々どうにかなったんじゃないのかな。

「それは……グレンくんが答えるべきかな。ね」

 井上さんの肉球に肩をポンと叩かれて、グレンは不快そうに顔を歪めている。
 お前、仮にもその人魔王だよ?? もうちょっと怖がんなくていいの……??

「……俺を追放した貴方の本心が、知りたかったんです。貴方が本当に俺のことが目障りで、消えて欲しいと思っていたのか……それとも、別の理由があるのか、知りたかった」

「グレン……」

「まあ……正直、蓮の書いた『物語』を読んだので、概ねわかってはいたんですけど。改めて聞きたくて」

 ああそうだね。お前はそういうやつだよ……!!!

「え、あ……てかあれか、グレンが叔父さんってことは……そうだよな。読んだんだよな……」

 わーわー!! そうじゃん……!!!!
 この二人、オレの『追放皇帝黒歴史』を全部知ってるんだ……!!!

「あ、ベル。でも俺は……その、“ベルンハルト“が死ぬところまでしか読んでません。あそこで心折れたので」

「私は全部読んだよ。だからちゃんと、赤谷くんがお望みのスピカちゃんに成り切りました!! なのにのじゃロリ下手とかひどくない!!??」

 ちょっとしばらくほっといてほしい……。むり、しんどい。

「でも、そうか……なんでこんなに『物語』とこの世界がリンクしてるんだろ、って思ってたけど……大筋を考えてくれたのは叔父さん……グレンだもんな」

 そりゃ、だいたい合ってる感じになるか。

「あー……ベル。自分で言い出しておいてなんなんですが、おじさんって呼ぶのやめてください」

「ああ、そうだね……」



 ◇



 オレの心が立ち直ったところで……三つ目の質問。

「今更だけど……オレが本物のベルンハルト、ってことでいいんでしょうか……??」

「そうですよ。記憶は一部消えていますが、間違いなく貴方がベルンハルト・ミルザムです。俺の唯一無二の人です」

 そっか……。
 じゃあオレが色々悩んでた時間は無駄だったんですね。教えろよ!!!!

「だから言ったじゃん。NTR寝取りについてずっと悩むのやめよって」

「いや、仕方なくないですか……だってオレ、《一周目》の記憶ないし……」

 そうだよ。

「え、オレの記憶ってなんで消えてんの?! いや、大体は残ってるけどさ……なんか、細部が色々曖昧なんだけど……!!」

 オレの質問、というよりかは叫びに、グレンが目を逸らしながら答える。

「……ごめんなさい。俺が貴方に忘却の魔法をかけました。“ベルンハルト・ミルザムが忘れたいと願う記憶は彼が望むまで思い出さない“……そういう条件で」

 忘れたい記憶……。
 情報ばかりで感情を覚えてなかったのは、それが全部、オレが忘れたかったことだからってこと?

「じゃあ眠るたびに少しずつ思い出したのは……オレが、“ベルンハルト“のことを知りたいと思ったから?」

「ええ、おそらく。なので……貴方が望めば残りの記憶もこれから思い出せるはずです」


 そうなればオレは、本当にベルンハルトになれる――いや、戻れるってことかな。

 ……ろくでもない記憶多そう~! やだーー!!

 だって、転生前……《一周目》のオレが手放すのを望んだ記憶でしょ……?? やなことしかないんじゃない??!!


 いや……いずれは取り戻す。取り戻すけど……。

 心の準備ができてからにしよ。
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