「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

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最終章 チート小説

第46話「ベルンハルトの話」

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 ……いまこそ状況整理だ。
 オレは頭の中にノートを用意して、二人から聞いた話をまとめた。


 《一周目》。
 オレはグレンを追放した後に一人で死ぬ。
 グレンはオレを生き返らせるために魔王の力を借りる。

 《二周目》。
 オレは赤谷蓮に転生(死んだオレの魂を一時的に赤谷蓮の身体に避難させた)。
 グレンは叔父さん、魔王は井上さんとしてオレを見守る。

 《三周目》。←イマココ
 魔王のスキルで時間をオレが死ぬ前まで巻き戻し、オレの魂を元の身体(ベルンハルト・ミルザムの肉体)に転生(?)させる。
 グレンと魔王は一、二周目の記憶・スキルなどを引き継いでいる。
 オレには一周目の記憶が断片的にしかない。


 『追放皇帝』。
 グレン=叔父さんの監修で作ったから、この世界と酷似している。そのせいでオレは自分が『物語』の世界に転生したんだと思い込んでいた。


 ――だいたいこんな感じか……。


「どう? 知りたいことはそれで全部かな」

「うん……まあ」

「なんか歯切れ悪いねぇ。いいよ? まだあるならなんでも訊いて。お姉さんなんでも答えてあげる」

 同い年だろ、と言いかけて思い留まる。
 そうか……井上さん、魔王だから年上だよな。お姉さんどころの騒ぎじゃねぇわ。

「ちょっとなに失礼なこと考えてんの。そりゃ、私はおばあちゃんだけどね」

「あ~もう、いちいち心読まないで……あのさぁ、どうでもいいけど、なんで二人は……ああいう趣味を持つに至ったわけ?」

 勢いで、訊かなくてもいいことを口に出した。
 ほんっとオレって衝動的!!!

「ああいうとは?」

「いや、叔父さ……グレンは“追放もの“が好きで、井上さんはBLが好きでしょ。なんでそんなことになったのかな~って……」

 二人(正確には一人と一匹)は顔を見合わせる。

「あ……答えにくいやつだったら、いいです」

 魔王と皇帝だしなんか深いお考えがあるのかもしれないもんね。あるんだよね、とオレが遠慮すると、グレンは首を振った。

「いえ……ベル。話します。もう貴方に隠し事はなに一つしたくありませんから」


 そうしてグレンは二人の出会いの話を――オレの死に絶望して世界を滅ぼそうとしたグレンを魔王が止めた、《一周目》の話を始めた。



 ◆◆◆



 さっきも言った通り、魔王と同じ魔法を使って世界を滅ぼそうとした俺を止めたのはそこのクソ猫……いいえ、“魔王“です。

 
 ――やめておけ。そんなことをしても、その子は帰ってこない。

 ――私もかつて、大事な者を失いお前と同じことをしようとした。そして、“魔王“と呼ばれ、封印された。


 そう俺に告げた魔王は、その後こう続けました。


 ――協力するぞ。皇帝よ。

 ――私のスキルで、時を巻き戻してやる。だが、それには時間がかかる。それまでその子の魂を……異世界へ送ろう。そして、スキルの発動まで、その子を見守ろう。

 ――その間に……そうだな。お前たちが幸せになれる道を探るべきだろう。



 ◆◆◆



「で、見守っている間に俺たちはそれぞれ、貴方を幸せにするために“追放もの“と“ボーイズラブ“の勉強をすることにしました」

 そこには繋がんなくない???!!!

 
「このクソ猫が言い出したんですよ。――お前は彼の気持ちを理解することに集中せよ。私はお前らが上手くまぐわう為の方法を勉強しておこう……とかなんとか」

 は、はぁ……どうりで“叔父さん“の蔵書ラインナップが偏ってたわけだ。
 あれはオレの……“無能勇者“の心情を理解するためのお勉強だったってことか。井上さんがBLを読み漁ってたのも……それなら納得――。

「え、オレにBL読ませる意味ってある??」

 いやできねぇわ。

「ある。だってベルンハルトくんさぁ……暗いんだもん。ハピエンBLいっぱい読んだら少しは明るくなるかな~って思ったんだよ」

 うっ……前半がぐさっときた。
 自覚はしてる、してるけど……!!!

 
「……君はさ、“理想“としてあの世界を……『追放皇帝』を書いたんでしょう?」

「ああそうだよ……叔父さんを、理想の男をモデルにした主人公と、理想の女の子愛莉ちゃんをモデルにしたヒロイン! オレの欲望詰め合わせ!!! でもそれのなにが悪い。貴方だってさっき……夢?の中で、言ってたでしょう。望みを口にしろって……」

 ヤケクソになって叫ぶ。

 “主人公“の中身のモデルは自分だなんて強がってはいたけれど、本当は“主人公“にオレの要素なんて微塵もない。

 ただ理想を描いただけ。
 見た目もオレの理想たる叔父さんがモデル。だから結局は叔父さん――いや、グレンそのものになった。
 
 だって“オレ“には初めから主人公の資格なんてないから。


 井上さんは痛々しいものを見る目でオレをみて、静かに告げてくる。

 
「――君が望んだ世界は……全然、理想なんかじゃないよ。ベルンハルトくん。君は、ベルンハルトを痛めつける物語を紡いだ。君自身では、君のハッピーエンドを望めなかった」


 ベルンハルトの、オレの……ハッピーエンド……?

「そんな……始めから存在しないものを、どうやって望めって言うんだ」

 無能勇者にハッピーエンドはない。
 オレは主人公のような世界に望まれる存在ではなくて、誰かに愛される存在ではなくて。

 最後は一人で……。


「はっ……あ、ぐ」

 息が詰まる。
 
「ベル……」

 グレンの手が、オレの頬を撫でる。
 井上さんの肉球も、オレの髪を撫でた。

「……君がハピエンBLにはまれば……ベルンハルトが幸せになるような物語を書けるように、君自身の幸せを望めるようになるんじゃないかって。私はそう考えて君を腐らせようとしたんだ。そのために物語をグレン×ベルンハルトに誘導しようとした。……上手くいかなかったけどね」

 いい事言ってる風で全然言ってないなこの魔王……。


「……ちょっと休ませてもらっていいですか」

 とりあえず一回寝よ。
 
 オレがベルンハルトで叔父さんがグレンで井上さんが魔王で……うん。理解に時間がかかりそうだから寝て整理しよう。夢は記憶の整理だから……。
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