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〈フレデリック/しろさん編〉
第三話『新しいすがた、新しい名前』 1
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『そこでレンはなやんだ。
元の名前で呼ぶなと言うのなら、新たな名前を考えねばならない。』
**************************************
レンとフリーナ、フレディの心配をよそに、白いフラップはニカニカしながら、
わしたちを自分のペースにぐいぐいと引きこんでいった。
「――オレはフラップであって、フラップじゃない。新しいドラギィなんだぜ。
だから、もうオレをフラップって呼ぶなよな。
オレはあいつと違って、ひよっこドラギィじゃないからな」
このように、まるで自分が完璧な別モノであるかのように語るのだ。
『ガッチュリン022』は、飲んだものの人格を一時的に上書きするもの。
自分がまったく別のだれかだと言えるようには、ならないはずだった。
ブリーチは、なんとも落ちつきのないやつだった。
あっちへこっちへ、好き勝手に飛びまわっては、天井の丸い照明に張りついたり、
カベのボードに貼られた世界地図の上を横向きでドカドカ歩いたり、
レンの背中に飛びついてポカポカと軽いパンチを食らわせたり。
フラップとは大違いで、じっとしているのが苦手なやつなのだ。
「この子、背中は白いけどさ」レンが机のイスに座ったまま言った。
「フラップに変わりないんだよねえ。うーん、どうしよう」
「まったくだ。ややこしいことになったよ」
フレディが両手を組んで、ふんっと鼻息を荒げた。
そんなフレディに、白いフラップはいけしゃあしゃあと話しかけた。
「よう、相棒! そう目くじらを立てないでくれよ。
細かいことはぬきにしてさぁ、なかよくやろうぜ。なぁ?」
「おいおい、だれがいつ相棒になったんだ。
それに、フラップとはまったく別モノだって言いはるなら、
どうしてぼくを相棒なんて呼ぶんだよ? 生まれて間もないはずなのに」
「それは……あーもう、なんだっていいじゃんか!
とにかく、オレはまったく新しいドラギィなんだ。
これ以上、面倒くさいことぬかしたら、ショーチしないからな!」
次の瞬間、わしらはまたもおどろかされた。
プンスカと怒った白いフラップが、全身に力をこめたその時、
白かったはずの背中の毛が、毛根から真っ赤に変色しはじめたのだ。
いつものピンクっぽい赤とはすこし違う。燃え上がる炎のような赤だ。
「見てろ。オレ様があいつと違うってことを、証明してやる!」
すると彼は、むくむくっと子犬サイズの大きさにふくれあがると、
その場からびゅうっと飛び立ち、
まだ鍵のかかっていなかった出窓を開け放って、すずやかな夜に飛びだした。
そして、まっすぐに真上を見上げたとたん、
大きく開いた口から、すさまじい勢いの炎を吹き上げたのだ。
その炎は、いつもより数倍も大きな火柱だった。
こうこうとまばゆいオレンジの光は、
はなれた位置でも肌が焼けつくようだ。
「こーらーっ!!」
レンは面食らって、うっかり大声をだしたようだ。
フレディすばやく動いて、白いフラップのもとへ飛び、
むくっと体を少し大きくさせてから、フラップをぎゅうっとはがいじめにした。
「――へへ、悪い。ついつい熱くなっちゃったぜ」
――フレディの注意をうけた白いフラップは、
そういって反省の色を見せてはいた
(彼の今の行動は、幸いにもほかの人間に気づかれた形跡はなかった)。
フリーナは、フラップが急にレッド種として、
一人前と呼べるような火炎放射をかいま見せたことに、
不思議がりつつも感激していた。長いしっぽを子犬のように横ぶりさせて。
「今の炎、すごかったヨ! すっかり見違えちゃった。
どうして急にあんなの吹けるようになったノ? なんで、なんで?」
「ふふん。何度も言ってるだろ~? オレはフラップなんかとは違うって」
と、白いフラップはにくらしいほど得意げだった。
「これからは、オレがフラップのかわりになってやる。
もっともっと修行して、強くなるんだ。
そうすればフリーナ、フレディ――お前らを守ってやれる!」
「守る、ねえ……」フレディは、どこか面白くない顔をしていた。
「まともなことを言って、どうせぼくらの気を引こうって魂胆なんだろ。
でもまあ、それはともかく、その人格のままこの部屋に居続ける気なら、
ちゃんとその口で許可をとりたまえよ。フラップとは違うドラギィなんだろ?」
「いや、そういうのなくても、べつにいいんだけどさ」
と、レンはさらりと言ってのけていた。
すると、白いフラップがニヤニヤして、こんなことを言い出した。
「おう。心づかい、ありがとうよ。
もっとも、お前が許可しなくても、オレはここに居座るつもりだったけどなー。
オレ、お前みたいなチンチクリンとなかよくするつもり、これっぽちもないから」
「チンチク……はぁ!?」
レンの表情が、突如としてグチャグチャになった。
思いもよらない言葉に、カチンときたようだ。
「それによう、人間なんてよわっちい生き物、オレは好きじゃないからな。
火も吹けなければ、雷も落とせない。手から水鉄砲もだせない。
しかも、りっぱな羽もついてないから、こーんなふうに空も飛べないしなー!」
白いフラップは、再び部屋の天井近くへと飛び上がった。
ゆったりと、プールの水面をただようかのように、あおむけのポーズで。
「さっき、アレコレちょっかい出してやったのも、そのためさ~」
「――あのねえ」
レンは低く威圧するような声で、こう言った。
「オレは、いっこくも早く元のフラップに戻ってきてほしいだけ!
今のキミを外に追いだしたりしたら、さっきみたいなこともあるし、
すぐヘマをやらかして人間に見つかる。そんで自衛隊につかまるんだ。
そうならないためにも仕方なく、キミを部屋にかくまいたいわけ!
キミだって、今からべつの住みかを探すのがめんどくさいだけなんだろ。
どうなのさ、フラ――フラ――えーっと、なんて呼べばいいわけ?」
そこでレンはなやんだ。
元の名前で呼ぶなと言うのなら、新たな名前を考えねばならない。
そのまんま、『白フラップ』と呼ぶわけにもいかないだろう。
むろん、『モッツァレラ太郎』という名前もNGだ。
「わしに、いい名前がうかんだのだが?」
一同そろって、こちらを見つめてきた。
「こいつは元の色がぬけて、白色へときれいさっぱり脱色した。
であれば、〈ブリーチ〉という名前はどうじゃ?」
「「「ブリーチ?」」」
「それって、どういう意味?」と、レンがたずねてきた。
「〈漂白する〉という意味じゃ。
ほれ、この家にもあるじゃろ。白い服のよごれをきれいに落とす洗剤が。
あれも英語で、ブリーチというのじゃ。まあ、このフラップは、
むしろ薬という剤で白くさせられた方じゃが、細かいことはぬきにしよう。
どうじゃ、名前としてはかっこいいひびきじゃと思うがのう」
われながらいい名前を考案したな。わしはドヤ顔で腕を組んだ。
レンとフリーナ、フレディは、受け入れたくないと言いたげに顔をしかめたが、
白いフラップだけはべつだった。
「ブリーチ――ブリーチ――ブリーチ――」
新たにつけられた名を、じっくりと反すうしながら、
そのひびきをかみしめ、吟味しているように見えた。
「うんうん、いかした名前じゃんか! いいねえ、いただきだ。
これからオレのことは、ブリーチって呼んでくれ!
いいか、ブリーチだぞ。よろしくな、お前たち」
――だれも一声も発さなかったが、そのささやかな静けさの中、
レン、フリーナ、フレディの「え~~~」という困惑の声が、
わしの耳の奥にとどいたような気がした。
元の名前で呼ぶなと言うのなら、新たな名前を考えねばならない。』
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レンとフリーナ、フレディの心配をよそに、白いフラップはニカニカしながら、
わしたちを自分のペースにぐいぐいと引きこんでいった。
「――オレはフラップであって、フラップじゃない。新しいドラギィなんだぜ。
だから、もうオレをフラップって呼ぶなよな。
オレはあいつと違って、ひよっこドラギィじゃないからな」
このように、まるで自分が完璧な別モノであるかのように語るのだ。
『ガッチュリン022』は、飲んだものの人格を一時的に上書きするもの。
自分がまったく別のだれかだと言えるようには、ならないはずだった。
ブリーチは、なんとも落ちつきのないやつだった。
あっちへこっちへ、好き勝手に飛びまわっては、天井の丸い照明に張りついたり、
カベのボードに貼られた世界地図の上を横向きでドカドカ歩いたり、
レンの背中に飛びついてポカポカと軽いパンチを食らわせたり。
フラップとは大違いで、じっとしているのが苦手なやつなのだ。
「この子、背中は白いけどさ」レンが机のイスに座ったまま言った。
「フラップに変わりないんだよねえ。うーん、どうしよう」
「まったくだ。ややこしいことになったよ」
フレディが両手を組んで、ふんっと鼻息を荒げた。
そんなフレディに、白いフラップはいけしゃあしゃあと話しかけた。
「よう、相棒! そう目くじらを立てないでくれよ。
細かいことはぬきにしてさぁ、なかよくやろうぜ。なぁ?」
「おいおい、だれがいつ相棒になったんだ。
それに、フラップとはまったく別モノだって言いはるなら、
どうしてぼくを相棒なんて呼ぶんだよ? 生まれて間もないはずなのに」
「それは……あーもう、なんだっていいじゃんか!
とにかく、オレはまったく新しいドラギィなんだ。
これ以上、面倒くさいことぬかしたら、ショーチしないからな!」
次の瞬間、わしらはまたもおどろかされた。
プンスカと怒った白いフラップが、全身に力をこめたその時、
白かったはずの背中の毛が、毛根から真っ赤に変色しはじめたのだ。
いつものピンクっぽい赤とはすこし違う。燃え上がる炎のような赤だ。
「見てろ。オレ様があいつと違うってことを、証明してやる!」
すると彼は、むくむくっと子犬サイズの大きさにふくれあがると、
その場からびゅうっと飛び立ち、
まだ鍵のかかっていなかった出窓を開け放って、すずやかな夜に飛びだした。
そして、まっすぐに真上を見上げたとたん、
大きく開いた口から、すさまじい勢いの炎を吹き上げたのだ。
その炎は、いつもより数倍も大きな火柱だった。
こうこうとまばゆいオレンジの光は、
はなれた位置でも肌が焼けつくようだ。
「こーらーっ!!」
レンは面食らって、うっかり大声をだしたようだ。
フレディすばやく動いて、白いフラップのもとへ飛び、
むくっと体を少し大きくさせてから、フラップをぎゅうっとはがいじめにした。
「――へへ、悪い。ついつい熱くなっちゃったぜ」
――フレディの注意をうけた白いフラップは、
そういって反省の色を見せてはいた
(彼の今の行動は、幸いにもほかの人間に気づかれた形跡はなかった)。
フリーナは、フラップが急にレッド種として、
一人前と呼べるような火炎放射をかいま見せたことに、
不思議がりつつも感激していた。長いしっぽを子犬のように横ぶりさせて。
「今の炎、すごかったヨ! すっかり見違えちゃった。
どうして急にあんなの吹けるようになったノ? なんで、なんで?」
「ふふん。何度も言ってるだろ~? オレはフラップなんかとは違うって」
と、白いフラップはにくらしいほど得意げだった。
「これからは、オレがフラップのかわりになってやる。
もっともっと修行して、強くなるんだ。
そうすればフリーナ、フレディ――お前らを守ってやれる!」
「守る、ねえ……」フレディは、どこか面白くない顔をしていた。
「まともなことを言って、どうせぼくらの気を引こうって魂胆なんだろ。
でもまあ、それはともかく、その人格のままこの部屋に居続ける気なら、
ちゃんとその口で許可をとりたまえよ。フラップとは違うドラギィなんだろ?」
「いや、そういうのなくても、べつにいいんだけどさ」
と、レンはさらりと言ってのけていた。
すると、白いフラップがニヤニヤして、こんなことを言い出した。
「おう。心づかい、ありがとうよ。
もっとも、お前が許可しなくても、オレはここに居座るつもりだったけどなー。
オレ、お前みたいなチンチクリンとなかよくするつもり、これっぽちもないから」
「チンチク……はぁ!?」
レンの表情が、突如としてグチャグチャになった。
思いもよらない言葉に、カチンときたようだ。
「それによう、人間なんてよわっちい生き物、オレは好きじゃないからな。
火も吹けなければ、雷も落とせない。手から水鉄砲もだせない。
しかも、りっぱな羽もついてないから、こーんなふうに空も飛べないしなー!」
白いフラップは、再び部屋の天井近くへと飛び上がった。
ゆったりと、プールの水面をただようかのように、あおむけのポーズで。
「さっき、アレコレちょっかい出してやったのも、そのためさ~」
「――あのねえ」
レンは低く威圧するような声で、こう言った。
「オレは、いっこくも早く元のフラップに戻ってきてほしいだけ!
今のキミを外に追いだしたりしたら、さっきみたいなこともあるし、
すぐヘマをやらかして人間に見つかる。そんで自衛隊につかまるんだ。
そうならないためにも仕方なく、キミを部屋にかくまいたいわけ!
キミだって、今からべつの住みかを探すのがめんどくさいだけなんだろ。
どうなのさ、フラ――フラ――えーっと、なんて呼べばいいわけ?」
そこでレンはなやんだ。
元の名前で呼ぶなと言うのなら、新たな名前を考えねばならない。
そのまんま、『白フラップ』と呼ぶわけにもいかないだろう。
むろん、『モッツァレラ太郎』という名前もNGだ。
「わしに、いい名前がうかんだのだが?」
一同そろって、こちらを見つめてきた。
「こいつは元の色がぬけて、白色へときれいさっぱり脱色した。
であれば、〈ブリーチ〉という名前はどうじゃ?」
「「「ブリーチ?」」」
「それって、どういう意味?」と、レンがたずねてきた。
「〈漂白する〉という意味じゃ。
ほれ、この家にもあるじゃろ。白い服のよごれをきれいに落とす洗剤が。
あれも英語で、ブリーチというのじゃ。まあ、このフラップは、
むしろ薬という剤で白くさせられた方じゃが、細かいことはぬきにしよう。
どうじゃ、名前としてはかっこいいひびきじゃと思うがのう」
われながらいい名前を考案したな。わしはドヤ顔で腕を組んだ。
レンとフリーナ、フレディは、受け入れたくないと言いたげに顔をしかめたが、
白いフラップだけはべつだった。
「ブリーチ――ブリーチ――ブリーチ――」
新たにつけられた名を、じっくりと反すうしながら、
そのひびきをかみしめ、吟味しているように見えた。
「うんうん、いかした名前じゃんか! いいねえ、いただきだ。
これからオレのことは、ブリーチって呼んでくれ!
いいか、ブリーチだぞ。よろしくな、お前たち」
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