DRAGGY!ードラギィ!ー【フラップ編(リライト)2/18連載開始!】

Sirocos(シロコス)

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〈フラップ編〉

第一話『空から夢がふってきた』 1

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         『だれにでも想像そうぞうがつく物語ものがたりのはじまり。
          でも、それがゆめ魔法まほうのトビラなのだ。』

**************************************

 ほかのどこにもないような、面白おもしろいものと出会いたい――

 そのあさ、小学四年生の坂本レンは、教室きょうしつの入り口をくぐり、
窓際まどぎわにある自分のつくえすわるなり、こころでボヤキながらほおづえをついた。

 なんでもいい。ゲームでも、マンガでも、アニメでも動画どうがでもなく、
運動うんどうはちょっと遠慮えんりょするとして)体じゅうの血液けつえき逆流ぎゃくりゅうするような、
自分だけの素晴すばららしい出会いをしたい。
いま、夢中になって読んでいる、児童じどうむけのネット小説しょうせつのせいで、
最近どうしようもなくそういうキモチにさせられる。もう、ハマりすぎてやばい。

 ある日、ふるしろの中でさびしく一人暮ひとりぐらしをしていた少年が、
はるか空の上からつばさにケガをって落ちてきた、大きなりゅうと出会う。
はじめのうち、ふたりはちがいすぎる力のせいで、ずっといがみっていたけれど、
おたがいのやさしさに気づいて強くひかれあい、
やがてふたりは、ともに城の中で暮らしはじめる。
そんな冒頭部分ぼうとうぶぶんだけで心がわしづかみにされるほど、
夢とロマンあふれるストーリーなのだ。――どこかでいたような話だけれど。

「レーンー! なあなあ、今日おれんち来ない?」

 もうダッシュでレンの机にやってきたのは、一年生からの親友、市原ジュン
彼は小説よりもゲームが大好きで、いつもにぎやかなやつだ。

「おれさー、マイクラ(マインクライム)で新しいトロッココース作ったんだよね。
これがめちゃめちゃ自信作じしんさくでさ! タクも、ウチくるってさ。なあ、レンもー!」

 レンは、ぽわっとした気分のまま、ジュンにこうかえした。

「あー、ごめん。ぼくさあ、今日も帰って読みものしたいから。
今すごくいいとこなんだよね」

「またかよぅ」ジュンはガックリとかたを落とした。

「あの小説だろ? なんか最近のレン、ずっとそーだよなあ。
おれさあ、小説って基本きほん読まないから分かんないけど、
ドラゴンだったらゲームとかアニメで楽しめばいいじゃんさー」

 そこへ、もう一人の男子が歩いてやってきて、
「小説だからいいんだよ」と口をはさんだ。浜田大駆タクだ。

「小説だったら、自分のペースで楽しめるし、
キャラクターの様子ようすとかを自由に想像そうぞうできるじゃない?
あの小説には挿絵さしえがないから、ますます想像がふくらむっていうか」

 ちょっとおなかがふっくらしている、クラスのマスコットてきな男子。
こいつは話の分かるやつだ。なぜって、クラスでもかなり頭がいいのだから。

「そっか、タクも読んでるんだったね」と、レンは言った。

「ま、親友のぼくからいわせてもらうけど」

 タクは、気どったようにうでんで、
丸いおなかをポコンとふくらませながらこう言った。

「そろそろぼくたちとのつきあいも、かんがえてくれるとうれしいんだよね。
ただでさえ、レンは一人になる時が多いんだから」

「そーだぞお!」ジュンがふかくうなずく。
新発売しんはつばいのレーシングゲームもやっとえたんだぜー。
早くいっしょにやろーよ」

「あー、うん。まあ、そのうちね」

 レンは、テキトーな調子ちょうしでそう返した。
ああ、そんなことより、竜の背中せなかに乗りたい。
背中に乗って、あの空のむこうまで行ってみたい――こうも気分がぼやけるのも、
昨日の夜、れいのネット小説を夜おそくまで読んでいたせいだろう。


 だから、朝のホームルームの時、担任たんにんの先生から、

「みなさん、スケッチの宿題しゅくだいはすすんでいますか?
提出ていしゅつ来週らいしゅうの月曜までですから、わすれないようにね~」

 と、きれいな明るい笑顔えがおでそう言われた時、レンは突然とつぜん
背中にや水をぶっかけられたように、危機感ききかんをつのらせるハメになったのだ。

(まだそれ、手つけてない。すっかりわすれてた!)

 そのスケッチの宿題は、先週の月曜日から出されていたもので、
今日は期限きげんの三日前、つまり金曜日。終わりがひたひたとしのびよっている。

(もういい加減かげんりかかるしかないな、コレ)

 スケッチのテーマは、身近みぢかにある植物しょくぶつ。木でも花でもなんでもいい。
難しいテーマではないけれど、レンにとってはシリもちをつくような障壁しょうへきだ。
文字を読むのは得意とくいなのに、絵をくのはからっきしダメなのだ。

(それでもやらざるは、男のはじ――ていうか、シブいなあ、ぼく)

 *

 土曜日の午後ごご――レンはスケッチブックを手さげバッグに入れて、
町はずれの林のおくにあるおか自転車じてんしゃばした。
その丘は、自分のむ町が一望いちぼうできる穴場あなばスポットで、
開けた場所に一本だけ背の高いスギの木が立っていた。
めったに人の来ない場所だし、集中しゅうちゅうしてスケッチするなら、
その木が一番だと考えたのだ。

(ま、描くのも簡単かんたんだろうしね)

 自転車を林の前にとめ、人気ひとけのない林の小道をぬけると、
その杉の木は立っていた。むかしからわらない、お気に入りの場所。

 しかし、いざ草の上に座ってスケッチボードを足の上におくと、
気分がめいってきた。ただ絵を描くのがヘタならまだましだ。
一番の障害しょうがいは、こういう地道じみち作業さぎょうはどうにも集中力が途切とぎれがちになることだ。
いくらほかに人のいないしずかな場所でも、ニガテなことを前にすると、
頭がはてしない〈思考しこう〉という名のあまい世界へとげこんでしまう。

 あの杉の下には何があるんだろう? モグラたちの巣穴すあなでもあるんだろうか。
あのくもの中に、じつは秘密ひみつしまがうかんでいるのではないだろうか。
竜のうろこってどんな感触かんしょくなんだろう?
最近さいきんは、うろこのないモフモフな竜も登場とうじょうしてるけれど。
さっき散歩さんぽしてたゴールデンレトリーバー、がふわふわでおしゃれだったなあ。

(ダメだぁ! いらないことが次々と頭に――集中しゅうちゅうできない!)

 レンは、草の上に鉛筆えんぴつとスケッチブックをポイッと投げ出し、
青空にむかって大の字に寝転ねころがった。

 こんなんじゃダメだ。もっとちゃんとした男になりたい。
そうだ。一度でもいいから、竜のような大きな背中せなかに乗って、
あの雲のむこうまで飛んでいくことができたら。

 そんな夢のような体験たいけんができたなら、今よりもっとがんばる男になれるのに。




 ――運命的うんめいてきな出会いとは、こんな時、突如とつじょとして空からやってくるものだ。
だれにでも想像そうぞうがつく物語ものがたりのはじまり。でも、それがゆめ魔法まほうのトビラなのだ。




 最初さいしょ、レンのひとみには、さおな空の天井てんじょうから、
緑色の丸いものが、ポコっと生えてくるように見えた。
しかし、それは見る間に大きくふくれ上がり、いやに迫力はくりょくをともなって、
レンのもとへぐんぐんと落下らっかしてきたのだ。

「えっ、えっ……はあぁっ!?」

 レンは大急おおいそぎできあがり、その場から一目散いちもくさんにはなれようとした。
けれど、ほんの数歩すうほのところで足がもつれ、どてっと草の上につっぷしてしまった。



 ドォォォォ―――ッ!



 緑色みどりいろが、地面にぶつかってすさまじい爆音ばくおんをあげた――
というわけじゃなかった。これは、まっている――?

 レンは、これまであじわったことのない強い突風とっぷうを背中にあびながら、
地面じめんに手をついたまま、そっと後ろをふり返ってみた。

(あれは……えっ、ボール? でっかいボールだし……!)

 緑色の透明とうめい球体きゅうたいが、小さな竜巻たつまきのような風のまくをつくって、
地面じめんすれすれでピタリとうかんでいる。
そのボールの中に、見たことのない生き物のシルエットがうかんでいた。
背中せなかに羽が生えていて、頭には二本の角が見える。
ねむっているのか、じっとあおむけのままうごこうとしない。

「ななな、なんだよう……!」


 やがて球体が、カーッと白くかがやきだしたために、
レンは目を開けていられなくなった。


 ――数秒後すうぎょうご、まばゆさがまぶたのむこうから消えさった。


 レンはおそるおそる目を開いて、目の前にうつる光景こうけいを見た。


「ウソだ……えっ、そんなまさか」




 りゅうだ。目の前に、大熊おおぐまみたいな竜がいる。あおむけになって、気をうしなっている。
 

 レンは、ゆっくりと立ち上がって、その生き物に近づいた。
ほそい腕に、がっしりとした両脚りょうあし。ツメもちゃんとある。どう見ても竜そのものだ。
でも、ふつうの竜とはあるところが大きくちがう。

 全身がいぬのようなモフモフの毛につつまれているのだ。色もおかしい。
背中が赤で、おなかが白。丸みをおびた大きな耳。つきでた口も犬そっくりだ。
ふとくてしなやかな長いしっぽの先には、ヤギのヒゲのような白いふさ
おまけに、両手のひらにはピンク色のやわらかそうな肉球にくきゅうまで。


 竜なのか、犬なのか、わけの分からない姿すがたの生き物だ。

 おどろきが、とまどいが、感動かんどうが、あきれが、こわさが、そしていとおしさが、
すべてごちゃまぜになって、レンのむねの中をはげしくけめぐった。

「ぼくはっ……ぼくってやつはっ……!」



 この日、坂本レン少年は、ふしぎな生物せいぶつとの出会いを、ひとりじめにした。

 
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