DRAGGY!ードラギィ!ー【フラップ編(リライト)2/18連載開始!】

Sirocos(シロコス)

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〈フレデリック/しろさん編〉

第六話 4

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          『「思い出って、すごいですよね。
        というわけで――体、返してもらいますよ」』

**************************************

 ――ここから話す場面ばめん内容ないようを、
わしがいつどこで見聞きしたかは、このさい詮索せんさくしないでほしい。
カメラでさえせまることのできなかった、事実じじつかどうかも分からない一幕いちまく
わしの勝手かって想像そうぞうだと思ってもらってもかまわないし、
なんなら本当にきた出来事できごとだとけとってしまってもいい。

 とにかく、その時ブリーチの体の中では、
それほどにおどろくべきことが発生はっせいしていたのだ。


 精神世界せいしんせかい――といっても、はたして納得なっとくしてもらえるだろうか?
人間のみならず、すべてのあらゆる生き物の心の中には、
わしの科学力かがくりょくをもってしても解明かいめいできない小宇宙しょううちゅう存在そんざいするのだ。
そこには、本人でも決められたきっかけでおとずれることができる。

 たとえば、そう――ねむりだ。
生き物は眠ると、ゆめを見るのはごぞんじだろうが、精神世界とは大きくちがう。
精神世界は、夢とはまたべつで、「現実世界げんじつせかいではない」と自覚じかくできるのが特徴とくちょうだ。


 つまるところ、ブリーチはおのれの精神世界をおとずれていたのである。

 ブリーチは、くらてんもない空間くうかんで、
ひとりぼんやりとちゅうをただよっていた。

「ふわぁ~……ここは、夢かな」

 ボリボリ――眠気ねむけでかゆくなった頭のうらをツメでかきながら、
上下左右をざっと見わたしてみる。
手でれられそうなものも一切いっさいない、真っ暗闇の世界なのに、
自分の姿だけはハッキリとらされたようによく見える。

「こーんなところ、はじめて来たな。どうやって? ――ブフッ、わかんね」

 ブリーチは、さっそくお手上げといった具合ぐあいに、
両手を頭の後ろにやって、のんびりとあおむけになった。
なんだかここは温かくて、居心地いごこちがとてもいい。
まるで、見えない大きな生き物のむねにだかれているかのよう――
彼の表情ひょうじょうがとろんとしているのは、そんなことを考えているせいかもしれない。

「おーい。オレをこんなところに連れてきたやつー。
オレの肉球にくきゅうが赤いうちに名乗りでろ~。さもないと、あとでヒドイからな~」

 ブリーチは、もう一度大きなあくびをした。
犯人への当てつけに、もうこのままねむってしまおうかというように――。



「――それじゃあ、そのまま気持ちよく眠っててくださいよ」



 ふいに、どこかから聞きなれた声がして、ブリーチはがばっと起きた。
そんなはずはないだろうに、ふわふわとしたその声音こわねに、
身の危険きけんを感じたみたいに見える。



「ぼくが、自分の体を取りもどすだけですから。強引ごういんに」



 ブリーチは、声のした方へとふり返った。



 そこには――フラップがうかんでいた。
あのやわらかな赤い毛を背負せおった彼が、しかめっつらうでみながら。



「お、お前! もしかして、ホンモノのオレさまか?」

「そうですよ。ずっと眠ってましたけど、ついさっきようやく目がめたんです。
もうかれこれ、一週間以上も勝手かってしてますよね?
いったい、いつになったらぼくの体を返してくれるんですか」

 フラップは両手をこしにそえて、ふんっ! と鼻息はないきをあらげた。
そうとう頭にきているような彼の様子を見て、ブリーチはぐっと身がまえる。

「や、やるのか? ケンカだったらうけて立つぞ! ガルルル!」

 フラップは、もうひとりの自分がびくびくしているのを見て、
何を思ったのか、「はぁ~」とふかいためいきをついた。

「べつに、やりませんよ。ぼくがケンカぎらいなのは、よく知ってるでしょ?
ぼく自身じしん記憶きおくもちゃんと持ってるなら」

「そもそもお前、どうやって目覚めたんだよ」

「うーん、なんて言えばいいのか――。
キミはさっき、あの翼竜よくりゅうさんの赤ちゃんたちを見たでしょ?
その時、眠ってたぼくの意識のなかに、流れてきたんですよ」

「――なにが?」

 フラップは、ふるふると首をよこにふると、
れくさそうに頭をかいてからこう答えた。

「とぼけないでくださいよ。キミの頭にもぎったでしょう?
ぼくの、その……妹たちのすがたです」

 ブリーチは、自分にもその自覚があるようだった。
なにが? と聞きかえした時の声に、すこしとまどいがあった。

「ぼくには――というかぼくたちには、三匹のいもうとがいる。
小さいころはみんな、あの子たちにそっくりでかわいかったから」


 ワン、ワン、キャン! お兄ちゃん! ねえねえ、お兄ちゃーん!


「――まさか、そのころの思い出が刺激しげきされたから、お前が起きちゃった?」

「まあ、そういうことなんだと思います。思い出って、すごいですよね。
あの時食べた、へんな白いお菓子かしのせいでこうなっちゃいましたけど、
それも今日かぎりですね。というわけで――体、返してもらいますよ」

「ガウッ! い、言っとくけどな」ブリーチは口答くちごたえした。
「お前がこの体を取り返すってことは、オレさまが消えちゃうってことだぜ。
そ、そしたら、いまのオレはどうなる? こころは? オレはどこにいくんだ?」

「それは――」

 ここでフラップがたじろいだ。
彼にもブリーチのつらい思いが、すこしばかり伝わったようだ。

「わふぅ……そんなの――ぼくに聞かれてもこまりますよ」

「ほらこれだぁ! まったく、どうかしてるぜ」

「あ、でも――あのお菓子って、たしかしろさんが作ったものなんでしょう?
だったら、心配しんぱいすることないと思うんですよ」

「ブルルル。なんで? どうして、そう言えるんだよう……!」

 ブリーチの体は、先ほどからずっといやな寒気さむけを感じているかのように、
ぶるぶると小刻こきざみにふるえていた。
呼吸こきゅうひとつでさえ体力を消耗しょうもうしているかのように、ハァハァと、息づかいがあらい。
反対はんたいにフラップは、ブリーチのなやみならいたいほど分かるとでもいうように、
目をじてうつむきながら、しっぽをゆうらりとゆらしていた。

「しろさんの研究けんきゅうは、みんなを笑顔えがおにしてくれるもの。
だったら、あの白いお菓子のチカラで生まれたキミ自身じしんが、
ぼくたちとはべつに不幸ふこう結末けつまつをたどるようなことは、絶対ぜったいにないです」

 フラップはそこまでいうと、
ゆっくりとブリーチのそばへふわふわと近づいていき、
その両肩りょうかたに自分の手をそえた。

「そんなに消えちゃうのがこわいなら、もうしばらくぼくの体をしてあげます。
いいですか。特別とくべつなんですから、この体にケガなんかさせないでくださいね」

「えっ……いいのかそれ。マジで言ってる?」

「マジです。ワン!」

 思わぬ風のきまわしに、ブリーチはさぞ、おどろいたことだろう。

「でも、わすれないでください。ぼくはずっと見てますから」

「へ?」

「くれぐれも、みんなを大変たいへんな目にあわせないでくださいね。
あと、レンくんにさんざんイタズラしたこと、ちゃんとあやまってくださいよ」


 どこからともなく、白いけむりがたちこめてきた。
煙ははてのない暗闇くらやみをみるみるおおいつくし、
闇はすみのような黒から、雲間くもまのような白へとぬりかわっていく。

 ブリーチも、フラップも、白い闇の中へとしずかにしずんでいった――。

 *

 ――目を覚ますと、そこは空の上だった。
眼下がんかにひろがる、恐竜きょうりゅうたちのくらすゆたかな世界。

 ブリーチは一瞬、自分が空を飛んでいるのだと錯覚さっかくしたことだろう。
でも、それは違う。だれかの大きなうでにだかれているのだった。

「――くぅ~ん。オレ、どうなったんだ?」

「はっ! キミ、気がついたのか!」

 フレディの声だ。頭の上から彼の声がする。

「ああ、よかった! フラップ! レンくん、フラップが起きたぞ!」

「ホントに!? はぁ~、安心したあ」

 レンの声も聞こえる。フレディの背中せなかに乗っているのだ。

「オレ、てたのか?」

「そうだよ。今度こんどこそんでしまったのかと、ぐすんっ、心配したじゃないか。
フラップは昔から、ぐすん、あぶなっかしいから。あ、今は、ぐすっ、ブリーチか。
まったく、どうにも――ああ、もうダメだ、ガマンできない!」

 わおぉぉぉ――ん! フレディは大泣おおなきした。
その拍子ひょうしに、背中に乗っていたレンはバランスをくずして、ころちかけた。

「ちょ、ちょっと! いま泣かないでよ! ここ空! 空の上!」

 レンがよびかけるも、もうダメだった。
大泣きしたことでフレディの集中力しゅうちゅうりょく完全かんぜんにとぎれ、
体はたちまち浮力ふりょくをうしない、地上へむかってがくんと落ちはじめた。

「「「うわあああ~~~っ!!」」」

 レンと二匹のドラギィは、ひゅるひゅると回転かいてんしながら落下らっかしていった。
 
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