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〈フレドリクサス編〉
11『キミは、涙の貯水湖を見たことはあるか』②
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うさみ町を発ってから三十分くらいでしょうか。
高度七百メートル上空を飛び続けるうちに、びっしりと広がっていた住宅地も、
今や鮮やかな緑地と田園風景が多くを占めるようになりました。
それから、なだらかな山地へと突入し、しばらく深い森の上を飛び続けると、
やがて、小さな山々の中に抜きんでて背の高い山が見えてきました。
「あれが、はなもり山!」と、レンが指さしました。
「で、あの山のふもとに見えてるのが、ウワサの湖だよ」
山々の中の広大な窪地に、
やや大きめのひょうたん型の湖が、美しい青空を映して横たわっていました。
「へぇ~、キレイな湖! まあ、スカイランドほどじゃないケド」
と、フリーナがすましたように言いました。
「水辺に登山客がいるかもしれない。少し離れた森の中に降りよう!」
レンの合図で、ドラギィたちは、
湖から百メートルくらい離れた森の中へと、高度を下げていきました。
*
すんとした清涼な風が、水辺を渡って、頬を優しくをなでていきます。
物静かな湖が、雲一つない青空の美しさに見とれてしまったように、
自分も真似をして水面を真っ青に染め上げています。
幸い、レンたちの近くに人気はなく、静寂に満ちたものです。ただ、
小さな波が次々と岸辺に打ちつけて、ピチャン、ピチャン、と音を立てるのみ。
こうして見ると、怪しい生物の気配なんて、ちっとも感じられません。
しかし、レンたちのレーダーアプリは、この湖の中から、
この世界のモノではないエネルギーを探知していました。
「絶対、ヘン!」タクはアプリを見下ろして言いました。
アプリの航空画面に映る湖全体に、
ぽつぽつと大量に浮かぶ青い点、点、点……。
それは、裏世界に属する物象のありかを示す色なのですが、
まるで湖を埋めつくすばかりの点の量でした。
『この湖が、怪しい生き物をおおい隠しておるのは、確かなようじゃな』
レンのAIしろさんが、静かにつぶやいていました。
『が、珍生物の反応はないと。うーむ、これではよく分からんのう』
「なんかさ……」ジュンがポツリと言いました。
「潮っぽい香りしねぇか? この湖」
「「潮?」」レンとタクは、クンクンと辺りのニオイを嗅いでみます。
確かに、海を思わせるようなニオイです。ここは山の中なのに。
子どもたちは、とんちんかんな感じになりました。
「てことは、これって海水!?」レンが目を丸くしました。
「ねえ、フラップたちはどう感じる? これ、ホントに海水かな?」
「「「カイスイ?」」」
モルモットサイズで宙を飛んでいたドラギィたちは、
自分たちも周囲のニオイを注意深く嗅いでみましたが、
「う~ん、ぼくたちには、どうとも答えられないですよう」
「カイスイってサ、海っていう、人間界で一番デッカイ湖の水のことだよネ?」
「まあ、普通の水ではなさそうなのは、ニオイで分かるが、これがそうなのか」
フレディは波打ち際に降りると、
湖の水に手をつけて、それをペロッとなめてみました。
「うわっ、しょっぱい! 涙みたいな味だ」
子どもたちも湖の水に触れて、各々その水をなめてみました。
すると、フレディの言う通り、これはまさしく海水そのものでした。
『おぬしらは、海を見たことがないのかの?』
と、ジュンのAIしろさんが聞きました。
「うん! ぜーんぜん」フリーナが答えます。
「だって、スカイランドの外は、見渡すかぎりずーっと、雲だもん」
「へぇ~、ロマンがあるじゃんよ!」ジュンが言いました。
「でも、そしたら、いったいだれがここの水を、海水に変えちまったんだ?」
「分かんないけど」レンが言いました。
「これで真実味を帯びてきたじゃない? 謎の生物が潜んでるってハナシ」
「それでは、いよいよフレディの出番ですね。
このまんまだと、探索しようがありませんから」
「なら、まずは計画通り、こいつの出番だね」
と、レンは自分の右手首に巻いていた、白いリストバンドを示しました。
それは今回、しろさんが新たに発明した『チヂミバンド』でした。
バンドについたしろさんマークのボタンを押すだけで、
装着した者はどこでも自由にネズミサイズになれる代物です。
まあ、ほとんど前のチヂミガンと性能は、同じなのですが。
レンがこの間、銃を一丁どこかに失くしてしまったことで、
しろさんはカンカンに怒りました。
それでしろさんが、急きょ再発防止のために作ったのが、このバンドでした。
ポチッとな。
三人でチヂミバンドを起動させると、みるみるサイズが縮んでいき、
目の前に映る湖が、まるで海のように雄大に広がりゆく感覚がしました。
「ほんっと、銃よりもチョー使いやすいよな、コレ!」
と、ジュンが絶賛しました。
それから、子どもたちが各自乗ってきたドラギィの背に再び飛び乗ると、
ドラギィたちは三匹で輪になるように並びました。
「さて、これからぼくがみんなに施すのは、『水泡の術』というものだ。
ちょっと精神を集中させるから、話しかけないでくれたまえよ……」
フレディは、肉球のついた両手で、ポンッ、と合掌すると、
心の内側で何かと静かに格闘するかのようにうなりながら、力を高めました。
それから数秒後、両手を勢いよく空にむかって差し出したのです。
すると、三匹と三人の身体のまわりで、いくつもの大きな泡が発生し、
ぶくぶくと音を立てながら次々とくっつきあって大きくなり、
しまいには、一匹と一人をすっかり包みこむほどの巨大な泡になりました。
「「「おおお~~~!!」」」
子どもたちの感嘆の声が、薄い膜にさえぎられたようにくぐもります。
まるで、身体が空気みたいに、ふわふわと軽くなったようです。
泡の中はひんやりと涼しく、クーラーの聞いたカプセルに入っているかのよう。
泡の表面にゆらめく陽の光が、レンたちの身体をなめまわすように踊っています。
「じゃあ、それぞれ計画通り、すぐカメラアプリを起動できるようにしておいて」
と、タクが言いました。
「くぅ~ん。どうか、謎のだれかさんに食べられませんように」
フラップが、天をあおぎながら祈ります。
「それじゃあ、出発!」
レンのかけ声を合図に、一同は謎の海水に満ちた湖の中へ、
ジョポン、ジョポン、と、果敢に突入してゆきました。
高度七百メートル上空を飛び続けるうちに、びっしりと広がっていた住宅地も、
今や鮮やかな緑地と田園風景が多くを占めるようになりました。
それから、なだらかな山地へと突入し、しばらく深い森の上を飛び続けると、
やがて、小さな山々の中に抜きんでて背の高い山が見えてきました。
「あれが、はなもり山!」と、レンが指さしました。
「で、あの山のふもとに見えてるのが、ウワサの湖だよ」
山々の中の広大な窪地に、
やや大きめのひょうたん型の湖が、美しい青空を映して横たわっていました。
「へぇ~、キレイな湖! まあ、スカイランドほどじゃないケド」
と、フリーナがすましたように言いました。
「水辺に登山客がいるかもしれない。少し離れた森の中に降りよう!」
レンの合図で、ドラギィたちは、
湖から百メートルくらい離れた森の中へと、高度を下げていきました。
*
すんとした清涼な風が、水辺を渡って、頬を優しくをなでていきます。
物静かな湖が、雲一つない青空の美しさに見とれてしまったように、
自分も真似をして水面を真っ青に染め上げています。
幸い、レンたちの近くに人気はなく、静寂に満ちたものです。ただ、
小さな波が次々と岸辺に打ちつけて、ピチャン、ピチャン、と音を立てるのみ。
こうして見ると、怪しい生物の気配なんて、ちっとも感じられません。
しかし、レンたちのレーダーアプリは、この湖の中から、
この世界のモノではないエネルギーを探知していました。
「絶対、ヘン!」タクはアプリを見下ろして言いました。
アプリの航空画面に映る湖全体に、
ぽつぽつと大量に浮かぶ青い点、点、点……。
それは、裏世界に属する物象のありかを示す色なのですが、
まるで湖を埋めつくすばかりの点の量でした。
『この湖が、怪しい生き物をおおい隠しておるのは、確かなようじゃな』
レンのAIしろさんが、静かにつぶやいていました。
『が、珍生物の反応はないと。うーむ、これではよく分からんのう』
「なんかさ……」ジュンがポツリと言いました。
「潮っぽい香りしねぇか? この湖」
「「潮?」」レンとタクは、クンクンと辺りのニオイを嗅いでみます。
確かに、海を思わせるようなニオイです。ここは山の中なのに。
子どもたちは、とんちんかんな感じになりました。
「てことは、これって海水!?」レンが目を丸くしました。
「ねえ、フラップたちはどう感じる? これ、ホントに海水かな?」
「「「カイスイ?」」」
モルモットサイズで宙を飛んでいたドラギィたちは、
自分たちも周囲のニオイを注意深く嗅いでみましたが、
「う~ん、ぼくたちには、どうとも答えられないですよう」
「カイスイってサ、海っていう、人間界で一番デッカイ湖の水のことだよネ?」
「まあ、普通の水ではなさそうなのは、ニオイで分かるが、これがそうなのか」
フレディは波打ち際に降りると、
湖の水に手をつけて、それをペロッとなめてみました。
「うわっ、しょっぱい! 涙みたいな味だ」
子どもたちも湖の水に触れて、各々その水をなめてみました。
すると、フレディの言う通り、これはまさしく海水そのものでした。
『おぬしらは、海を見たことがないのかの?』
と、ジュンのAIしろさんが聞きました。
「うん! ぜーんぜん」フリーナが答えます。
「だって、スカイランドの外は、見渡すかぎりずーっと、雲だもん」
「へぇ~、ロマンがあるじゃんよ!」ジュンが言いました。
「でも、そしたら、いったいだれがここの水を、海水に変えちまったんだ?」
「分かんないけど」レンが言いました。
「これで真実味を帯びてきたじゃない? 謎の生物が潜んでるってハナシ」
「それでは、いよいよフレディの出番ですね。
このまんまだと、探索しようがありませんから」
「なら、まずは計画通り、こいつの出番だね」
と、レンは自分の右手首に巻いていた、白いリストバンドを示しました。
それは今回、しろさんが新たに発明した『チヂミバンド』でした。
バンドについたしろさんマークのボタンを押すだけで、
装着した者はどこでも自由にネズミサイズになれる代物です。
まあ、ほとんど前のチヂミガンと性能は、同じなのですが。
レンがこの間、銃を一丁どこかに失くしてしまったことで、
しろさんはカンカンに怒りました。
それでしろさんが、急きょ再発防止のために作ったのが、このバンドでした。
ポチッとな。
三人でチヂミバンドを起動させると、みるみるサイズが縮んでいき、
目の前に映る湖が、まるで海のように雄大に広がりゆく感覚がしました。
「ほんっと、銃よりもチョー使いやすいよな、コレ!」
と、ジュンが絶賛しました。
それから、子どもたちが各自乗ってきたドラギィの背に再び飛び乗ると、
ドラギィたちは三匹で輪になるように並びました。
「さて、これからぼくがみんなに施すのは、『水泡の術』というものだ。
ちょっと精神を集中させるから、話しかけないでくれたまえよ……」
フレディは、肉球のついた両手で、ポンッ、と合掌すると、
心の内側で何かと静かに格闘するかのようにうなりながら、力を高めました。
それから数秒後、両手を勢いよく空にむかって差し出したのです。
すると、三匹と三人の身体のまわりで、いくつもの大きな泡が発生し、
ぶくぶくと音を立てながら次々とくっつきあって大きくなり、
しまいには、一匹と一人をすっかり包みこむほどの巨大な泡になりました。
「「「おおお~~~!!」」」
子どもたちの感嘆の声が、薄い膜にさえぎられたようにくぐもります。
まるで、身体が空気みたいに、ふわふわと軽くなったようです。
泡の中はひんやりと涼しく、クーラーの聞いたカプセルに入っているかのよう。
泡の表面にゆらめく陽の光が、レンたちの身体をなめまわすように踊っています。
「じゃあ、それぞれ計画通り、すぐカメラアプリを起動できるようにしておいて」
と、タクが言いました。
「くぅ~ん。どうか、謎のだれかさんに食べられませんように」
フラップが、天をあおぎながら祈ります。
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レンのかけ声を合図に、一同は謎の海水に満ちた湖の中へ、
ジョポン、ジョポン、と、果敢に突入してゆきました。
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