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〈フロン編〉
2『ヒトの優しさには、ちゃんとお礼を言いましょう』①
しおりを挟む「フリーナ、心の準備はできましたか~?」
「ハイハーイ! いつでもやっちゃって~」
モルモットサイズになったフリーナを、
仔犬サイズのフラップが抱きかかえて、部屋の天井そばまで上昇してゆきます。
「いくぞ~。フリー、フォ――――ル!!」
「きゃああぁぁ~~、アハハハ!」
フラップがフリーナを抱えたままお尻から垂直に落下して、
床のすれすれでぴたりっ、とすん止め。
なんと二匹は、人間界にある遊園地の絶叫マシンのマネをして、遊んでいたのです。
いわゆる、二匹にとってのブームというやつです。
「ちょっとフラップ、フリーナ。あんまり騒がしくしないでよ。
母さんと父さんに感づかれたらどうするのさ」
レンは、床に腰を下ろしたまま注意をうながします。
今日はもう学校も終わって、ユカが部屋に遊びに来ていました。
「それに、なんだかふたりとも、最近なまけちゃってるんじゃない?」
隣に座っていたユカが、心配して言いました。
「ちょっと前まではしろさんのラボで、フラップは火を吹く特訓をして、
フリーナは頭がよくなる計算やパズルの問題を解いてて、
よく修行らしいことしてたのに」
「その通りだ」
ベッドの上からやってきた声の主は、フレディでした。
見ると彼は、レンのスマホの画面を指で器用にスライドしていました。
「ぼくはこうして……不満だが、
泣き虫を克服する方法を日夜探しているというのに、ふたりは遊んでばかりだ」
少しは火吹きのトレーニングや、頭の体操をするべきじゃないのかと、
彼も二匹のなまけぶりにあきれて物申すのでした。
「そういうフレディくんは、人間の文字がちゃんと読めてるんですカー?」
フリーナが再び天井まで運ばれながら、意地悪っぽく聞き返します。
「『漢字』はまだまだ学習途中だが、
『ひらがな』や『カタカナ』、それに『アルファベット』というものなら、
すでに完璧に理解できるようにはなったよ」
早い。さすがはフレディです。
彼いわく、人間の文字はスカイランドで使われる文字より、
簡単なものが多いということでした。スマホの使い方だって、
ドラギィの術にくらべたらなんの苦労もないと、以前彼は言っていました。
「レン君って、フレディにスマホを使わせてあげてるの?」ユカが聞きました。
「この子が、使ってみたいってよくせがんでいたからね。
使い方を覚えるのも、とても早かったよ」
フレディは、布団の上に置いたスマホの画面をながめながら、
悩ましげに指をあごにそえます。
「しかしまあ……人間でいう泣き虫の克服方法というのは、
ぼくにとってはどれもこれも、いささか生ぬるいように思えて仕方ない」
「たとえばどんなのがあったの?」と、フラップが聞きます。
「……泣きたくなったら、
両手をグーパーしてみるだの、別のことを考えてみるだの」
フレディは、自分の両手を閉じたり、開いたりを繰り返しながら答えます。
「すでに試してみたけど、効果は、ゼロだ……ぐすっ。
ああ、ぼくはどうして、こんなむなしいことを、ひっく、してるんだろうか……」
またはじまってしまいました。フレディの瞳に涙がたまり、
部屋の明かりの下でキラッと輝いているのが分かります。
「しょうがないやつじゃのう」
いつの間にやら、フレディのそばに白ネズミのしろさんがいました。
「どれだけ情緒不安定なんじゃ、おぬしは。
ちょっぴり切なくなるだけで泣いてしまうとは」
しろさんは、かわいい水色のトカゲを模した細長いフェルト人形を、
ベッド代わりにしてあお向けに寝転がっていました。
「ああ、それ! ぼくがユカくんからもらったものなのに」
そのトカゲの人形は、フレディ用の抱き枕なのでした。
ドラギィは、夜に寝る時にやわらかいものを抱いて寝る習性があるのです。
フラップも犬の、フリーナはヒツジのデザインのものを、
同じようにユカからプレゼントしてもらっていました。
「しろさん」ユカがたずねます。「今日はなんか、疲れてる?」
しろさんは、ふわぁ~っと深いあくびをしてから答えました。
「いやあ、新しいハイテクメカの開発が難航しておってのう。
気晴らしにラボから出てみれば、ぽわんとした顔のトカゲ人形がおったから、
つい乗っかってみたくなったのじゃ」
フレディは、自分への贈り物を勝手に使われてムスッとしながら、
両手で涙をごしごしとぬぐっていました。
「ところで、おぬしたちはどうなんじゃ?
ドラギィたちの修行も滞ったまま、
なんでも調査隊にもロクな調査依頼が来ておらんのじゃろ?」
しろさんの言う通りでした。
『なんでも調査隊』なんてものをはじめてみたはいいものの、
ドラギィたちが活躍できそうな、大変な依頼はそうあるものではないです。
調査隊にはじめて舞いこんできた依頼は、
はなもり山の湖に潜む巨大な生物を突き止めてほしいというもので、
なかなかミステリアスでスリリングな体験をしたものです。
その生物の正体は、なんと巨大なイカだったのですが、
それは、『ある人物』が秘密裏に所有していた、裏世界の生物なのでした。
「こないだなんか」レンはここまでの活動をふり返りながら答えました。
「勝手に動くゴミ袋の山の調査をしたけど、
結局、野良猫の集団が袋を転がして遊んでただけだったし。
それに先週の土曜日、古民家からただよう悪臭の正体を突き止めにいったら、
台所でおじいさんが『くさや作り』に凝ってただけってオチだったしね」
「あのニオイは……鼻が曲がるかと思いました」
と、フラップが今度は自分が天井に運ばれながら言いました。
「ところでユカちゃん」フリーナがフラップを抱きかかえながらたずねます。
「今日は、レンに渡したいものがあるとか言ってなかった?」
「あ、そうだ、そうだ。
ねえレン君。たしか今、読んでるんだよね。『闇竜と魔法少年』」
それは、レンが今夢中になって読んでいるファンタジーでした。
小説投稿サイトで連載されていたそれが、以前から文庫本で出版されはじめ、
今では全国の小学生に大人気のシリーズものになっているのです。
「レン君こないだ、すごくいいアニメを紹介してくれたでしょ?
わたし、すっかりはまっちゃって。でね、そのお礼っていうか……なんていうか」
ユカは、ちょっともじもじするような口調になって、
持ってきた手さげ袋の中から何かを取り出しました。
それは、小さなプラスチック製のパックに袋づめされた、
黒紫色の竜の横顔の形をしたバッジでした。
「わあ! グレイのピンバッジ! 先週、新発売したやつだね!」
グレイと言うのは、
『闇竜と魔法少年』の中でまさに主役になっている闇竜の名前で、
長髪のようになびく赤ワイン色のたてがみが特徴です。
「これ、わざわざ『みらい町』の書店まで行って、手に入れてくれたの?」
「うん、そう」ユカはちょっと赤くなってうなずきます。
「最後の一個になってたのをギリギリで……ね」
お礼の品に選ぶなら、レンが必ず気に入るもの。
それも人気のあるものがいいと思ったから、とユカは言いました。
「うわあ、嬉しっ! ほしかったんだ、ありがとう! 大事にするよ!」
レンは、ユカからの気持ちがつまった贈り物を、たしかに受け取りました。
嬉しくて舞い上がりそうな気持ちは、ユカもいっしょでした。
ここ最近、レンのことが急に気になりはじめて、仕方なかったのです。
ヘイ! ヘイ! 気分はスカイハァーイ♪
「うわっ、びっくりしたあ!」フレディがレンの脚まで飛びのいてきました。
レンのスマホが、陽気な着メロを鳴らしはじめたのです。
これは、電話の着メロの曲です。
「だれかな、こんないい気分の時に」
その音に、なぜか気分をぶち壊しにされるような、嫌な予感がしましたが、
レンはスマホを手に取り画面を見てみました。
「……知らない携帯番号からだ」
しろさんが言いました。
「まさか小学生に詐欺電話がかかってくることは、そうあるまい。
出てみればどうじゃ? 怪しいやつならそうそうに切ればよいしのう」
レンはうなずいて、電話に応じてみました。「もしもし?」
『やあ、ぼくだよ。いねむり坂本君。この声で分かるだろ?』
電話の主は、レンがよく知っている相手でした。
ややませたような、意地の悪い感じのする男子の声。思い当たるのは一人だけ!
「小野寺~~!」
レンが片手を握りしめてうなるのを、まわりのみんなが注目しました。
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