DRAGGY!ードラギィ!ー【フラップ編(リライト)2/18連載開始!】

Sirocos(シロコス)

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〈フロン編〉

14『ウソ発見器がほしい気持ちは、いつもある』②

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 レンとユカは、着用していた上着の内ポケットに、
ドラギィたちをこっそりと隠しながら、
雨上がりのうさみ町の住宅地を、レンの家にむかって歩いていました。
レンの上着にはフラップとフレディが、ユカの上着にはフリーナがいます。

 湿り気をふくんだ町の空気を胸に吸いこんでみると、
先ほどまで裏側の世界で体験したことが、
もうずいぶんと遠い出来事のように思えてきます。
散りゆく雲の切れ間からのぞく茜色の空が、一日の終わりを感じさせます。

でも、ドラギィたちにとっては、一日の終わりどころではないかもしれませんが。

「――静かだね、フラップたち。
そんなに深刻なことなの、オレたちに話したいことって」

 レンは、上着をそっとめくり、小声でたずねました。

「……あの、くわしいことはちゃんとお話しますから」

 フレディといっしょにポケットから頭だけを出していたフラップ。
二匹とも張りつめたような顔をしていて、まるで、
重大な出来事を前に緊張感が高まっているようでした。

「フラップとフレディ、大丈夫?」ユカが心配していました。
「フリーナは、わたしのあめ玉なめてて、いつも通りだけど」

 ユカが上着をめくると、フリーナが口にふくんだ丸いあめ玉を、
ころころと転がしている無表情な顔だけが見えました。
一見、何も心配していないように見えて、
じつはこれでも気を張っているのかもしれませんが。

「フリーナを見てたら、オレもお腹減っちゃったな。……あれ?」

 お腹をなでさすっていたレンは、ふと自分の胸を見下ろして、気づきました。
胸に着けていたはずの、闇竜グレイのバッジが外れていたのです。

「あれっ。あれれっ。ないっ! バッジがない!」

 レンが急にうろたえ出したので、
内ポケットに隠れていたフラップとフレディは、何事かと大あわて。

「おいおい、どうしたんだレンくん! 忘れ物か?」

「グレイのバッジがどうとか。
た、たしか、レンくんの好きな物語に出てくる……」

 そうです。レンがこのところずっと大切にしていた、
ユカからのプレゼントのバッジです。
レンが毎日のように胸に着けていたことを、
フラップはちゃんと知っていました。

「ユカちゃん、ゴメン!」レンは動転しながら言いました。
「さっき小野寺ともみ合った時、外れちゃったみたい。戻って探しに行かないと」

「ちょ、ちょっと待って」ユカはなんとかなだめようとしました。
「今からあそこに戻るの? 別にいいよ、そんな――」

「よくないよ! だって、その、ユカちゃんがオレにくれた――
それを無くしちゃうなんて。だっ、だめ、自分が許せない!」

「帰ったらフラップたちが大事な話をするって言ったんだよ?
わたしがあげたバッジなら、明日さがしにいけば――」

「フラップたちには、もう少し待ってもらってさ!
ああ、もう! とにかく、急がなきゃ!」

「お願いだから落ち着いて、レン君!」

 もう、せわしないの一言でした。
隠れていたフラップたちは、これ以上問題を増やされるのが嫌で、
げんなりしてしまいました。

 その時です。背後からレンの名前を呼ぶ声がしたのは。



「いたいたぁ。おーい、レン君! 探したよー!」



 レンとユカは、はっと息をのんで、来た道を振り返りました。
あのシロウ先生が、革製のバッグを携えて、
朗らかに手を振りながらこちらにむかって歩いてくるところでした。

「先生!」

 レンは、こんなタイミングでシロウ先生と遭遇したことが、
なぜだかとても不思議なことのように思えてきて、
興奮しきっていたことがウソのように大人しくその場にじっとしていました。

「なんだか僕、キミの教師みたいな呼ばれ方にもなじんじゃったな。
にしても、女の子と二人きりだなんて、ヒューヒューだねえ。
もしかして、キミのガールフレンドだったり?」

「えっ、あの、そのう……」

 レンは、心がむずがゆくなるような質問をされて、
言葉がしどろもどろになりました。

「古杉さんですよね? レン君からお話をうかがいました。
はじめまして。本田ユカです」

「こちらこそ、はじめまして。古杉志朗です。よろしくね」

 ユカは、礼儀正しくお辞儀をしながらも、
以前、レンから聞いた『赤黄青の不思議なコウモリ』の関係で、
シロウ先生に注意を払うことを忘れていませんでした。
その証拠に、今この時ユカは、愛想笑いひとつ浮かべていません。

 二人の前にやってきたシロウ先生は、
やっぱり、大人のイケメン男性らしい色香がただよっていました。
湿った風が運ぶ雨のにおいに混じって、彼の香水のにおいがすると、
レンもユカも、シロウ先生の優しい魅力にまどわされそうになります。

「そうそう、レン君。キミ、お店に忘れ物したでしょ?
ちゃんと拾っといてあげたよ」

 シロウ先生はそう言うと、自分のジーンズのポケットに右手を入れて、
何か小さなものを取り出しました。
それは、キラリと光る金製のもので、黒い竜の横顔が描かれたものでした。

 闇竜グレイの、バッジではありませんか。

「そ、それ! たしか、その、あそこに入った時には――」

 つい言いかけた時、レンはハッとしました。裏世界で落としてしまったものを、
今回の一連の事件とは無関係なはずの先生が、なぜ持っているのでしょう?
レンは、急にみぞおちが冷えこんで、思わずシロウ先生の顔を直視しました。
まさか、いやそんな、まさか……。

「……もしかして、レン君」

 シロウ先生の瞳が、怪しく光ったように見えました。
まるで、こちらの揺らいだ心境を見透かしているような――。

「な、なんですか?」

「……ちょっとだけ、勘違いしてるのかもよ」

「へ?」

「だってレン君は、お店を飛び出す時、とても急いでたんでしょ?
その後も、友達とのことでいろいろ考えることが多かっただろうし。
きっとそれで、出かけていた間もこのバッジをちゃんとつけてたって、
思いこんでたんだよ。これ、たしかにお店で拾ったものなんだ」

「………」

 言われてみたら、そんな事だろうという気がしてきました。
自分の胸のあたりなんて、たいして注意をむけていたわけでもないし、
無関係のシロウ先生が裏世界を知っていると疑いをかけるのは、
とても現実的とは思えません。出まかせを言っているようにも聞こえませんし。

「あ、あの! 拾ってくれて、ありがとうございました!」

「次からはなくしちゃダメだよ。
さしずめ、その子からもらったプレゼントなんでしょ、それ?」

「えへへ……。まあ、そうなんです」

 レンは、シロウ先生からグレイのバッジを受け取りました。

「ところでレン君。例の友達と、話はついたのかな?」

「えっ? あ、はい、まあ」

「よかったじゃない。僕のアドバイスがしっかりと効いたのかな」

「シロウ先生。オレ、いつでも待ってます。お店、これからも来てください」

「うん。そうさせてもらうよ~。キミんちのカレー、すっかりはまっちゃったし。
それじゃあね~、ばいばーい」

 シロウ先生は、来た道にむかって帰っていきました。


 一方、二人のやり取りをずっと見ていたユカは、
ひとり、物思いにふけっていました。なぜなら、
ユカにはグレイのバッジのことで、疑わしいところがあったからです。

(あのバッジ、レン君と歩道橋で会った時には、まだ胸についていたような……)


 その時、レンの上着の裏からフラップが身体をはい上がってきて、
えりの裏からポンと顔だけを出し、去り行くシロウ先生を見つめました。

「どうしたのフラップ、くすぐったいな」

「ねえ、レンくん。もしかしたらぼく、あの人のことを……」

「あの人のことを、なに?」

「……あっ、いえ。やっぱりなんでもないです。たぶん気のせいだから」

 フラップは、この時にはまだ、はっきりと言えなかったのです。
あのシロウ先生にたいして自分が感じている、奇妙な感覚のことを。


(やっぱり、ずっと前にどこかで会ったような気がするなあ。どうしてだろ?)
 
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