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〈フロン編〉
15『君とのハグは、友情と幸せの約束』②
しおりを挟むぴゅん、ぴゅーん! ぴゅーん、ぴゅんぴゅん!
赤黄青の翼が、部屋の中を上から下へ、下から上へ――
右に左にしゅるしゅるとスクリュー回転。宙返りに高速スピン。
そこらじゅうを目まぐるしく飛び回って、歓喜に酔いしれていました。
「やったぁーーっ!」「いえーーい!」「あっはははは!」
フラップ、フリーナ、フレディの三匹が、こんなにも狂ったように飛び回ったり、
諸手をあげて歓声を上げたりする理由は、たった一つだけでした。
「「「合格、合格、合格だ~~!!」」」
三匹があちこちをかすめた拍子に、
壁かけのカレンダーがパラリ、パラリと音を上げてめくれ上がり、
机のスタンドはガタガタと揺れ、枕元に置いていたアラーム時計が床に落ちました。
「レンくぅ~~ん! ぼくたち、これからもいっしょにいられますよう!」
空中で小躍りするフラップを、レンは微笑ましそうに見上げました。
心の中では、三匹と同じくらい踊り狂いたい気分でした。
不思議生物のドラギィたちと、まだ暮らせる――
そう思うだけで、天井を突き抜けて空へ舞い上がりそうです。
「みんな、よかったね! ホントっ……よかった!」
ユカがぽろぽろと嬉し涙を流していました。まるで自分のことのように。
その様子を見ていたフロン先生が、両腕を広げて一同に呼びかけました。
「さて、歓喜するのはそのくらいにしたほうがいいだろう。
ここの家主たちに聞かれるかもしれないし、家の外にも響いているからね」
合格の通告を届けてくれたフロン先生の言葉に、
フラップたちはピタリと騒ぎをやめて、すぐさま元の位置に戻りました。
それでも、抑えきれない気持ちが、
生きて暴れる風船のように三匹の身体を揺さぶって、じっとさせてくれません。
三匹は先生の目の前で、いそいそと相手を小突いたり、頬をすり寄せ合います。
「レン君の審査合格の決め手は」フロン先生は言いました。
「キミの、相手を心から思いやる懐の深さにある。
めずらしいものにたいして欲深い人間たちの中で、
キミはフラップたちが不幸な目にあわないように気遣い、
あらゆるものに常に注意を払い、フラップたちの安全を守ることを優先してきた。
心正しくまっすぐに生きる、キミのその立派な精神は、
人間の友人たちとの日常生活によく表れている。とくに、そちらのユカさんには、
優しい彼女からの厚意にいつも感謝の気持ちを忘れず、
なくしてしまった彼女からの贈りものを大急ぎで探しに行こうとするほどだ」
おそらく、グレイのバッジのことを言っているのでしょう。
レンは心臓がドクンとなって、ユカと顔を見合い、たちまち顔を赤らめました。
「極めてまっすぐな心の持ち主でないと、なかなかそうはなれないだろう。
われわれは、キミのそういう姿を一番に評価したのだよ。
おめでとう。キミはわれわれドラギィにとって、味方と言えるべき人間だ。
スクール関係者一同、キミを心から頼りにさせていただく。
――これでキミは、二度もわれわれの審査に受かったわけだな」
「「「二度も?」」」
レンとフラップたちの声がちょうど重なりました。
あんまり綺麗にハモったので、ユカが感心して開口するほどでした。
「ああ。じつを言うと今回の審査は、二度目にあたるのだよ」
フロン先生は語りました。
「一度目の審査は、フラップ、キミが彼と出会ってからまもなく執り行った。
今回と同じく五日間にわたってだ。
われわれ観測役員は、あの時すでに先回りしていたんだよ。この世界にね。
キミがあの丘でレン君とはじめて関わった時、引き離すかどうかみんな迷ったが、
レン君が他人に見つからないようにキミをここへ連れて帰る姿を見て、
少し様子を見ることにしたんだ」
「そう言えばあの日……
はじめてレンくんのお家のカレーを食べさせてもらったんですよね」
「うん。なんだかもう懐かしいね」
「それから、レン君。
キミがフラップを世間の目から守るために行動するようになったので、
急きょではあったが、審査を行われることになったんだ。
その結果は……もちろん、合格だったよ。
その時点から、キミはドラギィの保護者として、すでに正式認定されていたんだ」
「じゃあ!」フリーナが不服な顔をしました。
「今回、二度目の審査をしたのはどうして?
レンがもう合格してたんなら、また審査するなんておかしいヨ!」
「ああ、じつはね」フロン先生は、ちょっと悪びれるような態度で答えました。
「今回の審査はウソだったんだ。レン君を審査するためではなかったのだよ。
スクール側は、キミたちがなかなか修行の成果を上げないので、
ひとつそのお尻に火をつけてあげようと策を講じたんだ。
何か強い危機感を与えることで、今まで以上に修行に精を出させようとね」
それが、審査を通じてレンと別れることになる恐れを持たせることだったと、
フロン先生は明かしました。
「つまり」フラップは怒りでわなわな震えたのち、こう叫びました。
「ただのイジワルだったんですかー!?」
「ははは! いやあ、すまない。少々、悪趣味なやり方だったな。
だが、今回のことで分かってもらえただろう?
修行をサボる者があれば、われわれ観測役員が見逃さないと」
その言葉に心当たりがあるのは、フラップとフリーナでした。
二匹は先生への恨めしい気持ちと、後ろめたい気持ちに挟まれて、
むくれ面の中に悔しさをにじませていました。
「では、フロン先生。わざわざこちらにいらした理由は、いったい?」
と、フレディがたずねました。
「ああ、それはだな、今回、もう一つの審査結果を、
わたしから直接伝えるようにスクールから言い渡されてね」
もう一つの審査結果?
レンとドラギィたちは、奇妙に思いました。
今回の審査はウソだったのに、もう一つの審査とはどういうことなのでしょう?
「……その審査の対象とは、ユカさん、キミのことだ」
「えっ、わたし?」ユカはまゆ毛をピクリと上げました。
「じつを言うと、われわれは以前、ユカさんの審査も行ったのだよ。
一時期、フリーナを保護していたことがあっただろう?
その頃に、キミもドラギィの保護者として認定できるか審査をしたんだ。
結果は、ふっ……レン君とまったく同じだ。合格だったよ」
「なんで今、笑ったんですか?」と、レンはたずねました。
「いやなに、ひかれ合う者同士、合格できてよかったねと思って。
ユカさんが合格できた決め手は……まあ、それは割愛させていただこう。
これからも二人で仲よくフラップたちを助けてやってほしい」
レンとユカは、急に恥ずかしさがつのって、
おたがいの視線を避けながら、顔を真っ赤にしてもじもじしていました。
「祝福させてください!」
「アタシも! おいわいさせてー!」
フラップとフリーナは、二人の肩にとまって、しっぽをふりふり、
小さな手でパチパチパチと拍手を贈りました。
ちなみに今回、フロン先生が直接、審査結果を伝えることになったのは、
そろそろだれかが観測役員を代表し、二人のもとへ挨拶にうかがうべきだと、
レンとユカを保護者認定したスクール側が判断したからなのでした。
「フロン先生」フレディがふと、先生の名を呼びました。
「今回、こちらにお越しになった理由は、本当にこれだけですか?」
「む? どういうことかな?」
「他にもぼくたちに、お話することがおありではないかと思って。
たとえば……あの巨大な黒金魚のこととか」
「――ああ、あの奇妙な黒金魚だね。もちろん、見ていたよ」
「先生がた観測役員も、ぼくたちを常に見ていらしたのならご存じのはずです。
あれは、ぼくたちに試練を与えるために現れた生物でした。
しかも、不可解な点が多かったんです。
レンくんたちをさらいはしたものの、ぼくたちを傷つけようとする意志がなかった」
フレディ以外の全員は、彼が何を言いたいのか見当がつきませんでした。
「あの黒金魚の奇妙な態度、今思い返せば、
まるで先生……スクールの教師のようでした。
こんなことはお尋ねしたくはないのですが、もしや――」
「わたしたち観測役員が化けたのでは、と聞きたいんだね?」
フレディは緊張した面持ちで、うなずきました。
フラップとフリーナも、気になってじっと耳を傾けています。
「……フレディ」
フロン先生が、ふふっと不敵な笑みを浮かべながら、こう答えました。
「キミは昔から本当に頭がよく、想像力をめぐらせるのが得意だね。
ただ、それはいらぬ心配だよ。あれはスクール側でも予期せぬ出来事だった。
現在、われわれ観測役員は、例の黒金魚の謎を追っている。
キミたちに話せる時が来れば、話してあげよう」
フロン先生の答え方には、少し引っかかる点がありましたが、
フレディは、これ以上深く追求するのは失礼にあたると思いました。
「分かりました。ぼくからは、その、以上です……」
「うむ。では修行者の諸君。引き続き修行にはげむように」
フロン先生は、部屋の窓のほうにすぅーっと滑るように移動すると、
改めてレンとフラップたちを見渡して言いました。
「ドラギィと人間。交わらざる二つの存在。
その最初の架け橋となるのがキミたちになることを、
われわれスクール関係者一同、心から願っているよ」
すると、フロン先生の小さな輪郭が、窓のそばで霧のように薄れはじめ、
おぼろげにゆらいでいき、そして……静かに音もなく消えてしまいました。
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